DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN ~荒野の名探偵~ 2
ウエスタン小説、第2話。
女賞金稼ぎ。
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2.
「8000ドルとかあったらさ」
サルーンのカウンターに腰かける若い女性が、壁にかかった文字だけの手配書を指差し、とろんとした声でこう続ける。
「あたし、イギリスにでも行っちゃうわね」
「そうですか。何をお求めに?」
女性の手には、空になったグラスが握られている。
「お求めって言うか、住みたいのよね。どこか郊外の、小さくて綺麗で由緒あるお屋敷を買って、ふわっふわのかわいい仔猫とか膝に乗せて、のんびり過ごしたいの」
「それは結構ですな」
一方、サルーンのマスターは適当な相槌を打ちながら、皿を綺麗に磨いている。
「しかし8000ドルなどと言うのは、一市民には到底手の届かない額です。
先程からお客様、あの手配書を肴に話をなさっていらっしゃいますが、もしかして……」
「ええ、賞金稼ぎよ。一応ね。……実は8000ドルよりもっと多く、お金持ってたこともあったんだけど、……結局この国、いいえ、この西部をウロウロしてる間に、いつも使い潰しちゃうのよね」
「ほう……、結構な腕利き、と言うわけですな。過去にはどんな大物を?」
「そうね、言って知ってるかどうか分かんないけど……、『ハンサム・ジョー』とか、『メジャー・マッド』とか」
「うん? ……いえ、聞いた覚えがありますね。いずれも凶悪な賞金首で、討ち取ったのは、……なるほど、女性と聞いています。
その賞金稼ぎの名は、確か……『フェアリー』」
「正確には『フェアリー・ミヌー』よ。かわいいでしょ?」
「ええ」
うなずいたマスターに、ミヌーはにこっと笑って見せた。

と――サルーンの戸が乱暴に開かれ、マスクを付けた薄汚い身なりの若者たちが4人、ぞろぞろと押し入ってきた。
「おい、そこの女!」
「あたし?」
ミヌーが応じると、若者の一人が人差し指をミヌーに向かって突きつける。
「お前、余所者だな?」
「そうよ」
「来い」
横柄にそう命じてきた若者に、ミヌーはくすっと笑って返す。
「あたしに言うこと聞かせたいならまず、お金払いなさいな」
「あ?」
「用事は何? 一緒にデート? それとももっと楽しいことかしら? 高く付くけどね」
「……ふざけてんじゃねえぞ! 来いと言ったら、つべこべ言わずさっさと……」
若者が怒鳴り終らないうちに、突然仰向けに、ばたんと倒れた。
彼は白目をむいており、そのマスクは酒と鼻血らしきもので、ぐしょぐしょに濡れている。ミヌーが持っていたグラスを、彼に投げ付けたのだ。
「二度も言わせる気? あたしに言うこと聞かせたいなら、力ずくなんて野蛮な真似はよしてちょうだいな。
あ、マスターさん。グラス、いくらだったかしら」
投げたグラスを弁償しようとしたミヌーに対し、マスターは苦い顔を返す。
「ミス・ミヌー。今のはいけません……。すぐに謝って、言うことを聞いた方がいいかと」
「なんで?」
「その……、あいつら、いえ、彼らは……」
口ごもるマスターに代わる形で、残りの若者たちが答えた。
「俺たちはこの町の番人、『ウルフ・ライダーズ』の者だ」
「穏便に事を運ぼうと思ったが、仲間がこんな目に遭ったとなりゃ、話は別だ」
若者たちは一斉に、腰に提げていた拳銃を取り出し、ミヌーに向けて構えた。
「金がほしいと言ったな? 1ドル分の鉛弾でよければここにいる3人が、目一杯くれてやるぜ?」
「それも嫌だってんなら、つべこべ言わずにさっさと来てもらおうか」
「……はーい、はい」
ミヌーは肩をすくめて、彼らの方へと歩いて行った。
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女賞金稼ぎ。
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「8000ドルとかあったらさ」
サルーンのカウンターに腰かける若い女性が、壁にかかった文字だけの手配書を指差し、とろんとした声でこう続ける。
「あたし、イギリスにでも行っちゃうわね」
「そうですか。何をお求めに?」
