黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・戦凪録 4

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    晴奈の話、第132話。
    温泉、満喫。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     一方、明奈とリストは霙子が試験を受ける間、温泉街をうろついていた。
    「おんせんっ、おんせーんっ」
     ここしばらく陰鬱に過ごしていたせいか、リストはやや躁気味に飛び跳ねている。
    「メイナは一回、ここ来てるのよね?」
    「ええ、……よくよく考えてみれば、ほんの一月ほど前なんですけどね」
    「いーなー。一ヶ月で2回も観光するって、どこのお嬢様よ」
    「……紅蓮塞は観光地ではありませんよ」
     浮かれるリストをなだめながら土産物屋を散策していると、目の前にもうもうと湯気が立ち上がってくる。どうやら温泉が、近くまで引かれているらしい。
    「わ、真っ白」
    「ケホ……、少し硫黄の匂いがしますね」
    「……ねぇねぇメイナ、ちょっと入っていかない?」
     そう言ってリストが明奈の手を引く。
    「え? ……でも、そうですね。お姉さまは3、4時間かかると言っていましたし。先に入っても、いいですよね」
     明奈も乗り気になり、二人はその湯気を噴き出す店に入っていった。

     20分後。
    「……ぐぅ」
    「リストさん、リストさん、……ダメだわ、眠っちゃった」
     温泉は非常に心地よく、疲れのたまっていたリストは湯船に入るなり、眠ってしまった。
    (起きそうにないわ……。まあ、でも。折角のんびりされているし、起こすのも悪いわね)
     明奈はリストが溺れないよう、もっと浅いところに体を引っ張る。
    (あら……? 結構、体が堅いわ。やっぱり諜報員――軍人さんだったから、鍛えているのかしら)
     腕をつまんでみると、やや少女じみた見た目に反し、意外にガッチリしている。引っ張り終えたところで自分の腕をつかんでみると――。
    (……ふにょふにょ。わたし、もう少しやせたほうがいいのかしら?)
     ちょっと気になったので、明奈は依然眠ったままのリストの体を触ってみる。
    (脚も結構細い……。何て言うか、引き締まっているわね。腰も細いし。わたしより少し小さく見えていたけれど、全体的に引き締まっているからかな?)
     眠っているのをいいことに、明奈はリストの体をあちこち調べている。
    (あれ、脚、わたしより長い? わたしの方が背、高いのに。わたし、胴長なのね……。あ、でも胸は勝ちかな、わたしの方が。顔の大きさは、……同じくらいかしら?)
     顔に手を伸ばしたところで、リストがようやく薄目を開けた。
    「むにゃ……?」
    「あっ」
     いつの間にか明奈とリストの顔は、拳一つ分くらいまで近付いていた。リストは目を見開き、二人は凍ったように静止する。
    「……」
    「……」
    「……め、メイナ? アタシ、その趣味、ないんだけど、あの……」
    「ごっ、ごめんなさい! そ、そんなつもりじゃっ」
     リストは顔を赤らめつつ、明奈の側から離れる。
    「そりゃ、まあ、メイナはキレイだし、可愛いけど、でもカノジョにはちょっと、できないし」
    「ごっ、誤解です! わたしはただ、リストさんの体、綺麗だなって」
     その一言に、リストはさらに遠ざかる。
    「ああ、そう、ありがと。でも、あの、無理だから」
    「誤解ですよ~!」
     その後、明奈は30分かけてリストの誤解を解いた。
     おかげで、二人ともゆでだこのように真っ赤になり、のぼせてしまった。

    「うあー……」「はうー……」
     浴衣姿になった二人は店の長椅子に腰かけながら、団扇をだるそうに振り、扇いでいた。
    「もぉ、バッカみたい。アンタがアホなコトするから……」
    「ごめんなさぃ」
     真っ赤になった二人を見かねて、店主が冷たい茶を持ってきてくれる。
    「お客さん、こちらどうぞ」
    「あ、ありがと」
    「すみません、ご迷惑を……」
    「いやいや。まあ、うちのお湯はわりとぬるめだけど、ついつい長風呂してのぼせちゃう人、一杯いるから。
     ……ところでお客さんたちは、旅の人?」
     明奈はゆっくりと首を振り、説明する。
    「いえ、わたしたちは姉の付き添いで。姉が紅蓮塞に入門したいと言う子を天玄から連れて行くことになったので、わたしたちもご一緒したんです」
    「へぇ、塞にねぇ……。連れて来たってことは、お姉さんもこの塞で修行したの?」
    「ええ。焔流、免許皆伝です」
     それを聞いた途端、店主の虎尾がぴょん、と立ち上がる。
    「ほうほう、そりゃまたなかなかの女傑さんだねぇ。お名前は、何て言うの?」
    「黄晴奈、と申します」
    「ん? その名前どこかで聞いたことがあるな。
     確かこの前、天玄で武勲を挙げたって言うのが、黄って女だったような? あ、天玄から来たって言うことはやっぱり、その黄さんなの?」
    「はい、そうです。姉もケガを負ったので、こちらに来たのは湯治の目的もあるんですよ」
    「へぇー」
     店主は嬉しそうに声をあげ、明奈の手を握る。
    「良かったらさ、お姉さん連れてまたウチに来てくんなよ。宣伝になるしさ」
    「え? ええ、まあ。いいお湯でしたし、姉も喜ぶと思います」
    「そーかそーか、うん。ま、よろしく頼むよ」
     店主はニコニコしながら、その場を去っていった。離れると同時に、リストが小声で明奈にささやく。
    「ねえ、メイナ。セイナ連れて来ない方がいいかも」
    「え?」
    「あのおっさん、ちょっとイヤらしい目ぇしてたわよ?」
    「そうですか?」
    「こっちに来る直前、だけどね。セイナ連れて来たらまた、一騒動あるかもよ」
     明奈は店主が去った方向をチラ、と見て「うーん……」とうなる。
    「そうですね。では、このままお暇してしまいましょう」
     リストと明奈は更衣室に戻り、素早く着替えて店を出た。
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