「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第4部
白猫夢・暗計抄 3
麒麟を巡る話、第181話。
馬脚を露した家元。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
央南連合は紅蓮塞に対し、これ以上の侵略行為を行わないことと、占拠した都市を解放することを要請した。
「『なお、従わない場合には実力行使もやむを得ないものとする』、……ですって? 従う義理なんか無いわよ!」
これを受けて、小雪はあからさまに不快感を示した。しかしそれを、御経が平伏してなだめる。
「いや、ここは聞き分けていただかねばなりません」
「なんでわたしが……」
「家元だからです」
「えっ?」
「我が紅蓮塞は現時点で事実上、紅州を治めているも同然の状況です。そして紅州が央南連合に属する以上、彼らとの付き合いを確立しておかねば、最悪の場合、問答無用で攻め込まれてもおかしくはないのです。
その紅蓮塞の長たる家元はもう既に、それだけのことをなさっていらっしゃるのですから」
「は? え、ちょっと待ってよ? 攻めろって言ったのは、わたしじゃないわよ」
「襲撃は家元の名において行われたこと。であればその責は、家元に帰属します」
「な、なに、それ? 知らないわよ、何を勝手なこと……」「もし責任を負いたくないと言うことであれば」
と、やり取りを眺めていた月乃がニヤ、と笑う。
「家元の座を降りていただくしかありませんね」
「なっ……」
面食らう小雪に対し、月乃が嘲るようにこう続ける。
「だってそうじゃないですか?
我々焔流剣士すべてを指導・監督する立場にある、ひいては我々の合意、総意の上に起こした行動に対する全責任を負う。家元はそう言う立場にあるはずです。
ところが『小雪さん』、あなたは責任なんか知らないと言う。じゃあ家元失格、その器じゃないってことですよ。
もっとふさわしい人間に託してもらうしかありませんねぇ……?」
「つ、きの……ッ!」
この物言いに、小雪の頭に血が上りかける。
だが――遠巻きに見つめる御経をはじめ、この場に集まった側近らの顔色を見て、小雪はぎくりとさせられた。
側近らが皆一様に、半ば呆れたような、そして半ば失望したような顔を、自分に向けていたからである。
(それが狙いか……、月乃!
わたしに難癖をつけて家元の座から引きずり降ろし、籠絡した良蔵を傀儡にして、自分がその座に成り替わろうとしているのかッ!
さ、させるものか……!)
小雪はギリギリと歯ぎしりを立てながら、こう返した。
「せ、責任はわたしが取るわよ! 取ればいいんでしょ!?
分かったわよ、御経! 央南連合と話し合いをするわ! そう返事を送りなさい!」
「御意」
ほっとした顔をして、御経はうなずいた。
それと同時に――御経は内心、これ以上無いくらいの落胆を感じていた。
(資金源が一斉に消えた時、これは紅蓮塞にとって、焔流にとって、最悪の事態になったと嘆いていたが……! この逆境はさらにまだ、一段と深く底を打つと言うのか!
今のやり取りで、拙者のみならず、皆が失望したであろう。我らが主君と仰いできたこの方が、ただの考えなしの、小心者の、そしてあの小娘の操り人形に過ぎぬ凡君、愚君であると、皆が悟ってしまったのだからな。
もはやこの先、焔小雪を塞の主軸に据えては立ち行かぬだろう。あれはもう、本当に本当の、お神輿人間だ。この先一生、あの娘は黄月乃に操られることになろう。
そんなものは――拙者の思い描いていた焔流の未来では、決して無い!)
御経はこの時、小雪に対する忠誠心を失った。
とは言え御経には範士としての、かつ、塞内の家宰役としての矜持もある。
小雪に命じられたことを反故にはせず、律儀に央南連合との交渉の場を立て、小雪、深見と共にその場へ臨むことにした。
この一件により、小雪と彼女率いる紅蓮塞は、さらに混迷の度合いを強めることになった。
そしてこの後の交渉と、その裏で行われた「取引」とが、紅蓮塞の暴走をより一層激しくさせた。
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馬脚を露した家元。
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3.
