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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第4部

    白猫夢・龍息抄 3

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    麒麟を巡る話、第194話。
    壁際での攻防。

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    3.
     清滝――いや、篠原朔明は晴奈と対峙し、こう尋ねた。
    「私の本名まで分かってらっしゃると言うことは……、我々の計画は、ほとんど発覚していると言う認識でよろしいでしょうか?」
    「無論だ。此度の騒動、貴様がすべて裏で手を引いていたこと、既に割れている」
    「なるほど、なるほど。では我々の目的もご存知でしょうね」
    「私と、焔流に対する復讐だな」
    「ええ、その通りです」
     朔明は刀を抜き、晴奈に向けて構える。
    「本名をご存じであるならば、私の恨みも分かっておいででしょうね。
     この時を待っておりましたよ、黄晴奈」
    「勝てると思うのか」
    「勝てますとも」
     朔明の言葉に、晴奈の後ろにいた一行も刀を構える。
    「この人数相手でもかッ!」
    「人数? ……くくく、なるほど、なるほど」
    「何がおかしいのよ?」
     苛立った声を立てる霙子に、朔明はこう返す。
    「恐らく2対6、とお思いなのでしょうな。ここには私と、笠尾しかいないと」
    「違うとでも?」
    「ええ」
     朔明がそう答えた次の瞬間――崩れた壁の向こうから、武装した者たちがぞろぞろと現れた。
    「……!?」
     それは紛れも無く、紅蓮塞に集まっていた浪人たちだった。
    「2対6ではないのですよ。ざっと……、50対6と言うところでしょうか」
    「な、……何故だ!? 小雪派が到着するまで、少なくとも後2日はかかるはず……!?」
    「簡単なことですよ」
     50人の味方を背にした朔明が、にやにやと笑う。
    「州境で目撃されたのは確かに焔小雪率いる本隊でしょうが、それより2日早く、別に動かしていたのですよ。『州境に敵の姿あり』と報せられ、そこを注視する者はいても、その目的地にわざわざ目を配るような者はいませんからね。
     完全に虚を突くことができたようですな、くくく……」
    「くっ……」
     いくら精鋭の剣士が揃っていたとしても、50対6では戦うどころではない。
    「……退くぞ! 体勢を立て直す!」
    「逃がすものですか! 笠尾ッ!」
     朔明は笠尾に命じ、背後の浪人たちを扇動させた。
    「殺せ! 相手はあの黄晴奈だ! 我が本家焔流を貶めた、憎き逆賊だぞッ!」
    「おうッ!」
     浪人たちは刀を振り上げ、晴奈たちに襲い掛かってきた。

     晴奈たちは逃げようと試みたが、50名を相手にそうそう逃げおおせるものではない。
     即座に囲まれ、窮地に陥った。
    「ぐ……!」
    「ふふふ……、黄範士、いや、黄晴奈!
     私はこの時を、四半世紀以上も待った! こうして貴様を、血祭りにあげるのをな……!」
     包囲の外から、朔明の勝ち誇った声が響いてくる。
    「今は浪人に身をやつしたとは言え、彼らは軍で鍛えた精鋭揃いだ! 手練れ5名といえど、突破などできるはずも無い! ここで全員、刀の錆にしてくれるわ!」
     笠尾の高笑いも聞こえてくる。
    「5人……?」
     尋ねた霙子に、またも顔を見せず、朔明が返す。
    「1人、役立たずがいるはずですよ。
     そう、剣士と名乗っておきながら、『人を斬ることなどとてもできない』などと臆病風に吹かれた老猫が一匹……」
    「私のことか?」
     晴奈が応じる。
    「他に『猫』が?」
    「少なくとも、無闇やたらに刀を振るう粗忽者ではないな」
    「私共の方ではそれを『臆病者』と呼んでいますがね。
     調べましたが……、あなたは日上戦争以降、あの『蒼天剣』を床の間に飾ったまま、一度も抜いていない。
     口では『刀を置かない』とか『生涯、剣士でいる』とか言っておいて、あなたはもう20年以上、まともに刀を握っていないはずだ。
     そんな臆病者が、我々の敵であるはずは無い。……とは言え」
     朔明は依然として奥に引っ込んだまま、こう付け加えた。
    「この一大計画の結果如何にかかわらず、黄晴奈、お前は殺すと決めていた!
     今が臆病者だろうが老いぼれだろうが、どんな形であろうとお前を殺さなければ、私の復讐は完成しない。
     さあ、袋叩きにしてしまえ!」
     朔明に続き、笠尾が浪人たちに命じる。
    「やれッ!」
     その号令に応じ、浪人らが刀を一斉に、晴奈たちに向けた。

     だが――晴奈たち6人は、笑っていた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    全盛期ならいざ知らず、
    50超えたおばちゃんに50人斬りを要求するのは、
    ちょっと酷かなー、と(´・ω・)

    加えて、次の話での展開に触れますが、
    集まってきた浪人たちは元々、晴奈たちの同門。
    問答無用で切り捨てるには忍びなかったと思います。
    もっとも同門とは言え、篠原たちは完全に敵ですが。

    きっとこっちの展開の方がかっこいいですよ。

    NoTitle 

    蒼天剣での晴奈さんのあれほどの強さを見たものにとっては「なーんだ、50人か」と思えてしまうのがつらいところ(笑)

    というより、「逃げる」という発想自体のほうが理解しがたかったりして(^^;)

    「北斗の拳」でケンシロウが逃げるみたいなもんですからねえ。
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