DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN ~荒野の名探偵~ 1
ウエスタン小説、第1話。
無法の荒野。
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1.
ゴールドラッシュからは三十数年――そして戦争からも十数年が経ち――西部は少しずつ、落ち着きを見せようとしていた。
だが、軍や教育、経済や法整備が充実する東部とは違い、西部におけるその落ち着きは、中には暴力と圧力――即ち「無法」によってもたらされるものもあり、それは到底、平和と呼べるようなものでは無かった。
その町もまた、今まさに無法によって支配されようとしていた。
「う、……ぐ……」
町の裏路地で、老人が一人、胸を押さえてうずくまる。しかし胸を覆ったその両手の隙間からは、ボタボタと赤い血が流れ出している。
致命傷を負ったのは明らかだった。
「……こんな……ことを……して……っ」「どうなるって言うんだ?」
うずくまる老人の周りに、若く、しかし汚い身なりの若者たちがぞろぞろと現れ、彼を取り囲む。
「アンタはここで死ぬ。遺った娘は今アンタを撃ったあの、『ウルフ』の兄貴のものになる。そしてアンタの金もだ」
この台詞に、その老人はさぞ悔しがるだろうと、若者たちの誰もが思っていた。
ところが――老人は額に脂汗を浮かべながら、引きつったように笑って見せた。
「……く、くく、くっ」
「何がおかしい?」
老人は口からびちゃ、と血を吐き、続いてこう言い捨てた。
「くく、ぐっ、ゲホッ、あいつの言った通りだったからだよ……!
やはりあの、あのっ、あの若造が、……ゲボッ、『スカーレット・ウルフ』だったか! やはり、あ、あいつは、……間違っていなかった!」
「……なんだと?」
老人を撃ってから今まで、ずっと黙っていた青年が、そこで口を開いた。
「『あいつ』ってのは誰だ?」
「ふ、ふふ、ははは……、言うものか!
ゴホッ、お前に娘はやらん! 遺産も、町も、何一つな!
わしは既に東部から探偵を呼び寄せ、密かに探らせていたのだ! もしわしが死のうとも、彼ならお前にしかるべき制裁を下してくれるはずだ!
地獄で待っているぞ、『ウルフ』! 絞首台からそのまま、わしのところへ落ちて来るが……」
老人が言い終わらないうちに、青年は彼の頭にもう一発、弾を撃ちこんでいた。
「うるせえ、ジジイが……ッ!」
青年は銃を納め、手下の若者たちに命じる。
「吊るせ。いつものところにだ」
「アイ・サー」
頭の後ろ半分が無くなった老人の体を4人がかりで担ぎ、手下たちはその場を後にする。
残った「ウルフ」は地面に残った血の跡を、ブーツで砂を蹴ってまぶしながら、こうつぶやいた。
「『彼なら見抜くはずだ』……? 誰なんだ、そりゃ?」
地面の跡が血とも泥とも付かなくなったところで、「ウルフ」は町の方へと顔を向ける。
「ここで俺が『スカーレット・ウルフ』と町の奴らに知れちゃ、全部水の泡だ。
東部から来たって奴……、そいつを捜さねえとな」
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無法の荒野。
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1.
ゴールドラッシュからは三十数年――そして戦争からも十数年が経ち――西部は少しずつ、落ち着きを見せようとしていた。
だが、軍や教育、経済や法整備が充実する東部とは違い、西部におけるその落ち着きは、中には暴力と圧力――即ち「無法」によってもたらされるものもあり、それは到底、平和と呼べるようなものでは無かった。
その町もまた、今まさに無法によって支配されようとしていた。
「う、……ぐ……」
町の裏路地で、老人が一人、胸を押さえてうずくまる。しかし胸を覆ったその両手の隙間からは、ボタボタと赤い血が流れ出している。
致命傷を負ったのは明らかだった。
「……こんな……ことを……して……っ」「どうなるって言うんだ?」
うずくまる老人の周りに、若く、しかし汚い身なりの若者たちがぞろぞろと現れ、彼を取り囲む。
「アンタはここで死ぬ。遺った娘は今アンタを撃ったあの、『ウルフ』の兄貴のものになる。そしてアンタの金もだ」
この台詞に、その老人はさぞ悔しがるだろうと、若者たちの誰もが思っていた。
ところが――老人は額に脂汗を浮かべながら、引きつったように笑って見せた。
「……く、くく、くっ」
「何がおかしい?」
老人は口からびちゃ、と血を吐き、続いてこう言い捨てた。
「くく、ぐっ、ゲホッ、あいつの言った通りだったからだよ……!
