「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第4部
白猫夢・龍息抄 2
麒麟を巡る話、第193話。
黒幕の露呈。
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2.
晴奈は霙子と信頼できる剣士――晴奈の直弟子である水越と紀伊見、柊派の関戸、そして御経を連れ、笠尾と「篠原」の捜索に乗り出した。
「笠尾錬士については、朝から姿が見えません」
「道場にも顔を出しておりませんし、他の錬士や門下生らも見ていないとのことです」
水越らの報告に続き、御経が手を挙げた。
「ただ、『篠原』に関してはいつも通り朝稽古に出ておりましたし、仕事先の事務所にも普通に出勤していたとか。もっとも我々が動いてからすぐ、姿を消したとのことです」
「ふてぶてしい奴め……! ばれていないと思っていたらしい」
苦々しく吐き捨てる水越に対し、関戸がつぶやく。
「しかしまだ信じられないぜ……。まさかあの人が、悪名高き『魔剣』篠原の息子だったとはなぁ」
「ええ、あたしも実際に刀を交えるまで気付かなかったもの」
そう返した霙子に、水越が「ああ……」と納得したような声を出す。
「そう言えば藤川範士は、あの交流戦で戦ってらっしゃったんですね」
「ええ。その時にちょっとね、『あれっ?』と思うことがあったのよ」
「と言うと?」
「その前の、あいつが笠尾と戦ってた時は、見ていて惚れ惚れするくらいに最小動作での反撃一太刀で――それこそあの伝説通りの、『魔剣』と言ってもいいくらいの動きで――試合をすぱっと終わらせたくせに、あたしと戦った時はこれでもかってくらいに猛然と打ち込んできたわよね」
「ええ」
「その仕掛け方が、まるで『あたしの何らかの切り札を持っていると仮定し、それを警戒したような』打ち込み方だったのよ」
婉曲的な言葉に、錬士らが首をかしげた。
「と言うと?」
「そいつの親とあたしの親は、かつて『三傑』とうたわれた剣豪同士なのよ。その評判を聞いてたんでしょうね。そしてその、切り札も」
「……え、じゃあ藤川範士の親御さんって、……『霊剣』ですか!?」
「あら、言ってなかったっけ?」
「聞いてないっスよぉ」
「まあ、そう言うことなのよ。
……『三傑』の子供同士であったが故の警戒。それが今回の事件の『裏』を露呈するきっかけになった、ってわけ。
ちなみに残念ながら、あたしは父の『霊剣』を会得できなかったわ。あたしは、普通の剣士」
「ふむ……。ところで黄」
と、御経が晴奈を呼び止める。
「どうした?」
「闇雲に回っているように感じられるが、何か当てはあるのか?」
「一応はな」
「ほう。それは一体?」
尋ねた御経に、晴奈は郊外の丘を指差した。
「街壁が崩されたと言っていただろう? しかし小雪らが来るにはまだ、2日か3日は間があるはずだ。
だと言うのに今日、早々と壁を崩した理由が分からぬ。来ると同時に崩せば機が合うだろうし、うかつに事を起こせば州軍がすぐ対応に回ることは明白。
これくらいのことは、多少知恵が利く者ならすぐ想定できるはず。だが今日崩したのは、何故だ?」
「ふむ……」
「私の読みが正しければ、『篠原』は何かもう一つ仕掛けを施し、防御を徹底的に無力化させるつもりなのだろう。
それを自分でやるか、笠尾に命じるかは分からぬが、どちらにしても自分から行かねば、仕掛けを施すことはできまい」
「なるほど。策を実行するその時、二人のどちらかがいるはず、と言うことか」
晴奈の予想に従い、一行は郊外の、壁が崩れた現場に向かった。
そして晴奈の予想通り――いや、予想より悪い事態がそこにあった。
「ぐ……あ……っ」
「はぁ、はぁ、はっ……」
壁の補修作業を行っていたらしい兵士たちが数名、血まみれになって倒れている。
そしてその中心に笠尾と、清滝がいた。
「まさか二人同時に、ここにいるとは思わなかったが……、ともかく、こちらがやることは変わらぬ」
晴奈は二人の前に立ちはだかり、刀を抜いた。
「観念してもらうぞ、笠尾松寿。……そして清滝、いや、篠原朔明ッ!」
真の名を呼ばれ、清滝はにや……、と薄ら笑いを浮かべた。
