「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第4部
白猫夢・暗計抄 4
麒麟を巡る話、第182話。
紅蓮塞と連合の交渉。
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4.
連合と紅蓮塞との交渉は紅州と白州の境にある街、椛町で行われることとなった。
「ではまず、現在起こっている問題の確認を行い、そしてそれについて対応策を検討したいと思います」
連合主席、三国が連合側の代表となり、交渉が始められる。
「現在、紅州は武力組織、紅蓮塞がその実力を行使し、不当に支配している状態である。これが我々の見解です。相違はございますか?」
「あんた、もっと言い方ってもんが……」「家元、我々が話をしますので」
いきなり声を荒げようとした小雪を抑え、御経が応答する。
「その見解には若干の誤りがございます。
確かに現在、紅蓮塞は紅州の主要都市に対し実効支配の形をとってはおりますが、これは我々への資金供与を不当な形で打ち切った商家らに対する報復行為であります。
勿論その問題が解決し次第、即ちこれまで通り資金供給を行っていただきさえすれば、すぐにでも剣士らを撤退させ、従来通りの統治体制に戻すことを検討しております」
「資金供給を行ってもらうと言うのは紅州下の商家の方に対して、でしょうか」
「それもありますが、あなた方央南連合からの供給も考慮に入れていただきたく存じます。何しろ昨年まで、その供給額は我々の歳入の2割弱に相当しておりました故」
「なるほど。しかし我々の方から資金を融通することはしていないはずです」
こう返され、またも小雪が噛みつこうとする。
「寝言言ってんじゃないわよ!? 金送ってたのは事実……」「家元、家元」
再度それを抑え、御経が質問を返す。
「家元からの指摘があったように、我々に多額の資金を送っていたのは事実のはずですが?」
「無条件での融通はしていません。これまでの供給は央南連合軍に対する奉仕、協力の見返りとしての謝礼金であり、援助金や献金の類ではありません。有り体に言えば仕事をしていただいた分の報酬としてです。
それを踏まえた上で再度、我々からの資金を受けたいと言うことであれば、それに見合う働きができるかどうか、と言うことになります。
どんな形でももう一度軍に入り、我々の姿勢、体制の元に勤務していただく、と言う条件であれば、謝礼金の件は吝かではありませんが」
これを受け、御経と深見は揃って眉をひそめた。
一方、この言葉を今一つ理解できていない小雪は、応じようとする。
「なにゴチャゴチャ言ってんのかワケ分かんないけど、うちの剣士もう一回引き取ってくれるんなら……」「家元、家元。お待ちください」「何よ?」
深見がそれを止め、小雪に耳打ちする。
(彼らの主張は、言わば『焔流の剣士として雇う気は無い。剣を握らせることは絶対無いが、それでもよろしいか』と言うことです)
(どう言うこと?)
(現在の連合軍は銃武装を推進しております。であれば、軍に入れば否応なく銃を装備させられることになります。
軍に入れば剣士として扱われることはまず、ありませんでしょう。せいぜい最低格に毛の生えた程度の、事実上の一兵卒扱いの待遇。であれば、以前のように剣士の腕を見込んだ分を含めての豊富な謝礼金はまず、出ません。
そうなるとその額は恐らく、昨年の3分の2、いえ、2分の1にも満たないものになるかと)
(つまりわたしたちの門下をはした金で買い取ろうとしてる、ってこと?)
