黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・戦凪録 6

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    晴奈の話、第134話。
    黒炎教団の動向。

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    6.
     一方、黒炎教団の陣営。
    「いてててて……」
     ウィルバーは杖をつきながら、ヨタヨタとした足取りで回廊を進んでいる。
    「勘弁してくれよ、叔父貴」
     ブツブツと文句を言いながら、体の痛みを紛らわしている。
     天原の隠れ家で負った大ケガ自体は、教団の魔術である程度は回復している。だが、魔術ではせいぜい傷ついた体を修復するのが限界である。失血や疲労までは回復できないため、十数日を経た今も、本調子とは行かない。
     そのため、杖が無いと歩けないほどの倦怠感が今なお、彼の体中にまとわり付いている。
     だが叔父であるワルラス卿からの呼び出しを受けたため、ウィルバーは仕方無く、体を引きずるようにして彼の元へと向かっていた。

     ワルラス卿は黒鳥宮の中心にある議事堂で、高位の教団員たちを集めていた。
    「ただいま参りました、ワルラス台下」
    「遅いぞ、ウィル。……何だ、その杖は。老人ではあるまいし、そんなものは捨てておけ」
     議長席に座っていたワルラスがウィルバーを見るなり、小馬鹿にしたように吐き捨てる。
    「……分かりました」
     叔父であり、上司に当たるワルラスの言葉とあっては、従わざるを得ない。
     杖を側にいた下の者に渡し、フラフラと席についた。
    「少しばかりケガをしたくらいで、その体たらくか。僧兵ともあろう者が、何と言うざまだ。お前などよりそこいらの尼僧の方が、よほど鍛えていると言うものだ」
     その辛辣な言葉をぶつけられ、ウィルバーの額に青筋が浮かぶ。周りの者も、同情するような目でウィルバーを見ている。
     天玄でウィルバーが壮絶な戦いを重ねた末に重傷を負ったことも、味方であったはずの天原が裏切り、教団員たちに危害を加えようとしたことも、ワルラスは知っているはずなのだ。
     しかしそれ故に、ワルラスは苛立っているのだろう――腹心が裏切ったこと、さらに裏をかかれたこと、そしてそれらの責を兄であるウィリアム教主に問われたことが、現場責任者であったウィルバーへのいじめの動機となっていることは明白だった。
    「大体貴様はだな、普段から素行に問題が……」
     ねちねちとべたつくような嫌味が、その会議の始まりとなった。



     そうして2時間を予定されていた会議のほとんどをウィルバーへの陰湿な叱責に費やしたところで、ようやく非難がやんだ。
    「……と、前回の作戦についての反省はこの辺にしておこうか。
     天玄、そして黄海における教化計画は、天原同志の裏切りとウィルバー僧兵長、の、現場判断ミスで頓挫してしまった。
     これで当面、央南に大きな影響を与えるこの二都市に対する政治的、実地的な面での布教活動を行うことは不可能になった。今後はこれに代替できる教化計画を考えていかなければならない。
     そこで私は、次の計画を提案する。現在中立の立場を執っている央南西部の各町村と連携を取り、前述の二都市を陸の面で封鎖する。この計画が成功すれば、我々の最大の敵である焔流の本拠地、紅蓮塞に対しても州規模での封鎖を行うことが可能になり、政治的にも兵站的にも孤立させることできるはずだ。
     詳しい計画は追って連絡する。他に質問が無ければ、これで会議を終了する」
     そう言って、ワルラスは席を立った。
     質問する間も無く、「会議」と名のついたワルラスの所信表明は終わった。

     ワルラスが去ったところで、杖を渡されていた僧侶がウィルバーに近付く。
    「僧兵長、お体は大丈夫ですか?」
    「……ん、ああ。まあ、痛いっちゃ痛いけどな」
     ウィルバーは杖を受け取り、ヨロヨロと立ち上がる。
    「お前らに心配されるほど、ボロボロじゃねーんだ。気にすんな」
    「そうですか。……あの、僧兵長」
    「あ?」
     ウィルバーは気だるい声を出しながら、呼び止めた僧侶に向き直る。
    「台下のお言葉とは言え、あんまりですよね。私どもは、僧兵長の潔白を……」「いーよ、んなこたぁ」
     ウィルバーは僧侶の額を指で弾き、こう吐き捨てる。
    「オレがヘマしたってのは事実だ。それはお偉いさんに責める隙を与えちまったってコトでもある。こんなもん、ある意味自業自得なんだ。
     変な同情なんか、すんな」
     ウィルバーはそのまま背中を向け、議事堂を後にした。



     ウィルバーはふたたび回廊を進み、自分の部屋へと戻ろうとする。
     と、その途中で黒いコートを着た、髪も肌も真っ黒な男とすれ違う。
    「……随分な風体だな」
     男はすれ違う直前、ウィルバーに声をかけた。
    「何か問題でもあるのか?」
    「無い。単に見苦しいだけだ」
    「ほっとけ、炭野郎」
    「……フン」
     男はそれ以上何も言わず、通り去っていった。

     真っ黒な男はまるで影のように、音も無く黒鳥宮の中を歩き回る。
     その希薄な存在感に、横をすれ違う者は誰も、彼の存在に気付かない。時折振り返る者もあるが、男が反応しないため、それ以上の行動に出ることは無い。
     男は黒鳥宮の最北へと進み、ウィルソン家が住まう屋敷に入り込む。
    「……こっちか」
     無音で階段を上がり、誰にもとがめられること無く、廊下をうろつく。そして目的の部屋を見つけ、ノックもせずに中へと入り込む。
    「……」
     そのまま静かに扉を閉め、中でしきりに筆を走らせているワルラスの背中を眺める。
    「クク、ククク……」
     ワルラスの、半ば怒りが混じった笑い声が部屋に響き渡っている。
    「こうなれば掃討戦だ……。私自らが動き、戦況を覆してみせる!
     見ていろ、ボンクラどもめ! 真の知性とは何か、この私が直々に教えてやろうではないか……!」
     あまりに偏執的な独り言に、男は呆れた声でつぶやいた。
    「まるで幼児の夢想だな。現実を見ろ、狂犬」
    「なッ……!? だ、誰だッ!」
     ワルラスは驚き、椅子越しに振り返る。
     しかし、そこには既に誰もおらず、扉は半開きになっていた。
    「気のせい、……か?」
     ワルラスはしばらく扉を注視していたが、やがて扉を閉め、計画の検討に戻った。

    蒼天剣・戦凪録 終

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    2016.04.01 修正
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    ~ Comment ~

     

    温泉を挿絵に取り入れたら、確実にサービスシーンになりそうですねw

    殺伐とした戦闘シーンや、
    思考を巡らす会話シーンも物語には必要ではありますが、
    こういうのほほんとしたシーンもまた、キャラクタの性格に深く触れられるんじゃないかなーと考えたり。

     

    今回は閑話と言えば温泉!!ですね。
    閑話でそういう挿絵を作るのもいいですねえ…と思ったりもしますね。今度セイナが出る話は閑話みたいなものですから、そういうのも取り入れたいですね。
    どうも、LandMでした。
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