やはりあの、あのっ、あの若造が、……ゲボッ、『スカーレット・ウルフ』だったか! やはり、あ、あいつは、……間違っていなかった!」
「……なんだと?」
老人を撃ってから今まで、ずっと黙っていた青年が、そこで口を開いた。
「『あいつ』ってのは誰だ?」
「ふ、ふふ、ははは……、言うものか!
ゴホッ、お前に娘はやらん! 遺産も、町も、何一つな!
わしは既に東部から探偵を呼び寄せ、密かに探らせていたのだ! もしわしが死のうとも、彼ならお前にしかるべき制裁を下してくれるはずだ!
地獄で待っているぞ、『ウルフ』! 絞首台からそのまま、わしのところへ落ちて来るが……」
老人が言い終わらないうちに、青年は彼の頭にもう一発、弾を撃ちこんでいた。
「うるせえ、ジジイが……ッ!」
青年は銃を納め、手下の若者たちに命じる。
「吊るせ。いつものところにだ」
「アイ・サー」
頭の後ろ半分が無くなった老人の体を4人がかりで担ぎ、手下たちはその場を後にする。
残った「ウルフ」は地面に残った血の跡を、ブーツで砂を蹴ってまぶしながら、こうつぶやいた。
「『彼なら見抜くはずだ』……? 誰なんだ、そりゃ?」
地面の跡が血とも泥とも付かなくなったところで、「ウルフ」は町の方へと顔を向ける。
「ここで俺が『スカーレット・ウルフ』と町の奴らに知れちゃ、全部水の泡だ。
東部から来たって奴……、そいつを捜さねえとな」
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~ Comment ~
NoTitle
どうでもいい話ですが南北戦争のゲームをやるとピンカートン探偵社には特別な思い入れができます。
当時、北軍は偵察とスパイ活動のためにピンカートン探偵社を雇っていたのですが、こいつがまたとんでもない情報を持ってくるもので、「南軍百万が接近中」だなどといっては北軍の軍事計画をちょくちょくストップさせる、という、もうほんとなんといったらいいか……(^^;)
南北戦争後もアメリカ全土で資本家の手先になっては労働運動を軒並み潰して行ったことで知られてますね。
だから「ピンカートンが出ない」と聞いたときにはどこかホッと(笑)
こちらの探偵さんは優秀なんでしょうねやっぱり。
これからが楽しみです。
当時、北軍は偵察とスパイ活動のためにピンカートン探偵社を雇っていたのですが、こいつがまたとんでもない情報を持ってくるもので、「南軍百万が接近中」だなどといっては北軍の軍事計画をちょくちょくストップさせる、という、もうほんとなんといったらいいか……(^^;)
南北戦争後もアメリカ全土で資本家の手先になっては労働運動を軒並み潰して行ったことで知られてますね。
だから「ピンカートンが出ない」と聞いたときにはどこかホッと(笑)
こちらの探偵さんは優秀なんでしょうねやっぱり。
これからが楽しみです。
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NoTitle
やはり題材が変わると扱いも違いますね。
後述する探偵は別の探偵局の人間ですが、
「ピンカートン」の名前を使わなかったのは、
この探偵局がいかにもアメリカンなイメージが強すぎたことも、
理由の一つですね。
(なるべく実在の人物・団体を使いたくないと言うのもありますが)