「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第4部
白猫夢・龍息抄 4
麒麟を巡る話、第195話。
晴奈の一喝。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
「……くく」
晴奈のクスクスと笑う声が、その殺伐とした場に響く。
「何がおかしいんです? 最早これまでと諦めましたか?」
「はは……。いいや、馬鹿な奴らだ、と呆れたのだ」
「何ですって?」
「ええ、そうね。おかしくてたまらない」
霙子が同意する。
「左様。斯様な光景、滑稽この上なし」
御経もうなずく。
「何がおかしい! ……と聞いているんです」
上ずった朔明の声に、関戸と水越が答える。
「剣士云々を偉そうに高説しやがったが、肝心のお前はどこにいる?」
「黄先生に関係ない奴らをわんさか集めてけしかけておいて、本気で恨んでるはずのお前が何故、前に出ようとしない?」
それに、紀伊見が続く。
「それで誇りある剣士のつもりだと言うの? ええ、おかしいことよ。笑わずにいられるものですか」
「……」
答えない朔明らに、そして自分たちを囲んでいる者たちに、晴奈が怒鳴った。
「篠原! そして笠尾! 貴様らは剣士の風上にもおけぬ、ただの大馬鹿者だ!
ことごとく他人を利用し、踏み台にし、そしてそのまま蹴落とそうとする、腐り切ったその性根! 人を導く立場にありながら、土壇場で他者をけしかけ、自分たちだけは安全な場所に避難するその卑怯振り!
貴様ら二人、いい加減に恥と言う言葉を覚えたらどうだ!?」
そして晴奈の叱咤は、浪人たちにも及ぶ。
「そもそもだ! お前たちもいい加減、目を覚ましたらどうだッ! この期に及んでまだ、そんなろくでなしの口車に乗せられたまま、漫然と人を斬ろうと、ぼんやりとしたまま殺人を犯そうとするつもりかッ!?
そんな体たらくでまだ、お前たちは剣士のつもりでいるのか!? 自分自身を省みろッ! 今のお前たちは自分が世間に誇れる剣士だと、胸を張ってそう言えるのかッ!
どいつもこいつも――いい加減、目を覚ませーッ!」
晴奈の怒りの声が、その場にこだました。
晴奈の一喝が、相当に効いたらしい。
「……っ」
晴奈たちを囲んでいた浪人たちが、一人、また一人と刀を下ろす。
「おい! 何をしている!?」
「さっさと殺さんか!」
騒ぐ朔明らに対し、浪人たちは何も言わず、目だけを向ける。
「……」
「な、何だ、その眼は? 何か文句があるのか?」
「……」
浪人たちは何も言わないまま、包囲を解いた。
「お、おい!?」
「……」
完全にばらけた浪人たちを、朔明たちは慌てた様子でなじる。
「ま、待て! 敵の口車に乗る奴があるか! そんな浮ついた性根だから……」「黙れ、篠原」
晴奈が再び一喝し、そして立ち尽くした浪人たちに声をかける。
「……お前たち、もう何もしなくていい。そこで立っているだけでいい。じっとしていて、いいからな。
こいつを片付け次第、私が何とか職を世話してやる。だからこれ以上、罪を重ねるな」
浪人たちが離れ、ようやく姿を現した朔明たちに、晴奈たちが近付く。
「か、片付けるだと? できるはずが無い!」
「何故だ?」
「笠尾は紅蓮塞で指折りの剣豪! そして私も、伊達に範士と呼ばれていない!
