「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第4部
白猫夢・背任抄 5
麒麟を巡る話、第191話。
不安な指揮体制。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
突然の狙撃により、明奈は重傷を負った。
心臓や頭と言った、当たれば即死するような箇所は奇跡的に外れたものの、それでも肺と肝臓を貫通する形で矢が刺さっており、病院に運ばれて即、面会謝絶となった。
「先生、母は助かるのですか……!?」
朱明は顔を真っ青にし、医師に尋ねる。
「一応、峠は越しましたが、射られた場所が場所です。魔術と薬とで、数日中にはどうにか回復できるでしょうが、それでもその間は絶対安静にしなければなりません」
「そう……ですか」
助かると聞き、朱明はほっとした顔をしたものの、晴奈には別の不安があった。
「その……、絶対安静と言うことであれば、黄家当主しての公務などは……」
「できるわけないでしょう。もっての外です」
「……でしょうな」
明奈が復帰できるまでのその数日間、晴奈が代理を務めることになったが、晴奈に経営センスや交渉力などは無いし、黄商会代表および黄海市長としての業務は、事実上の休業となった。
「とは言え数日業務を停止して傾くような街ではないからな。黄海防衛に努めれば、私の任は十分に果たせるだろう」
まだ蒼い顔を見せながらも、晴奈はそううそぶく。
しかし明奈の指示の下、密かに内偵調査を進めていた霙子たちは内心、不安を覚えていた。
(困ったわ……。姉さんには秘密にしてたから、『笠尾が小雪派の手先であり、早急に身柄を拘束しなければ』なんて言うわけにいかないし――言ったらうろたえるの、目に見えてるし――かと言って、あたしの独断で動くわけにも行かない。うかつに手を出して逃げられたら、それこそ黄海防衛と笠尾探しとで人員を割く羽目になるし。
どうしようかしら……)
チラ、と横目で御経を見たが、御経と目が合ってしまう。
(……御経さんも同じこと考えてたみたい)
カチカチと強張った態度で執務机に座る晴奈に目をやり、それから霙子は御経と同時に、はあ……、とため息をついた。
その頃、黄海郊外では――。
「笠尾です」
《ご苦労様です、笠尾錬士》
明奈の狙撃に使った弩を焼き捨てていたところに、笠尾の元に「頭巾」による連絡が入った。
《ただ、殺せなかったのは残念でしたね》
「申し訳ございません」
《いえ、まだ大丈夫です。警察部の動きも鈍いですし、実行犯は今のところ、特定できていないようです。差し当たり計画に支障は無いですし、不問としますよ。
それより、早急に次の手を打っていただきたい》
「承知いたしました。なに、後は火を点けるだけでございます。
この時のために、準備は整えておりました故」
《ありがとう、助かります》
通信を切り、それから笠尾は郊外の森へと向かう。
街を護る外壁に到達したところで、笠尾は辺りを伺う。
「……よし」
人がいないことを確認し、笠尾は地中から雑草に紛れて伸びていた導火線に火を点けた。
「さて、沙汰があるまでこの辺りで潜むとするか」
壁から離れて十数秒後、ドドド……、と言う炸裂音が立て続けに響き、外壁を粉々に打ち崩した。
この異変は、すぐに晴奈の元に報告された。
「黄代行、南西側の街壁が崩落しました!」
「なに!? 既に小雪らが到達していたと言うのか!?」
面食らう晴奈に、伝令は報告を続ける。
「いえ、まだ敵の姿はありませんが、突然崩れたとのことです。
しかし周囲に硝煙の匂いが強く残っていたこと、そして壁の街側に爆発痕があったことから、内部から爆発物によって破壊されたものと思われます」
「なんと……! では、既に黄海に敵が侵入していると言うことか」
「……姉さん」
と、報告を聞いていた霙子が渋々、手を挙げた。
「なんだ?」
「実は明奈さんからの指示で、黄派と柊派の内偵調査を行ってたんです、あたし」
「なに?」
「姉さんが代表代行である今、その内容を伝えるべきであることは明白でしたが、姉さんにとってはあまりに衝撃的なことなので、……黙っていようかとも考えていました」
「何かあったと言うのか?」
霙子は意を決し、打ち明けた。
「ええ。……まず、その爆破を行い、明奈さんを襲ったのは恐らく、笠尾です。密かにある男と通じていました」
「なんと、笠尾が……!? い、いや。
それより、『ある男』とは?」
「その男こそが今回の騒動の、すべての元凶なんです」
「誰なんだ、それは?」
「本名を篠原朔明と言い、……姉さん、あなたの道場で20年余修行してきた男です」
「……しの、はら、……だと!?」
霙子の予想通り、この時晴奈はこれ以上無いくらいの、強い衝撃を受けた様子を見せた。
