「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第4部
白猫夢・暗計抄 7
麒麟を巡る話、第185話。
剣士にあるまじき者。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
御経と明奈が密談を交わした翌日――これまで無理難題に近い提案をし続けてきた央南連合が突如、こんな案を出してきた。
「これまでの3日、交渉を続けて参りましたが、どちらの意にも沿わない案ばかりが出ており、まったく進展が無いまま過ぎました。
これでは互いに時間を浪費するばかりです。心苦しいですが、我々が多少、譲歩しようかと考えています」
「え?」
突然こんなことを言われ、面食らう御経らに対し、三国はこう続けた。
「やはり今回の騒動の発端において、央南連合軍が過敏に反応したことが、ここまで騒動を広げた一因であるかと思います。
軽率に措置を下し、これまで長らく関係を保ち続けてきたあなた方紅蓮塞と無理矢理に手を切ろうとし、このような結果になったこと。そのお詫びも兼ねまして」
そこで三国が言葉を切り――何故か明奈がその後を継いだ。
「央南連合軍に働きかけ、従来通りの待遇で軍に戻っていただけるよう説得しようと考えております。また、他の武力組織から戻られ、他の職に就けないでいる方につきましても、連合の方で新職を設置し、出来る限り雇用したいと考えております。
簡単に申し上げれば、従来通りの状況に可能な限り戻せるよう、我々の方で最大限努力させていただく、と言うところです」
「ふ、む……」
この案を提示され、御経は考える。
(確かに軍や新職とやらで、紅蓮塞に溢れていた浪人らを吸収してもらえるのであれば、資金難は解消される。特に軍の方は『従来通り』と言うことであれば、金も概ね元通り入ってくるようになる、……か?
しかし何故だ? これまで散々、こちらの人材を元通りに採ることを避けてきた連合が何故、今になってこんな案を、……ぬっ?)
その時、御経は確かに明奈が、自分に向かってにっこりと笑いかけて来るのを見た。
(……そう言うことか。この案に乗り浪人らを集めさせ、そして拙者ごと紅蓮塞から抜けさせようとしているのだな?)
御経はもう一度、明奈をチラ、と見る。
それに応じるかのように――明奈は御経だけに見えるよう、指で「○」を作って見せた。
(やはり、そうか……。
元々、家元にはうんざりしていたのだ。……是非も無し。乗るが吉、か)
御経は体面上、適当に質問や意見のすり合わせなどをし、その案を呑むと返答した。
そして交渉の結果、連合側が提示した案が実現し次第、紅蓮塞による紅州支配を解くことが約束された。
紅蓮塞に戻ったところで、小雪がはーっ、と疲れ切ったため息を吐いた。
「4日もうだうだ、うだうだと……。ちゃっちゃとまとめなさい、っての!」
「まあまあ、家元。これでどうにか問題は解決いたします」
「そうね。これでようやく、黄州に攻め込めるわ」
「……あの?」
ぎょっとする御経に、小雪は馬鹿にしたような目つきで、こう返した。
「振り出しに戻ったってだけじゃない。余計な問題がすっきりしたんでしょ? じゃあ元々考えてた通り、黄のところに押し入るだけじゃないの」
「お、お待ちください、家元! それでは約束が反故になってしまいます!」
「反故? 紅州解放だけでしょ? 黄州をこれからどうするかなんて、誰も話してないわよ」
「攻めれば同じことです! 攻めればまた今回のように、連合が押しかけてきますぞ!?」
「その時はその時じゃない。また今回みたいにあんたが話まとめて、黙らせりゃいいのよ」
「はい?」
御経は小雪の傍若無人な態度に怒りを覚えたが、小雪はそんな御経に目もくれず、こう言い捨てて自室に戻っていった。
「何でわたしがあんなしみったれた下衆共なんかとの約束を、まともに守らなきゃならないのよ。馬鹿馬鹿しい」
「……」
一人残された御経は――それでも小雪に聞かれないように――こうつぶやいた。
「約束も守れぬ、……と言うのか。左様な性根でよくも剣士だ、家元だなどと……ッ!
