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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第4部

    白猫夢・落紅抄 3

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    麒麟を巡る話、第200話。
    「あいつ」に瓜二つ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     月乃は一人、何処へと消え去ったが、残った者にそこまでの度胸は無い。
     他に行くところも無く、紅蓮塞へと戻ってきた。
    「……」
     門を潜り、本堂に着いても、口を開く者は誰一人としていない。
     誰もが悟っていたからである――自分たちに残された手段は、緩やかに侵攻されるのを待ち、そのまま討たれるか、それとも潔く自決するかの二択しか無く、話し合う内容が存在しないことを。

     と――コツ、コツと硬い革靴の音が、外から響いてくる。
    「……?」
     小雪はふらふらと立ち上がり、堂の外を見た。
     そこには央南連合の役人と思われる者が数名と、その護衛らしき連合軍の兵士が1分隊おり、そして北方風のスーツに身を包んだ猫獣人が一人、彼らの前に立っていた。
    「……は?」
     その猫獣人の顔を見た途端、小雪は声を荒げた。何故なら彼女にとって、その顔は二度と見たくない、鼻持ちならないものだったからだ。
    「何であんたが今更ここに来るのよ!?」
    「何でって、仕事だよ」
    「は? 仕事? 央南から逃げたあんたが、連合に就けるわけないじゃない!
     大体何よ、そのヘンテコな格好! 刀も持ってないじゃない! 剣士がどうのこうのって、わたしに向かってあれだけ偉そうに説教したくせに!」
    「刀? 剣士? ……あのさ、小雪さん」
     と、その白地に黒斑の、童顔の猫獣人は、困った顔を小雪に向けた。
    「弟と勘違いしてないかな」
    「え?」
    「僕、秋也じゃない」
    「……あれ?
     え、じゃあ、……えーと、春司くん?」
    「そう」
    「……なんでここに?」
     唖然とする小雪に、その猫獣人――黄晴奈の長男であり、秋也の双子の兄である黄春司は、肩をすくめて見せた。
    「だから仕事だってば。つまり、停戦交渉だよ。2回目の。
     央南連合から父さん……、あー、と、同盟総長に、『第三者として間を取り成してくれ』って要請があったんだけどさ、父さんはご存知の通り北方に行ったり央中に渡ったりで忙しいから、こうして代理として僕が任命されて、交渉に来たってわけ」
    「……あ、そう」

     央南連合は以前、紅蓮塞と取り決めた懐柔案を反故にされ、困り果てていた。
     裏の取引があの会議の本懐だったとは言え、紅蓮塞側がこの案を完全無視したために、裏のことなど何も知らない連合軍では、実力行使もやむなしと言う意見が非常に強まっていた。
     とは言え実際に連合軍を出動させ、それが戦争にまで発展してしまえば、戦費がかさむ上に国際社会における央南連合の評価も下がる。
     央南連合はどうにか戦争を回避しようと、事実上の最後通牒として、第三者を交えた再度の交渉を持ちかけてきたのだ。
     その第三者として選ばれたのが、央南と央中・北方を結ぶ地域共同体、「西大海洋同盟」の第2代総長、トマス・ナイジェル卿である。しかしナイジェル卿は多忙に次ぐ多忙のため、その息子であり秘書兼名代であった春司が、その役目を請け負うことになったのである。

    「そっか、月乃はどっか行っちゃったかぁ」
     場所を移し、小雪と深見、九鬼から経緯を聞いた春司は、残念そうな顔をした。
    「6年ぶりに会えるかなって思ってたんだけどな」
    「6年前ってあんた、16じゃない。そんな早くから、同盟の仕事してたの?」
    「いや、正式に秘書になったのは18歳からだよ。その修行みたいなことを、16からやってたから。
     ま、僕の話はどうでもいい。重要なのは、君たち紅蓮塞が死に体ってことだよ」
    「交渉の余地なんかないでしょうね。攻め込まれて終わりよ」
    「それはいけない」
     意外にも、春司はその悲劇的結末を迎えることを忌避した。
    「どうして?」
    「まあ、勿論君たちがしたことはほめられることじゃないよ。無法にも程があると嘆きたくなる。
     でも君たちがやったからって、連合軍が同じことしていいって理屈は無い。そんな野蛮を見過ごしたら、この紅州は焼け野原だ。どれほどの人的被害、経済的被害が出るか、考えてみたことはあるかい? 間違い無く、尋常じゃない額になる。それは回避したい。
     と言うわけでこの紅州を保全するため、僕がこうして来たわけだ」
    「で?」
     小雪は春司に、苛立った声で問いかける。
    「あんたが嫌だって言っても、どの道連合軍が来るんでしょ?」
    「それは今、僕が止めてる。こう見えてもそれくらいの権限はあるんだ。
     と言っても、この話し合いが決裂したら、そりゃ攻めて来るよ。そうなった場合、君の言う通り為す術も無く終わりさ。
     死ぬの、嫌だろ? だからまず、僕の案を聞いてほしい」
    「……いいわよ。言ってみなさいよ」
    「うん。……まあ、今回の騒動は、公には紅蓮塞の武装蜂起による紅州および黄州侵略として捉えられてる。家元の君がどんなつもりだったかは別にして。
     で、事実として紅州攻略は今現在、成功している。でも黄州まで攻められるような体力は残ってないし、これ以上の侵略も、ましてや連合軍と戦うなんてのも避けたいはずだ。
     そこで紅蓮塞はこの、公の認識を事実として認め、その上で連合と相互不可侵の約定を結んで、紅蓮塞が今後一切の侵略行為を行わない代わりに、連合も干渉しないよう取り決める。
     と言う体で連合と話を付けたい。いいかな?」
    「……深見。……説明して」
    「あぁ? ……しゃあねえな」
     深見は嫌々そうながらも、小雪に解説した。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    200話到達。
    冒険色を強めにしたいと思っていたのに、この有様です。
    また権謀術数のぷんぷん匂う展開。

    第5部こそはもっとファンタジックに、……と思っていたんですが、
    またです。また政治経済の話になってます。
    せめて夢のある展開にしたいところ。
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