「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第4部
白猫夢・落紅抄 5
麒麟を巡る話、第202話。
墜落し往く央南。
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5.
時間は明奈が狙撃を受けた、その1週間後に戻る。
「最低です」
肩に受けた傷もすっかり癒えた明奈は、連合主席の三国と甥の春司から、紅蓮塞に対する処置が決定されたことを聞かされ、それを非難した。
「こんな終わり方があっていいものですか!」
「そう言われても、これはもうどうしようもない。各州の意見を最大公約数的にまとめるに、これ以外の決着は無かった」
「ええ、他に方法はありませんでした。それは分かってください、叔母さん」
「『黄大人』と呼びなさい、黄書記官。
三国主席も、何故わたしを頼ってくださらなかったんですか? わたしがいれば、こんな最低な結末は回避できたはずです」
「いや、それは君が怪我を負って、伏せっていたからだよ。そんな状態で相談など、とても……」
「さぞ好機とお考えになったでしょうね。わたしが出しゃばれなかったこの機に、そんな話をひっそり通すようなお二人ですもの」
明奈はここですう、と息を吸い、二人を叱咤した。
「央南各地の政策失敗のツケをまとめて全部紅州に押し付けるような、この杜撰で厚顔無恥な措置! それを横からのこのこと現れて、したり顔で取り決めた図々しさ!
わたしは到底、あなたたち二人の暴挙を許す気はありませんからね!?」
「そこまで怒らなくても……。元々黄大人も、紅州は孤立させようと言っていたではないですか」
「それは過程であって、結末ではありません! わたしの考えではいずれ、紅州は元のように戻すつもりでした! 決してこんな、無責任の極みのようなことには……!
まったく……! あなた方のやったことは、央南の将来に禍根を残しました! 多少の出費と手間を惜しんで、病巣を取り除こうとしなかったこと! わたしが怒るのはそこです!」
「と、言うと?」
「考えてもみなさい――今回の交渉で、散々乱暴狼藉をはたらいた紅蓮塞は、連合に認められたも同然ではないですか! それは即ち、今後別の州で同じような騒動が起こったとしても、連合はそれを見て見ぬ振りをしますよと宣言したようなもの!
何より世間から見捨てられた者がどんどん押し寄せられると言うことは、その地が犯罪の温床、社会不安の坩堝になっていくと言うこと! わたしたち自ら、危険の種を作って育てるも同然です!
この一事をきっかけに、央南連合はこの先どんどん、ならず者たちの影に怯えることになるでしょうね。あちこちで武力蜂起が起こり、治安もみるみる悪くなっていくでしょう。そしてそれはきっと、央南の平和を著しく乱し、発展を阻害することになります。
あなたは首席失格です、三国さん。央南を導く立場にあるはずのあなたが、まさかこんな最低な策を採るなんて!」
「そう言われてもねぇ……」
薄ら笑いを浮かべる三国に、明奈はいよいよ激昂した。
「……失望しました。あなたに央南の舵は、この先絶対に取らせてなるものですか。
覚悟しておいてください」
明奈はぷりぷりと怒ったまま、席を立った。
「……やれやれ。口ばかりの正義漢には難儀するよ」
そう毒づいた三国に、春司も愛想笑いで返した。
数ヶ月後、明奈が弾劾決議を開き、三国を徹底的に糾弾した。三国は失脚し、連合から離れることとなった。
一方の明奈も、後に主席の座を勝ち取り、3期に渡って紅州独立問題の解消に努めたが、連合首脳部にはこの問題で「厄介払い」ができた者が多かったために同意を得られず、結局は失敗した。
そして明奈の予期していた通り、この騒動を境に州の、あるいは央南連合の政権奪取を狙った、大規模な事件が横行し始めた。
それは明奈の危惧通りの結果――央南内の混乱を招くこととなり、央南に対する諸外国の評価を下げる結果となった。
明奈が願っていた央南の飛躍的な進歩と発展は、この長い長い騒乱の時代が訪れたことによって、幻と消えた。
白猫夢・落紅抄 終