女性の手には、空になったグラスが握られている。
「お求めって言うか、住みたいのよね。どこか郊外の、小さくて綺麗で由緒あるお屋敷を買って、ふわっふわのかわいい仔猫とか膝に乗せて、のんびり過ごしたいの」
「それは結構ですな」
一方、サルーンのマスターは適当な相槌を打ちながら、皿を綺麗に磨いている。
「しかし8000ドルなどと言うのは、一市民には到底手の届かない額です。
先程からお客様、あの手配書を肴に話をなさっていらっしゃいますが、もしかして……」
「ええ、賞金稼ぎよ。一応ね。……実は8000ドルよりもっと多く、お金持ってたこともあったんだけど、……結局この国、いいえ、この西部をウロウロしてる間に、いつも使い潰しちゃうのよね」
「ほう……、結構な腕利き、と言うわけですな。過去にはどんな大物を?」
「そうね、言って知ってるかどうか分かんないけど……、『ハンサム・ジョー』とか、『メジャー・マッド』とか」
「うん? ……いえ、聞いた覚えがありますね。いずれも凶悪な賞金首で、討ち取ったのは、……なるほど、女性と聞いています。
その賞金稼ぎの名は、確か……『フェアリー』」
「正確には『フェアリー・ミヌー』よ。かわいいでしょ?」
「ええ」
うなずいたマスターに、ミヌーはにこっと笑って見せた。

と――サルーンの戸が乱暴に開かれ、マスクを付けた薄汚い身なりの若者たちが4人、ぞろぞろと押し入ってきた。
「おい、そこの女!」
「あたし?」
ミヌーが応じると、若者の一人が人差し指をミヌーに向かって突きつける。
「お前、余所者だな?」
「そうよ」
「来い」
横柄にそう命じてきた若者に、ミヌーはくすっと笑って返す。
「あたしに言うこと聞かせたいならまず、お金払いなさいな」
「あ?」
「用事は何? 一緒にデート? それとももっと楽しいことかしら? 高く付くけどね」
「……ふざけてんじゃねえぞ! 来いと言ったら、つべこべ言わずさっさと……」
若者が怒鳴り終らないうちに、突然仰向けに、ばたんと倒れた。
彼は白目をむいており、そのマスクは酒と鼻血らしきもので、ぐしょぐしょに濡れている。ミヌーが持っていたグラスを、彼に投げ付けたのだ。
「二度も言わせる気? あたしに言うこと聞かせたいなら、力ずくなんて野蛮な真似はよしてちょうだいな。
あ、マスターさん。グラス、いくらだったかしら」
投げたグラスを弁償しようとしたミヌーに対し、マスターは苦い顔を返す。
「ミス・ミヌー。今のはいけません……。すぐに謝って、言うことを聞いた方がいいかと」
「なんで?」
「その……、あいつら、いえ、彼らは……」
口ごもるマスターに代わる形で、残りの若者たちが答えた。
「俺たちはこの町の番人、『ウルフ・ライダーズ』の者だ」
「穏便に事を運ぼうと思ったが、仲間がこんな目に遭ったとなりゃ、話は別だ」
若者たちは一斉に、腰に提げていた拳銃を取り出し、ミヌーに向けて構えた。
「金がほしいと言ったな? 1ドル分の鉛弾でよければここにいる3人が、目一杯くれてやるぜ?」
「それも嫌だってんなら、つべこべ言わずにさっさと来てもらおうか」
「……はーい、はい」
ミヌーは肩をすくめて、彼らの方へと歩いて行った。
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ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
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こんにちはっ!新連載おめでとうございますっ!
あいさつに来なくてはと思っているうちに3話まで進んでしまいました・・・。
うん、ブログではこういうイラストの入れ方が一番素直で読みやすいでしょうね。掲載ありがとうございます。
あいさつに来なくてはと思っているうちに3話まで進んでしまいました・・・。
うん、ブログではこういうイラストの入れ方が一番素直で読みやすいでしょうね。掲載ありがとうございます。
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自分の小説に、久々に挿絵が付き、非常にうれしく思っています。
こちらこそ、制作いただきありがとうございました。