(平たく言えばそうなります。
こんな条件で剣士らを引き渡したことが公になれば、『紅蓮塞は身を寄せてきた剣士たちを二束三文で売り払った』とうわさを立てられるでしょう)
こう説明され、悪評に耳ざとい小雪は当然、突っぱねた。
「ふ、ふざけんじゃないわよ! そんな条件呑めるわけないじゃない!」
「なるほど」
三国は肩をすくめ、こう続けた。
「我々にはそれ以上の条件での引き受けはいたしかねます。残念ですがそれ以外の打開策を見付けなければいけませんね」
その後も何点かの提案はあったものの、互いに妥協点を見出すことができず、話し合いは一向にまとまらなかった。
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紅蓮塞と連合の交渉。
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連合と紅蓮塞との交渉は紅州と白州の境にある街、椛町で行われることとなった。
「ではまず、現在起こっている問題の確認を行い、そしてそれについて対応策を検討したいと思います」
連合主席、三国が連合側の代表となり、交渉が始められる。
「現在、紅州は武力組織、紅蓮塞がその実力を行使し、不当に支配している状態である。これが我々の見解です。相違はございますか?」
「あんた、もっと言い方ってもんが……」「家元、我々が話をしますので」
いきなり声を荒げようとした小雪を抑え、御経が応答する。
「その見解には若干の誤りがございます。
確かに現在、紅蓮塞は紅州の主要都市に対し実効支配の形をとってはおりますが、これは我々への資金供与を不当な形で打ち切った商家らに対する報復行為であります。
勿論その問題が解決し次第、即ちこれまで通り資金供給を行っていただきさえすれば、すぐにでも剣士らを撤退させ、従来通りの統治体制に戻すことを検討しております」
「資金供給を行ってもらうと言うのは紅州下の商家の方に対して、でしょうか」
「それもありますが、あなた方央南連合からの供給も考慮に入れていただきたく存じます。何しろ昨年まで、その供給額は我々の歳入の2割弱に相当しておりました故」
「なるほど。しかし我々の方から資金を融通することはしていないはずです」
こう返され、またも小雪が噛みつこうとする。
「寝言言ってんじゃないわよ!? 金送ってたのは事実……」「家元、家元」
再度それを抑え、御経が質問を返す。
「家元からの指摘があったように、我々に多額の資金を送っていたのは事実のはずですが?」
「無条件での融通はしていません。これまでの供給は央南連合軍に対する奉仕、協力の見返りとしての謝礼金であり、援助金や献金の類ではありません。有り体に言えば仕事をしていただいた分の報酬としてです。
それを踏まえた上で再度、我々からの資金を受けたいと言うことであれば、それに見合う働きができるかどうか、と言うことになります。
どんな形でももう一度軍に入り、我々の姿勢、体制の元に勤務していただく、と言う条件であれば、謝礼金の件は吝かではありませんが」
これを受け、御経と深見は揃って眉をひそめた。
一方、この言葉を今一つ理解できていない小雪は、応じようとする。
「なにゴチャゴチャ言ってんのかワケ分かんないけど、うちの剣士もう一回引き取ってくれるんなら……」「家元、家元。お待ちください」「何よ?」
深見がそれを止め、小雪に耳打ちする。
(彼らの主張は、言わば『焔流の剣士として雇う気は無い。剣を握らせることは絶対無いが、それでもよろしいか』と言うことです)
(どう言うこと?)
(現在の連合軍は銃武装を推進しております。であれば、軍に入れば否応なく銃を装備させられることになります。
軍に入れば剣士として扱われることはまず、ありませんでしょう。せいぜい最低格に毛の生えた程度の、事実上の一兵卒扱いの待遇。であれば、以前のように剣士の腕を見込んだ分を含めての豊富な謝礼金はまず、出ません。
そうなるとその額は恐らく、昨年の3分の2、いえ、2分の1にも満たないものになるかと)
(つまりわたしたちの門下をはした金で買い取ろうとしてる、ってこと?)
(平たく言えばそうなります。
こんな条件で剣士らを引き渡したことが公になれば、『紅蓮塞は身を寄せてきた剣士たちを二束三文で売り払った』とうわさを立てられるでしょう)
こう説明され、悪評に耳ざとい小雪は当然、突っぱねた。
「ふ、ふざけんじゃないわよ! そんな条件呑めるわけないじゃない!」
「なるほど」
三国は肩をすくめ、こう続けた。
「我々にはそれ以上の条件での引き受けはいたしかねます。残念ですがそれ以外の打開策を見付けなければいけませんね」
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