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墜落し往く央南。
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時間は明奈が狙撃を受けた、その1週間後に戻る。
「最低です」
肩に受けた傷もすっかり癒えた明奈は、連合主席の三国と甥の春司から、紅蓮塞に対する処置が決定されたことを聞かされ、それを非難した。
「こんな終わり方があっていいものですか!」
「そう言われても、これはもうどうしようもない。各州の意見を最大公約数的にまとめるに、これ以外の決着は無かった」
「ええ、他に方法はありませんでした。それは分かってください、叔母さん」
「『黄大人』と呼びなさい、黄書記官。
三国主席も、何故わたしを頼ってくださらなかったんですか? わたしがいれば、こんな最低な結末は回避できたはずです」
「いや、それは君が怪我を負って、伏せっていたからだよ。そんな状態で相談など、とても……」
「さぞ好機とお考えになったでしょうね。わたしが出しゃばれなかったこの機に、そんな話をひっそり通すようなお二人ですもの」
明奈はここですう、と息を吸い、二人を叱咤した。
「央南各地の政策失敗のツケをまとめて全部紅州に押し付けるような、この杜撰で厚顔無恥な措置! それを横からのこのこと現れて、したり顔で取り決めた図々しさ!
わたしは到底、あなたたち二人の暴挙を許す気はありませんからね!?」
「そこまで怒らなくても……。元々黄大人も、紅州は孤立させようと言っていたではないですか」
「それは過程であって、結末ではありません! わたしの考えではいずれ、紅州は元のように戻すつもりでした! 決してこんな、無責任の極みのようなことには……!
まったく……! あなた方のやったことは、央南の将来に禍根を残しました! 多少の出費と手間を惜しんで、病巣を取り除こうとしなかったこと! わたしが怒るのはそこです!」
「と、言うと?」
「考えてもみなさい――今回の交渉で、散々乱暴狼藉をはたらいた紅蓮塞は、連合に認められたも同然ではないですか! それは即ち、今後別の州で同じような騒動が起こったとしても、連合はそれを見て見ぬ振りをしますよと宣言したようなもの!
何より世間から見捨てられた者がどんどん押し寄せられると言うことは、その地が犯罪の温床、社会不安の坩堝になっていくと言うこと! わたしたち自ら、危険の種を作って育てるも同然です!
この一事をきっかけに、央南連合はこの先どんどん、ならず者たちの影に怯えることになるでしょうね。あちこちで武力蜂起が起こり、治安もみるみる悪くなっていくでしょう。そしてそれはきっと、央南の平和を著しく乱し、発展を阻害することになります。
あなたは首席失格です、三国さん。央南を導く立場にあるはずのあなたが、まさかこんな最低な策を採るなんて!」
「そう言われてもねぇ……」
薄ら笑いを浮かべる三国に、明奈はいよいよ激昂した。
「……失望しました。あなたに央南の舵は、この先絶対に取らせてなるものですか。
覚悟しておいてください」
明奈はぷりぷりと怒ったまま、席を立った。
「……やれやれ。口ばかりの正義漢には難儀するよ」
そう毒づいた三国に、春司も愛想笑いで返した。
数ヶ月後、明奈が弾劾決議を開き、三国を徹底的に糾弾した。三国は失脚し、連合から離れることとなった。
一方の明奈も、後に主席の座を勝ち取り、3期に渡って紅州独立問題の解消に努めたが、連合首脳部にはこの問題で「厄介払い」ができた者が多かったために同意を得られず、結局は失敗した。
そして明奈の予期していた通り、この騒動を境に州の、あるいは央南連合の政権奪取を狙った、大規模な事件が横行し始めた。
それは明奈の危惧通りの結果――央南内の混乱を招くこととなり、央南に対する諸外国の評価を下げる結果となった。
明奈が願っていた央南の飛躍的な進歩と発展は、この長い長い騒乱の時代が訪れたことによって、幻と消えた。
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