fc2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第4部

    白猫夢・蘇焔抄 1

     ←クルマのドット絵 その55 →白猫夢・蘇焔抄 2
    麒麟を巡る話、第203話。
    設計者。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     焔流騒乱が一応の解決を見せ、央南の情勢が落ち着き始めた、双月暦544年の秋頃。
    「免許皆伝試験用の道場を作れないだろうか」
     黄海や、その近隣に住む焔流剣士たちから、そんな意見が出始めた。

     紅蓮塞と断絶して以降、「証書」は手元にあったものの、試験を行いそれに名前を連ねることができず、免許皆伝を得る者が1年近くもの間、輩出されないままでいたのである。
    「しかし作るとなるとなぁ……」「ですよねぇ」
     晴奈は紅蓮塞の試験会場、伏鬼心克堂の「構造」を実際に目にしたことがあるだけに、その再建が困難なことは十分に承知していた。
     そして晴奈と一緒にその「仕掛け」を見ていた良太も、一緒にうなる。
    「僕も姉さんと一緒にあれ見ましたけど、普通の大工さんとかじゃ、絶対作れないですよ」
    「そうだな。あれはよほど優れた魔術知識を持つ人間でなければ、建設は不可能だ。
     ……一応、心当たりはあるが」
    「え?」
    「しかしその人を呼ぶのは多少、心苦しいと言うか、顔を合わせ辛いと言うか」
    「どう言う人なんです? 昔の恋人とか?」
    「阿呆。黒炎教団の現人神と言えば分かるだろう?」
    「は? ……はぁ!?
     ちょ、ちょっと姉さん? 何言ってるんですか? そんな、まさか、呼べるわけないじゃ……」
     目を白黒させる良太に対し、晴奈は胸の前で腕を組みながら、はぁ、とため息を漏らした。
    「既に争う間柄でなくなって久しいし、呼んでも体面上、何の問題も無いだろう。呼ぶ手段も一応はある。ツテがあるからな。
     ただ――焔流の私がこんなことを言うのも何だが――畏れ多くてな。もう20年以上は会っていないが、会う度に身のすくむ思いをしていたからな。今思い出しても尻尾がざわっとする。
     とは言え生半可な魔術師では到底、あんなものは作れまい。もう一人、央中に辣腕の魔術師を知っているが、彼女は央中から離れられぬと言うし。
     頼むしかあるまい。……黒炎殿に」

     晴奈は魔術の心得がある明奈を通じて渾沌に連絡し、大火に会えないか相談した。
    《あんたの頼みなら師匠も動いてくれると思うわよ。
     ただ、うちの原則として『契約は公平にして対等の理』ってのがあるから、お願いするとしたら、何らかの見返りが無いと駄目でしょうね》
    「ふむ……」
    「お金であれば多少はありますが、黒炎様では動いてくれないでしょうね」
    「それは言える」
    《ま、それ抜きにしても師匠、あんたに会いたがってるでしょうから、話は通してみるわね。
     ……あ、そうそう》
    「魔術頭巾」で渾沌からの話を聞いていた明奈は、「まあ」と嬉しそうな声を上げた。
    「どうした?」
    「お姉様、秋くんがベルさんと来年、結婚するそうですよ。
     向こうで開いた道場が軌道に乗り、来年にはベルさんも20歳になるので、それを機に身を固めよう、……とのことです」
    「……そうか。……うん、そうか」
     これを聞いた晴奈も、顔をほころばせていた。



     それから2週間後。
    「久しぶりね、晴奈」
    「ああ。……お久しゅうございます、黒炎殿」
    「ああ」
     渾沌が大火を伴い、2年ぶりに黄海を訪れた。
     出迎えた雪乃夫妻と晴奈に、大火は会釈しつつこう返す。
    「晴奈。50歳を超えたそうだが、まだ若々しいな。今なお凛々しさが残っている」
     大火にそう褒められ、晴奈は気恥ずかしくなる。
    「はは……、恐縮です。
     それで黒炎殿、渾沌から伝えていた件ですが……」
    「ああ。伏鬼心克堂の建設だな」
     そう言って大火は、懐から金色に光る、手帳のようなものを取り出した。
    「それは?」
    「『黄金の目録』と言って……、まあ、平たく言えば俺の手帳だな。
     少々待て。確か設計図を書き留めていたはずだ」
    「書き留めて……?」
     おうむ返しに尋ねた晴奈に、大火は晴奈たち焔流剣士が仰天するような回答をした。
    「ああ。以前に設計した際、何かに転用できるかと考え、保存しておいた。全く同じものを造ってもいいが、現代風に設計し直しても構わん。そこは晴奈、お前の希望に任せるが、どうする?」
    「……お、お待ちください」
     晴奈はこほん、と小さく咳を立て、もう一度尋ねる。
    「その仰り様、まるで黒炎殿が伏鬼心克堂を設計したか、……のような?」
    「そう言ったつもりだが、そう聞こえなかったのか?」
    「……まさか」
     思いもよらない事実を聞かされ、晴奈も、側にいた雪乃も、互いに蒼い顔を向けた。
    関連記事




    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【クルマのドット絵 その55】へ
    • 【白猫夢・蘇焔抄 2】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【クルマのドット絵 その55】へ
    • 【白猫夢・蘇焔抄 2】へ