「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第4部
白猫夢・暗計抄 2
麒麟を巡る話、第180話。
連合の不安。
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2.
小雪派による紅州実効支配を受け、央南連合は戦々恐々としていた。
央南連合は元々、各州間で起こる諸問題を、戦争と言う最終的・暴力的手段を使わず解決するために設立された機関である。
そのため今回のように、一つの州が不当な暴力を以て占拠・征服され、近隣州にまで危害が及ぶことなど、あってはならない事態だったからである。
「奴らの目的は黄州征服とまで聞いている。このまま看過していてはその周辺にも害が及ぶぞ」
「事実、既に西辺州や白州との境に位置する都市へも侵攻しようとしているとか」
「関係者筋からの情報だが、これはほとんど金目当ての行動らしい」
「ええ、相当の資金難にあるとのことです」
「地に落ちたな……、焔流も」
玄州、天玄の央南連合本部に集まった、紅州を除く各州の代表たちは、揃って頭を抱えていた。
この会議に、黄州の代表として出席していた明奈は、この騒動について対策を述べた。
「黄州征服と仰っていましたが、正確には黄海に逗留する、昨年暮れに離反した柊派焔流剣士らの抹殺と、彼らが本拠地から持ち出した宝物の奪還が目的のようです。
とは言え、確かに現在の彼らが金品目的に行動していることは明らかです。先程も申し上げたように、彼らは現在資金難であり、略奪しなければその体面を保てない状態に陥っているためです。
となれば彼らの侵略を止める手段は、やはりその資金難の解消にあるのではないかと」
「どうすると? まさか乱暴狼藉を繰り返す輩に、金を送れと言うのか?」
「それは論外でしょう。わたしとしても、その手段は採りたくありません。
問題をもう一段踏み込んで考えるに、その資金難は大量の剣士が失職し、浪人となって出戻ったことに一因があります。
ならば逆に、この浪人たちが紅蓮塞からいなくなれば、紅蓮塞の資金難は解消。同時に機動力を失い、これ以上の侵攻を止めることができるのではないかと」
「ふむ……」
一方で、央南連合軍の司令官が手を挙げる。
「しかし既に、我々のところで使役できるような部署は存在しない」
「ええ、存じております。さぞやお気軽に厄介払いをなさったことでしょうね。こうなることも予想されずに」
「……オホ、オホン」
ばつの悪い顔をした司令から顔を背け、明奈はこう続けた。
「私事ですけれど、我が黄州にも一時、浪人たちが多数詰めかけておりました。
しかし現在ではその浪人たちを教員とした学校を設立し、彼らの雇用安定を確立しております。その他にもわたしの有する商会で様々な雇用策を講じ、浪人があぶれるような事態はどうにか収まっています。
どうでしょう、他の州でも同じように学校など設立して、雇用口の拡大を試みては?」
「なるほど……」
「いや、しかしそれは金がかかる。よしんば設立したとして運営なり、維持ができるかどうか」
「いやいや、このまま看過していてはいずれ黄州以外にも侵攻するのは明白。その被害額や州軍、連合軍を動員する経費、実際に交戦まで事態が発展した場合の戦費や損害を考えれば、そっちの方が金銭面でも、人的・物的被害の面でも圧倒的に安く上がるはずだ」
「それも一理あるな」
「では、どうやって紅蓮塞内の浪人たちを寝返らせる? まさか向こうまで足を運び、引っ張り出すわけにもいくまい?」
これについては央南連合の現首席、三国が案を出した。
「いえ、公式に出向き、これ以上の侵攻を行わないよう話し合う機会を設けること自体については、元より考えていました。このまま連合が何も言わず、遠巻きに見つめているだけでは、状況の打開は難しいでしょう。
その合間に浪人ら、ないし彼らを説得できる人物と接触し、黄氏の案を遂行しましょう。ただ、出向いて正面から説得……、では効果は期待できないと思います。
本営は元より、集まってきた浪人たちも既に悪事に手を染めた身であるでしょうし、『もう後戻りはできない』と考え、こちらの説得に耳を貸そうとしないことは、十分に考えられますから」
三国の言葉を継ぐ形で、さらに明奈がこう述べた。
「確かにその通りです。安易な説得や、ましてや強引に連れ戻すような対応は、却って事態を悪化させかねません。
ここは彼ら自ら『本拠地を蹴ってでも話に乗りたい』と思わせるような話を持ち掛けないと」