もう沢山だ。拙者、貴様のような馬鹿殿には、これ以上付き合っていられん」
4時間後――御経は浪人230名余を連れ、紅蓮塞を後にした。
@au_ringさんをフォロー
剣士にあるまじき者。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
御経と明奈が密談を交わした翌日――これまで無理難題に近い提案をし続けてきた央南連合が突如、こんな案を出してきた。
「これまでの3日、交渉を続けて参りましたが、どちらの意にも沿わない案ばかりが出ており、まったく進展が無いまま過ぎました。
これでは互いに時間を浪費するばかりです。心苦しいですが、我々が多少、譲歩しようかと考えています」
「え?」
突然こんなことを言われ、面食らう御経らに対し、三国はこう続けた。
「やはり今回の騒動の発端において、央南連合軍が過敏に反応したことが、ここまで騒動を広げた一因であるかと思います。
軽率に措置を下し、これまで長らく関係を保ち続けてきたあなた方紅蓮塞と無理矢理に手を切ろうとし、このような結果になったこと。そのお詫びも兼ねまして」
そこで三国が言葉を切り――何故か明奈がその後を継いだ。
「央南連合軍に働きかけ、従来通りの待遇で軍に戻っていただけるよう説得しようと考えております。また、他の武力組織から戻られ、他の職に就けないでいる方につきましても、連合の方で新職を設置し、出来る限り雇用したいと考えております。
簡単に申し上げれば、従来通りの状況に可能な限り戻せるよう、我々の方で最大限努力させていただく、と言うところです」
「ふ、む……」
この案を提示され、御経は考える。
(確かに軍や新職とやらで、紅蓮塞に溢れていた浪人らを吸収してもらえるのであれば、資金難は解消される。特に軍の方は『従来通り』と言うことであれば、金も概ね元通り入ってくるようになる、……か?
しかし何故だ? これまで散々、こちらの人材を元通りに採ることを避けてきた連合が何故、今になってこんな案を、……ぬっ?)
その時、御経は確かに明奈が、自分に向かってにっこりと笑いかけて来るのを見た。
(……そう言うことか。この案に乗り浪人らを集めさせ、そして拙者ごと紅蓮塞から抜けさせようとしているのだな?)
御経はもう一度、明奈をチラ、と見る。
それに応じるかのように――明奈は御経だけに見えるよう、指で「○」を作って見せた。
(やはり、そうか……。
元々、家元にはうんざりしていたのだ。……是非も無し。乗るが吉、か)
御経は体面上、適当に質問や意見のすり合わせなどをし、その案を呑むと返答した。
そして交渉の結果、連合側が提示した案が実現し次第、紅蓮塞による紅州支配を解くことが約束された。
紅蓮塞に戻ったところで、小雪がはーっ、と疲れ切ったため息を吐いた。
「4日もうだうだ、うだうだと……。ちゃっちゃとまとめなさい、っての!」
「まあまあ、家元。これでどうにか問題は解決いたします」
「そうね。これでようやく、黄州に攻め込めるわ」
「……あの?」
ぎょっとする御経に、小雪は馬鹿にしたような目つきで、こう返した。
「振り出しに戻ったってだけじゃない。余計な問題がすっきりしたんでしょ? じゃあ元々考えてた通り、黄のところに押し入るだけじゃないの」
「お、お待ちください、家元! それでは約束が反故になってしまいます!」
「反故? 紅州解放だけでしょ? 黄州をこれからどうするかなんて、誰も話してないわよ」
「攻めれば同じことです! 攻めればまた今回のように、連合が押しかけてきますぞ!?」
「その時はその時じゃない。また今回みたいにあんたが話まとめて、黙らせりゃいいのよ」
「はい?」
御経は小雪の傍若無人な態度に怒りを覚えたが、小雪はそんな御経に目もくれず、こう言い捨てて自室に戻っていった。
「何でわたしがあんなしみったれた下衆共なんかとの約束を、まともに守らなきゃならないのよ。馬鹿馬鹿しい」
「……」
一人残された御経は――それでも小雪に聞かれないように――こうつぶやいた。
「約束も守れぬ、……と言うのか。左様な性根でよくも剣士だ、家元だなどと……ッ!
もう沢山だ。拙者、貴様のような馬鹿殿には、これ以上付き合っていられん」
4時間後――御経は浪人230名余を連れ、紅蓮塞を後にした。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
まさに「君、君たらざれば、臣、臣たらず」の実例ですな。小雪ちゃん本格的に夜逃げの準備をしたほうがいいような、って、やらないんだろうなこの娘。
- #1545 ポール・ブリッツ
- URL
- 2013.02/14 20:01
- ▲EntryTop
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle
変に歪んだプライド故に。