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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第4部

    白猫夢・蘇焔抄 2

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    麒麟を巡る話、第204話。
    堂の試運転。

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    2.
     晴奈たちの反応に、大火は細い目をわずかに開く。
    「知らなかったのか? てっきりその事実を知っていたからこそ、俺を呼んだものと思っていたが」
    「い、いえ。存じませんでした」
     晴奈と雪乃は目を白黒させ、大火の顔やお互いの顔を見比べている。
     一方、良太は動じていない。それどころか、納得したような顔をしていた。
    「なーるほど。合点が行きました」
    「え? どう言うこと、良さん?」
     妻に袖を引いて尋ねられ、良太はあっけらかんと答えた。
    「あのお堂、僕も何度か調べたことがあるんだ。起源を明らかにできないかなと思って。
     ところが調べれば調べるほど、これは黙っておいた方がいいなー、って点がぽろぽろ出てきちゃってさ。……ま、それはまだ、黒炎教団と対立してた時の話なんだけど、だから今まで内緒にしてたんだ。
     その気になった点って言うのがね。まず、堂の地下には魔法陣が描き巡らされてたんだけど、あれはいわゆる『ウィルソン型』、つまり黒炎教団が使ってる魔術っぽかったんだ。
     これだけでも、焔流にとってはそれこそ、足元が崩れるような話だよ」
    「黒炎教団には俺が魔術を指導したから、な。俺が設計したものと似ていても、不思議はあるまい」
    「ええ、克さんとの関係を示すものは、他にもありました。
     焔流初代家元の父親、焔流の太祖である焔玄蔵翁とあなたに交流があったことは、ちょっと古い歴史書を紐解けばあちこちに出てきますし、……あと、こんなことを焔血筋の僕が言ったら大事ですが、焔流剣術の魔術的な側面を見れば、あなたの使う魔術剣に似た点が多く見受けられます。
     だからもしかしたら、伏鬼心克堂はあなたが造ったものなんじゃないかとは、薄々思っていました。お堂の名前にも『克』が付いてますしね」
    「堂の名前を付けたのは俺では無い。玄蔵だ。
     あいつは妙に洒落っ気と言うか、茶目っ気を出すところがあったからな。その時もお前と同じようなことを言っていた。
     黒炎教団が誕生し、焔流と対立したのは、その数十年後のことだからな。建てた当時には、そんなしがらみはどこにも無かったのだ。元々、試験会場としての使用も想定していなかったから、な」
    「その辺りのお話も是非、拝聴したいところですが……。所期の目的は、お堂の建設ですからね。
     まずはその話を」
    「ああ」



     大火と相談した結果、新たな堂は黄海郊外に建立されることとなった。
     また、大火に打診されていた通り、外観や工法を現代の建築様式に合わせたり、管理のため地下では無く、近隣に小屋を造ったりと、元々のものとは多少変化を加えていた。
     そして、最も大きな特徴であったあの「仕掛け」にも、ある違いが付加された。

    「痛っ、……?」
     晴奈は頭部にちく、とした痛みを感じ、後ろを振り向く。
    「……? 黒炎殿?」
    「……」
    「何か……?」
     背後にいた大火に尋ねたが、大火は何も答えず去って行った。



     堂の完成数日前、秋も終わる頃。雪乃が大火に呼び出された。
    「黒炎さん、わたしに何か?」
    「ああ。試運転に付き合ってもらいたい」
    「試運転? ……と言うと?」
    「堂の魔法陣が正常に作動するか、その点検と言うところだ。
     この件は晴奈本人には頼めん。同等の実力ではさっくり終わらせられんから、な」
    「……?」
     はっきりとしない物言いに、雪乃は首をかしげる。
    「どう言うことでしょう?」
    「まずは、会ってみてくれ。
     試運転が成功したら、詳しく話してやろう」
     大火は堂の扉を開け、雪乃を中に入れた後、扉に鍵をかける。
    「仕掛けを動かす装置は一緒みたいですね」
    「ああ。起動から1分後、出現する」
    「分かりました。危険は?」
    「本来の堂と変わらん。ただし」
     大火は扉越しに、こう告げた。
    「出現するものはお前にとって、『刃を向けたくない』と言う相手に限りなく似ている」
    「……黒炎さん」
     雪乃は多少苛立った声で、大火に尋ねる。
    「はっきりと話していただけませんか? 抽象的なお言葉ばかりで、わたしちょっと、イライラしてきてるんですが」
    「終わったら、いくらでも具体的に話そう」
    「……分かりました。試運転はどれくらいかかります?」
    「10分に設定している。終わり次第、鍵を開ける」
    「はい」
     雪乃ははあ、とため息をつき、刀を抜いた。
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