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連合の不安。
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小雪派による紅州実効支配を受け、央南連合は戦々恐々としていた。
央南連合は元々、各州間で起こる諸問題を、戦争と言う最終的・暴力的手段を使わず解決するために設立された機関である。
そのため今回のように、一つの州が不当な暴力を以て占拠・征服され、近隣州にまで危害が及ぶことなど、あってはならない事態だったからである。
「奴らの目的は黄州征服とまで聞いている。このまま看過していてはその周辺にも害が及ぶぞ」
「事実、既に西辺州や白州との境に位置する都市へも侵攻しようとしているとか」
「関係者筋からの情報だが、これはほとんど金目当ての行動らしい」
「ええ、相当の資金難にあるとのことです」
「地に落ちたな……、焔流も」
玄州、天玄の央南連合本部に集まった、紅州を除く各州の代表たちは、揃って頭を抱えていた。
この会議に、黄州の代表として出席していた明奈は、この騒動について対策を述べた。
「黄州征服と仰っていましたが、正確には黄海に逗留する、昨年暮れに離反した柊派焔流剣士らの抹殺と、彼らが本拠地から持ち出した宝物の奪還が目的のようです。
とは言え、確かに現在の彼らが金品目的に行動していることは明らかです。先程も申し上げたように、彼らは現在資金難であり、略奪しなければその体面を保てない状態に陥っているためです。
となれば彼らの侵略を止める手段は、やはりその資金難の解消にあるのではないかと」
「どうすると? まさか乱暴狼藉を繰り返す輩に、金を送れと言うのか?」
「それは論外でしょう。わたしとしても、その手段は採りたくありません。
問題をもう一段踏み込んで考えるに、その資金難は大量の剣士が失職し、浪人となって出戻ったことに一因があります。
ならば逆に、この浪人たちが紅蓮塞からいなくなれば、紅蓮塞の資金難は解消。同時に機動力を失い、これ以上の侵攻を止めることができるのではないかと」
「ふむ……」
一方で、央南連合軍の司令官が手を挙げる。
「しかし既に、我々のところで使役できるような部署は存在しない」
「ええ、存じております。さぞやお気軽に厄介払いをなさったことでしょうね。こうなることも予想されずに」
「……オホ、オホン」
ばつの悪い顔をした司令から顔を背け、明奈はこう続けた。
「私事ですけれど、我が黄州にも一時、浪人たちが多数詰めかけておりました。
しかし現在ではその浪人たちを教員とした学校を設立し、彼らの雇用安定を確立しております。その他にもわたしの有する商会で様々な雇用策を講じ、浪人があぶれるような事態はどうにか収まっています。
どうでしょう、他の州でも同じように学校など設立して、雇用口の拡大を試みては?」
「なるほど……」
「いや、しかしそれは金がかかる。よしんば設立したとして運営なり、維持ができるかどうか」
「いやいや、このまま看過していてはいずれ黄州以外にも侵攻するのは明白。その被害額や州軍、連合軍を動員する経費、実際に交戦まで事態が発展した場合の戦費や損害を考えれば、そっちの方が金銭面でも、人的・物的被害の面でも圧倒的に安く上がるはずだ」
「それも一理あるな」
「では、どうやって紅蓮塞内の浪人たちを寝返らせる? まさか向こうまで足を運び、引っ張り出すわけにもいくまい?」
これについては央南連合の現首席、三国が案を出した。
「いえ、公式に出向き、これ以上の侵攻を行わないよう話し合う機会を設けること自体については、元より考えていました。このまま連合が何も言わず、遠巻きに見つめているだけでは、状況の打開は難しいでしょう。
その合間に浪人ら、ないし彼らを説得できる人物と接触し、黄氏の案を遂行しましょう。ただ、出向いて正面から説得……、では効果は期待できないと思います。
本営は元より、集まってきた浪人たちも既に悪事に手を染めた身であるでしょうし、『もう後戻りはできない』と考え、こちらの説得に耳を貸そうとしないことは、十分に考えられますから」
三国の言葉を継ぐ形で、さらに明奈がこう述べた。
「確かにその通りです。安易な説得や、ましてや強引に連れ戻すような対応は、却って事態を悪化させかねません。
ここは彼ら自ら『本拠地を蹴ってでも話に乗りたい』と思わせるような話を持ち掛けないと」
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