白猫夢・背任抄 終
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不安な指揮体制。
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突然の狙撃により、明奈は重傷を負った。
心臓や頭と言った、当たれば即死するような箇所は奇跡的に外れたものの、それでも肺と肝臓を貫通する形で矢が刺さっており、病院に運ばれて即、面会謝絶となった。
「先生、母は助かるのですか……!?」
朱明は顔を真っ青にし、医師に尋ねる。
「一応、峠は越しましたが、射られた場所が場所です。魔術と薬とで、数日中にはどうにか回復できるでしょうが、それでもその間は絶対安静にしなければなりません」
「そう……ですか」
助かると聞き、朱明はほっとした顔をしたものの、晴奈には別の不安があった。
「その……、絶対安静と言うことであれば、黄家当主しての公務などは……」
「できるわけないでしょう。もっての外です」
「……でしょうな」
明奈が復帰できるまでのその数日間、晴奈が代理を務めることになったが、晴奈に経営センスや交渉力などは無いし、黄商会代表および黄海市長としての業務は、事実上の休業となった。
「とは言え数日業務を停止して傾くような街ではないからな。黄海防衛に努めれば、私の任は十分に果たせるだろう」
まだ蒼い顔を見せながらも、晴奈はそううそぶく。
しかし明奈の指示の下、密かに内偵調査を進めていた霙子たちは内心、不安を覚えていた。
(困ったわ……。姉さんには秘密にしてたから、『笠尾が小雪派の手先であり、早急に身柄を拘束しなければ』なんて言うわけにいかないし――言ったらうろたえるの、目に見えてるし――かと言って、あたしの独断で動くわけにも行かない。うかつに手を出して逃げられたら、それこそ黄海防衛と笠尾探しとで人員を割く羽目になるし。
どうしようかしら……)
チラ、と横目で御経を見たが、御経と目が合ってしまう。
(……御経さんも同じこと考えてたみたい)
カチカチと強張った態度で執務机に座る晴奈に目をやり、それから霙子は御経と同時に、はあ……、とため息をついた。
その頃、黄海郊外では――。
「笠尾です」
《ご苦労様です、笠尾錬士》
明奈の狙撃に使った弩を焼き捨てていたところに、笠尾の元に「頭巾」による連絡が入った。
《ただ、殺せなかったのは残念でしたね》
「申し訳ございません」
《いえ、まだ大丈夫です。警察部の動きも鈍いですし、実行犯は今のところ、特定できていないようです。差し当たり計画に支障は無いですし、不問としますよ。
それより、早急に次の手を打っていただきたい》
「承知いたしました。なに、後は火を点けるだけでございます。
この時のために、準備は整えておりました故」
《ありがとう、助かります》
通信を切り、それから笠尾は郊外の森へと向かう。
街を護る外壁に到達したところで、笠尾は辺りを伺う。
「……よし」
人がいないことを確認し、笠尾は地中から雑草に紛れて伸びていた導火線に火を点けた。
「さて、沙汰があるまでこの辺りで潜むとするか」
壁から離れて十数秒後、ドドド……、と言う炸裂音が立て続けに響き、外壁を粉々に打ち崩した。
この異変は、すぐに晴奈の元に報告された。
「黄代行、南西側の街壁が崩落しました!」
「なに!? 既に小雪らが到達していたと言うのか!?」
面食らう晴奈に、伝令は報告を続ける。
「いえ、まだ敵の姿はありませんが、突然崩れたとのことです。
しかし周囲に硝煙の匂いが強く残っていたこと、そして壁の街側に爆発痕があったことから、内部から爆発物によって破壊されたものと思われます」
「なんと……! では、既に黄海に敵が侵入していると言うことか」
「……姉さん」
と、報告を聞いていた霙子が渋々、手を挙げた。
「なんだ?」
「実は明奈さんからの指示で、黄派と柊派の内偵調査を行ってたんです、あたし」
「なに?」
「姉さんが代表代行である今、その内容を伝えるべきであることは明白でしたが、姉さんにとってはあまりに衝撃的なことなので、……黙っていようかとも考えていました」
「何かあったと言うのか?」
霙子は意を決し、打ち明けた。
「ええ。……まず、その爆破を行い、明奈さんを襲ったのは恐らく、笠尾です。密かにある男と通じていました」
「なんと、笠尾が……!? い、いや。
それより、『ある男』とは?」
「その男こそが今回の騒動の、すべての元凶なんです」
「誰なんだ、それは?」
「本名を篠原朔明と言い、……姉さん、あなたの道場で20年余修行してきた男です」
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