央南連合は紅蓮塞に対し、これ以上の侵略行為を行わないことと、占拠した都市を解放することを要請した。
「『なお、従わない場合には実力行使もやむを得ないものとする』、……ですって? 従う義理なんか無いわよ!」
これを受けて、小雪はあからさまに不快感を示した。しかしそれを、御経が平伏してなだめる。
「いや、ここは聞き分けていただかねばなりません」
「なんでわたしが……」
「家元だからです」
「えっ?」
「我が紅蓮塞は現時点で事実上、紅州を治めているも同然の状況です。そして紅州が央南連合に属する以上、彼らとの付き合いを確立しておかねば、最悪の場合、問答無用で攻め込まれてもおかしくはないのです。
その紅蓮塞の長たる家元はもう既に、それだけのことをなさっていらっしゃるのですから」
「は? え、ちょっと待ってよ? 攻めろって言ったのは、わたしじゃないわよ」
「襲撃は家元の名において行われたこと。であればその責は、家元に帰属します」
「な、なに、それ? 知らないわよ、何を勝手なこと……」「もし責任を負いたくないと言うことであれば」
と、やり取りを眺めていた月乃がニヤ、と笑う。
「家元の座を降りていただくしかありませんね」
「なっ……」
面食らう小雪に対し、月乃が嘲るようにこう続ける。
「だってそうじゃないですか?
我々焔流剣士すべてを指導・監督する立場にある、ひいては我々の合意、総意の上に起こした行動に対する全責任を負う。家元はそう言う立場にあるはずです。
ところが『小雪さん』、あなたは責任なんか知らないと言う。じゃあ家元失格、その器じゃないってことですよ。
もっとふさわしい人間に託してもらうしかありませんねぇ……?」
「つ、きの……ッ!」
この物言いに、小雪の頭に血が上りかける。
だが――遠巻きに見つめる御経をはじめ、この場に集まった側近らの顔色を見て、小雪はぎくりとさせられた。
側近らが皆一様に、半ば呆れたような、そして半ば失望したような顔を、自分に向けていたからである。
(それが狙いか……、月乃!
わたしに難癖をつけて家元の座から引きずり降ろし、籠絡した良蔵を傀儡にして、自分がその座に成り替わろうとしているのかッ!
さ、させるものか……!)
小雪はギリギリと歯ぎしりを立てながら、こう返した。
「せ、責任はわたしが取るわよ! 取ればいいんでしょ!?
分かったわよ、御経! 央南連合と話し合いをするわ! そう返事を送りなさい!」
「御意」
ほっとした顔をして、御経はうなずいた。
それと同時に――御経は内心、これ以上無いくらいの落胆を感じていた。
(資金源が一斉に消えた時、これは紅蓮塞にとって、焔流にとって、最悪の事態になったと嘆いていたが……! この逆境はさらにまだ、一段と深く底を打つと言うのか!
今のやり取りで、拙者のみならず、皆が失望したであろう。我らが主君と仰いできたこの方が、ただの考えなしの、小心者の、そしてあの小娘の操り人形に過ぎぬ凡君、愚君であると、皆が悟ってしまったのだからな。
もはやこの先、焔小雪を塞の主軸に据えては立ち行かぬだろう。あれはもう、本当に本当の、お神輿人間だ。この先一生、あの娘は黄月乃に操られることになろう。
そんなものは――拙者の思い描いていた焔流の未来では、決して無い!)
御経はこの時、小雪に対する忠誠心を失った。
とは言え御経には範士としての、かつ、塞内の家宰役としての矜持もある。
小雪に命じられたことを反故にはせず、律儀に央南連合との交渉の場を立て、小雪、深見と共にその場へ臨むことにした。
この一件により、小雪と彼女率いる紅蓮塞は、さらに混迷の度合いを強めることになった。
そしてこの後の交渉と、その裏で行われた「取引」とが、紅蓮塞の暴走をより一層激しくさせた。
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