その反面、そちらはお荷物を一人抱えている状態だ! 負ける要素がどこにあると!?」
「私を見誤っているようだがな、篠原」
晴奈が刀を抜き、その切っ先で朔明を指す。
「平和な世で刀を抜く必要が無かったからこそ、私は刀を置いていただけのこと。その平和を乱す狼藉者があれば、私には抜く覚悟がある。
今がその時だ」
「う……」
朔明は絶句し、後ずさる。
その前に笠尾が立ちはだかり、晴奈に刀を向ける。
「さ、させんぞ!」
「こっちの台詞だ、馬鹿野郎」
その笠尾を、関戸と水越、紀伊見が囲む。
「邪魔させるかよ。てめえは俺たちが相手してやる」
「ぐぬ……っ」
「任せた」
晴奈は彼らを避け、改めて朔明と対峙した。
「行くぞ、篠原」
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晴奈の一喝。
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「……くく」
晴奈のクスクスと笑う声が、その殺伐とした場に響く。
「何がおかしいんです? 最早これまでと諦めましたか?」
「はは……。いいや、馬鹿な奴らだ、と呆れたのだ」
「何ですって?」
「ええ、そうね。おかしくてたまらない」
霙子が同意する。
「左様。斯様な光景、滑稽この上なし」
御経もうなずく。
「何がおかしい! ……と聞いているんです」
上ずった朔明の声に、関戸と水越が答える。
「剣士云々を偉そうに高説しやがったが、肝心のお前はどこにいる?」
「黄先生に関係ない奴らをわんさか集めてけしかけておいて、本気で恨んでるはずのお前が何故、前に出ようとしない?」
それに、紀伊見が続く。
「それで誇りある剣士のつもりだと言うの? ええ、おかしいことよ。笑わずにいられるものですか」
「……」
答えない朔明らに、そして自分たちを囲んでいる者たちに、晴奈が怒鳴った。
「篠原! そして笠尾! 貴様らは剣士の風上にもおけぬ、ただの大馬鹿者だ!
ことごとく他人を利用し、踏み台にし、そしてそのまま蹴落とそうとする、腐り切ったその性根! 人を導く立場にありながら、土壇場で他者をけしかけ、自分たちだけは安全な場所に避難するその卑怯振り!
貴様ら二人、いい加減に恥と言う言葉を覚えたらどうだ!?」
そして晴奈の叱咤は、浪人たちにも及ぶ。
「そもそもだ! お前たちもいい加減、目を覚ましたらどうだッ! この期に及んでまだ、そんなろくでなしの口車に乗せられたまま、漫然と人を斬ろうと、ぼんやりとしたまま殺人を犯そうとするつもりかッ!?
そんな体たらくでまだ、お前たちは剣士のつもりでいるのか!? 自分自身を省みろッ! 今のお前たちは自分が世間に誇れる剣士だと、胸を張ってそう言えるのかッ!
どいつもこいつも――いい加減、目を覚ませーッ!」
晴奈の怒りの声が、その場にこだました。
晴奈の一喝が、相当に効いたらしい。
「……っ」
晴奈たちを囲んでいた浪人たちが、一人、また一人と刀を下ろす。
「おい! 何をしている!?」
「さっさと殺さんか!」
騒ぐ朔明らに対し、浪人たちは何も言わず、目だけを向ける。
「……」
「な、何だ、その眼は? 何か文句があるのか?」
「……」
浪人たちは何も言わないまま、包囲を解いた。
「お、おい!?」
「……」
完全にばらけた浪人たちを、朔明たちは慌てた様子でなじる。
「ま、待て! 敵の口車に乗る奴があるか! そんな浮ついた性根だから……」「黙れ、篠原」
晴奈が再び一喝し、そして立ち尽くした浪人たちに声をかける。
「……お前たち、もう何もしなくていい。そこで立っているだけでいい。じっとしていて、いいからな。
こいつを片付け次第、私が何とか職を世話してやる。だからこれ以上、罪を重ねるな」
浪人たちが離れ、ようやく姿を現した朔明たちに、晴奈たちが近付く。
「か、片付けるだと? できるはずが無い!」
「何故だ?」
「笠尾は紅蓮塞で指折りの剣豪! そして私も、伊達に範士と呼ばれていない!
その反面、そちらはお荷物を一人抱えている状態だ! 負ける要素がどこにあると!?」
「私を見誤っているようだがな、篠原」
晴奈が刀を抜き、その切っ先で朔明を指す。
「平和な世で刀を抜く必要が無かったからこそ、私は刀を置いていただけのこと。その平和を乱す狼藉者があれば、私には抜く覚悟がある。
今がその時だ」
「う……」
朔明は絶句し、後ずさる。
その前に笠尾が立ちはだかり、晴奈に刀を向ける。
「さ、させんぞ!」
「こっちの台詞だ、馬鹿野郎」
その笠尾を、関戸と水越、紀伊見が囲む。
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