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黒幕の露呈。
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晴奈は霙子と信頼できる剣士――晴奈の直弟子である水越と紀伊見、柊派の関戸、そして御経を連れ、笠尾と「篠原」の捜索に乗り出した。
「笠尾錬士については、朝から姿が見えません」
「道場にも顔を出しておりませんし、他の錬士や門下生らも見ていないとのことです」
水越らの報告に続き、御経が手を挙げた。
「ただ、『篠原』に関してはいつも通り朝稽古に出ておりましたし、仕事先の事務所にも普通に出勤していたとか。もっとも我々が動いてからすぐ、姿を消したとのことです」
「ふてぶてしい奴め……! ばれていないと思っていたらしい」
苦々しく吐き捨てる水越に対し、関戸がつぶやく。
「しかしまだ信じられないぜ……。まさかあの人が、悪名高き『魔剣』篠原の息子だったとはなぁ」
「ええ、あたしも実際に刀を交えるまで気付かなかったもの」
そう返した霙子に、水越が「ああ……」と納得したような声を出す。
「そう言えば藤川範士は、あの交流戦で戦ってらっしゃったんですね」
「ええ。その時にちょっとね、『あれっ?』と思うことがあったのよ」
「と言うと?」
「その前の、あいつが笠尾と戦ってた時は、見ていて惚れ惚れするくらいに最小動作での反撃一太刀で――それこそあの伝説通りの、『魔剣』と言ってもいいくらいの動きで――試合をすぱっと終わらせたくせに、あたしと戦った時はこれでもかってくらいに猛然と打ち込んできたわよね」
「ええ」
「その仕掛け方が、まるで『あたしの何らかの切り札を持っていると仮定し、それを警戒したような』打ち込み方だったのよ」
婉曲的な言葉に、錬士らが首をかしげた。
「と言うと?」
「そいつの親とあたしの親は、かつて『三傑』とうたわれた剣豪同士なのよ。その評判を聞いてたんでしょうね。そしてその、切り札も」
「……え、じゃあ藤川範士の親御さんって、……『霊剣』ですか!?」
「あら、言ってなかったっけ?」
「聞いてないっスよぉ」
「まあ、そう言うことなのよ。
……『三傑』の子供同士であったが故の警戒。それが今回の事件の『裏』を露呈するきっかけになった、ってわけ。
ちなみに残念ながら、あたしは父の『霊剣』を会得できなかったわ。あたしは、普通の剣士」
「ふむ……。ところで黄」
と、御経が晴奈を呼び止める。
「どうした?」
「闇雲に回っているように感じられるが、何か当てはあるのか?」
「一応はな」
「ほう。それは一体?」
尋ねた御経に、晴奈は郊外の丘を指差した。
「街壁が崩されたと言っていただろう? しかし小雪らが来るにはまだ、2日か3日は間があるはずだ。
だと言うのに今日、早々と壁を崩した理由が分からぬ。来ると同時に崩せば機が合うだろうし、うかつに事を起こせば州軍がすぐ対応に回ることは明白。
これくらいのことは、多少知恵が利く者ならすぐ想定できるはず。だが今日崩したのは、何故だ?」
「ふむ……」
「私の読みが正しければ、『篠原』は何かもう一つ仕掛けを施し、防御を徹底的に無力化させるつもりなのだろう。
それを自分でやるか、笠尾に命じるかは分からぬが、どちらにしても自分から行かねば、仕掛けを施すことはできまい」
「なるほど。策を実行するその時、二人のどちらかがいるはず、と言うことか」
晴奈の予想に従い、一行は郊外の、壁が崩れた現場に向かった。
そして晴奈の予想通り――いや、予想より悪い事態がそこにあった。
「ぐ……あ……っ」
「はぁ、はぁ、はっ……」
壁の補修作業を行っていたらしい兵士たちが数名、血まみれになって倒れている。
そしてその中心に笠尾と、清滝がいた。
「まさか二人同時に、ここにいるとは思わなかったが……、ともかく、こちらがやることは変わらぬ」
晴奈は二人の前に立ちはだかり、刀を抜いた。
「観念してもらうぞ、笠尾松寿。……そして清滝、いや、篠原朔明ッ!」
真の名を呼ばれ、清滝はにや……、と薄ら笑いを浮かべた。
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