「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第1部
蒼天剣・縁故録 4
晴奈の話、10話目。
親子の雪解け。
4.
晴奈の戦いぶりにすっかり圧倒されてしまったらしく、仕合が終わった後も紫明は、呆然と立ち尽くしていた。
「あ、の……、父上?」
「……」
晴奈が呼びかけてもぽかんとしたまま、反応が無い。
「父上」
「……」
「……お、お父様」
「あ、……う、うむ」
ようやく我に返り、紫明は娘の顔をじっと見つめてきた。
「何だか、魂を抜かれた気分だ。まさかあれほど苛烈な戦い方を、お前がするとは」
「あれが、私の求める道なのです。私はもっともっと、道を進んで、極めたいのです」
「……そうか」
紫明はそれきり背を向け、じっとうつむいていた。
次の日になって、紫明は紅蓮塞を発った。
「家に連れ帰るのは諦めた。お前を説得するのは私でも無理だ。
まあ、その……。もしも家が恋しくなったら、その時は遠慮せず帰ってきてくれ。母さんも明奈も、心配しているからな」
「はい」
最初に会った時とはガラリと違う雰囲気の中、黄親子は別れの挨拶を交わしていた。
「それじゃ、元気でな。……風邪、引いたりするんじゃないぞ」
「はい」
そこで言葉が切れ、二人は黙々と、並んで紅蓮塞の門へ進む。
「では、父上。お元気で」
門前で晴奈が口を開いたところで、紫明がこう返した。
「……その、なんだ。応援、するからな」
「ありがとうございます、父上」
晴奈は涙が出そうになるのを、深いお辞儀でごまかした。
その一ヶ月後。
「『応援する』って、こう言うことか……」
晴奈と柊、重蔵の前には、山のような金貨と、食糧が積んであった。無論、送り主は紫明である。
一緒に送られてきた手紙には、「晴奈の健康と上達を願って 黄水産、黄金融、他黄商会一同及び、総帥・黄紫明より」としたためられていた。
「ん、まあ、お父さんの、愛じゃと思って、のう、雪さん?」
「は、はは……、そうですね、はい、ええ、もう」
晴奈は顔を真っ赤にして、頭と猫耳をクシャクシャとかき乱しながら、尻尾をいからせて叫んだ。
「恥ずかしいことをするなッ、この、クソ親父ーッ!」
ちなみにこの後、晴奈は改めて自分の故郷を訪ね、母と妹の明奈にも自分が剣士としての修行を積んでいることを自ら伝えた。
1年もの間抱えていたわだかまりが消えたことで、紅蓮祭に戻って以降、晴奈はより一層、修行に打ち込むようになった。
しかしさらにこの1年後、自分が焔流剣士の道を歩んだことがとある騒動のきっかけになるなど――この時の晴奈には、知る由も無かった。
蒼天剣・縁故録 終
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晴奈の戦いぶりにすっかり圧倒されてしまったらしく、仕合が終わった後も紫明は、呆然と立ち尽くしていた。
「あ、の……、父上?」
「……」
晴奈が呼びかけてもぽかんとしたまま、反応が無い。
「父上」
「……」
「……お、お父様」
「あ、……う、うむ」
ようやく我に返り、紫明は娘の顔をじっと見つめてきた。
「何だか、魂を抜かれた気分だ。まさかあれほど苛烈な戦い方を、お前がするとは」
「あれが、私の求める道なのです。私はもっともっと、道を進んで、極めたいのです」
「……そうか」
紫明はそれきり背を向け、じっとうつむいていた。
次の日になって、紫明は紅蓮塞を発った。
「家に連れ帰るのは諦めた。お前を説得するのは私でも無理だ。
まあ、その……。もしも家が恋しくなったら、その時は遠慮せず帰ってきてくれ。母さんも明奈も、心配しているからな」
「はい」
最初に会った時とはガラリと違う雰囲気の中、黄親子は別れの挨拶を交わしていた。
「それじゃ、元気でな。……風邪、引いたりするんじゃないぞ」
「はい」
そこで言葉が切れ、二人は黙々と、並んで紅蓮塞の門へ進む。
「では、父上。お元気で」
門前で晴奈が口を開いたところで、紫明がこう返した。
「……その、なんだ。応援、するからな」
「ありがとうございます、父上」
晴奈は涙が出そうになるのを、深いお辞儀でごまかした。
その一ヶ月後。
「『応援する』って、こう言うことか……」
晴奈と柊、重蔵の前には、山のような金貨と、食糧が積んであった。無論、送り主は紫明である。
一緒に送られてきた手紙には、「晴奈の健康と上達を願って 黄水産、黄金融、他黄商会一同及び、総帥・黄紫明より」としたためられていた。
「ん、まあ、お父さんの、愛じゃと思って、のう、雪さん?」
「は、はは……、そうですね、はい、ええ、もう」
晴奈は顔を真っ赤にして、頭と猫耳をクシャクシャとかき乱しながら、尻尾をいからせて叫んだ。
「恥ずかしいことをするなッ、この、クソ親父ーッ!」
ちなみにこの後、晴奈は改めて自分の故郷を訪ね、母と妹の明奈にも自分が剣士としての修行を積んでいることを自ら伝えた。
1年もの間抱えていたわだかまりが消えたことで、紅蓮祭に戻って以降、晴奈はより一層、修行に打ち込むようになった。
しかしさらにこの1年後、自分が焔流剣士の道を歩んだことがとある騒動のきっかけになるなど――この時の晴奈には、知る由も無かった。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
お読みいただき、ありがとうございます。
「蒼天剣」は「~録」、「火紅狐」は「~記」と言う風に、各小説ごとに末尾を統一しています。
下のコメントを書いた当時はまだ連載中だったんですね……。
時間が経つのは早いものです。
「蒼天剣」は「~録」、「火紅狐」は「~記」と言う風に、各小説ごとに末尾を統一しています。
下のコメントを書いた当時はまだ連載中だったんですね……。
時間が経つのは早いものです。
NoTitle
とりあえず、「なんとか録」ってのをひとまとまりに読んでけば読みやすい、というわけですね(^^)
それにしても500話って……頭が下がります。
それにしても500話って……頭が下がります。
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NoTitle
不幸がなんなのか、詳しくは次回。