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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第4部

    白猫夢・落紅抄 4

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    麒麟を巡る話、第201話。
    紅州ゲットー化計画。

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    4.
    「つまりこのお坊ちゃんは、俺たちを侵略者に仕立て上げたいんだよ。その方が面倒な説明や根回ししなくて済むっつってな。
     で、『その鼻つまみ者がこれ以上余計なことをしないように訓告しときましたんで、もう心配ないですよ』って向こうに言って、恩を売っときたいんだ、こいつは」
     半ば喧嘩を売ったような深見の解説に、春司は何の反論もせず肯定した。
    「まあ、そうなるかな。それが僕の本意と言える。
     で、連合の方なんだけど、実際、君たちがもう疲労困憊でこれ以上侵攻なんかできないってことは連合の方にバレてるけど、それでも敵の本拠地に迂闊に攻め込んだら、被害は少なくないと予想されてる。
     連合首脳部としては、こんな意味も無いし利益も出ない出動なんか、させたくない。勝っても負けても損なわけだし。
     と言って何の行動もせずに静観してるって言うのも、央南内での連合の評判が悪くなる。紅州の各都市から度々救援要請が出てるのに、何もしないんじゃ体裁悪いし。
     じゃあ形だけでも交渉の体を取って、その結果として、この関係のまま状況を凍結させておきたい。……って言うのが連合の本意なわけさ」
    「……いまいち分かんないんだけど。つまり連合って何したいの?」
     困った顔を見せた小雪に、深見ははあ、とため息をつく。
    「どう言ったら分かるんだよ……」
    「あー、じゃあ、ぶっちゃけて言おう」
     春司はまた肩をすくめ、こう説明し直した。
    「連合は州ごと、君たちを厄介払いしたいってわけさ。
     君たちは紅州を好き勝手に弄れるし、州の中で暴れる分には連合も文句言わない。悪くない条件だろ?」
    「ん? おい、そりゃつまり……?」
     これを聞いて、深見は怪訝な顔になる。一方で、小雪はまた困った顔をしている。
    「え? え?」
    「ちょっと黙ってろ、小雪」
     深見は人差し指を彼女の唇に当て、小雪に黙るよう示す。
     深見自身もしばらく黙り込んだ後、春司に向き直ってこう尋ねた。
    「あれだ、浪人問題が片付かねえんだろ? つまり、連合の本意としてはこれ以上雇用創出政策なんかやってらんねー、全部丸投げしちまいてー、ってわけだ」
    「ご明察。黄州じゃ叔母さんが学校作ったり商会の用心棒として雇ったりして、何とか浪人を養えたみたいだけど、叔母さんみたいな人が一つの州に一人も二人もいるわけじゃないもの。
     他の州じゃ雇用政策に失敗したところもあって、もう既に揉めてる有様でね。『紅州に送り返したい』って言っちゃってる偉い人も、チラホラいるんだよ。
     連合はその集積地にしたいのさ、紅州をね」
    「……ふざけやがって。はぐれ者の掃き溜め扱いかよ」
     深見は小雪から手を離し、尋ねる。
    「だが連合軍に攻め込まれずに済むってだけでも美味しい話だ。しかも相互不可侵ってことは、支配した件については不問も同然ってわけだ。
     つまり俺たちは――相当貧乏ではあるが――国を一つ丸ごともらったも同然だ。
     小雪、こりゃ受けるべきだ。これを蹴って得られるものは何も無いぜ」
    「あんたが決めないでよ」
     そう言いつつも、小雪もこれが好条件であることは察したらしい。
    「……いいわ。まだ色々分かんないけど、戦わずに済むならそれでいいわ。
     話し合うことはこれだけ?」
    「とりあえずは。まあ、後何回かちょくちょく来させてもらうけど、基本的にさっき言った案で話を進めるよ。
     じゃ、僕はこれで」
     春司はそそくさと席を立ち、塞を後にした。



     3ヶ月後――春司の画策した通り、紅州は紅蓮塞の領地となり、央南連合の支配圏から離れることとなった。
     当然この流れに、紅州内に住む者の多くは驚愕し、嘆き、連合を非難した。しかし反発まで起こすような気概も風潮も無く、結局は黙々と従うに留まった。
    「まったく阿呆な肩書きだな。俺が『大臣』でお前が『王様』かよ。子供のお遊戯会かっつの」
    「るっさいわね」
     紅蓮塞は連合との協議の結果、紅州の統治権を正式に与えられ、政府として認められた。側近らは紅蓮塞における階級に準じて要職を与えられ、小雪もまた、女王として君臨することを認められ――と言うよりも、連合から暗に命じられた。
    「結局、浪人らの掃き溜め扱いなのにな。あの会議じゃ散々、いいように扱われたし」
    「あんたの交渉力不足でしょ」
    「お前もだろ。会議の間中、あれやこれや俺に聞いてばっかだったじゃねーか」
    「ふん」
     このやり取りを眺めていた九鬼は内心、クスクスと笑っていた。
    (喧嘩するほど仲が良いとはよく言ったものだな。……戦の時のようなギスギスした感じが、殿から抜けた。深見も口ではああだが、何だかんだと言って殿を助けているし。
     州内の執政、浪人らの受け入れと、これからが大変になるが――案外、何とでもなるかも知れんな)
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