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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN ~荒野の名探偵~ 5

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    ウエスタン小説、第5話。
    邂逅。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
    「ふー……」
     保安官オフィスから十分に離れ、裏路地に入ったところで、ミヌーと、共に逃げ出した他の男たちとが、ようやく立ち止まる。
    「いやぁ、助かったぜ。流石に真っ向から煙幕ドカン、ってんじゃバレバレだからな。アンタがちょうど良く暴れてくれたから、うまく行ったってもんだぜ」
    「そりゃどーも」
     馴れ馴れしく手を差し出してきた赤毛の男に、ミヌーは肩をすくめるだけで返す。
    「ありゃ」
    「あたしもあんたも、お互い利用し合っただけでしょ? それでなんで、仲良くしなきゃいけないの?」
    「つれないねぇ。俺にとっちゃ命の恩人なんだし、せめて名前だけでも教えてほしいんだけどなぁ。
     俺の名はアデルバート・ネイサン。アデルって呼んでくれ」
    「あっそ」
     ぷいと顔を背け、立ち去ろうとするミヌーに、アデルは「ちょ、待ってくれよ」と呼びかけた。
    「何よ?」
    「アンタ、もう数日はここに滞在するつもりだろ?
     その格好とさっきの腕を見りゃ、どう考えてもアンタ、賞金稼ぎだ。狙うはアレだろ、『デリンジャー』だろう?」
    「はぁ?」
     振り向いたミヌーに、アデルはまくし立てる。
    「とぼけようったってそうは行かないぜ? 実は俺も、この辺りにそいつが現れたってうわさを聞いたんだ。アンタと同業者なんだよ、俺。
     だからさ、俺とアンタとで一緒に『デリンジャー』探しして、見付けて仕留めるなり捕まえるなりしたら、きっちり賞金を折半! どうだろう?」
    「嫌と言ったら?」
    「話はそれまでさ。それ以上は無い」
     アデルは肩をすくめつつも、なお話を続ける。
    「だけどもさ、さっき捕まった通り、この町にゃ別の、ヤバ気なヤツらもいる。
     この町であれこれ探し物しようとしても、十中八九あいつらが邪魔してくるだろうし、賞金首がこの町にいると知れりゃ、あいつら多分、横取りしようとしてくるぜ?
     ただ単に滞在するにしてもさ、このまま一人でいるってんじゃ、二日と経たないうちにヤツらに捕まってあれやこれや……」「男のくせに、よくもまあそんなにベラベラしゃべれるもんね」
     アデルの話を切り上げ、ミヌーはこう応じた。
    「でもあんたの言うことも、もっともね。一人でブラブラするには、この町は物騒過ぎるわ。それに賞金首がいるって聞いて、それを放っておくなんてもったいないし。
     いいわ、手を組みましょう。賞金はあんたが言った通り、半々で……」
     と、それまで黙っていた他の2人のうち、まだティーンに見える金髪が手を挙げた。
    「お、オレも一枚かませてくれよ! 『デリンジャー』って言や、8000ドルの賞金首じゃねーか! さ、3人で割っても、えーと、一人当たり2000くらいは……」
    「8000割る3は2666ドルだ、アホ。……お前は?」
     名前を聞かれ、金髪はこう答えた。
    「ディーン・マコーレー、に、25さ!」
    「嘘つけ。そのそばかすだらけの真っ赤な頬っぺたで、20超えてるわけねえだろが」
    「……じゅ、19」
    「それも嘘ね。あたしの見立てじゃ、せいぜい16くらい」
    「うっ、……あ、ああ、そうさ。姉御さんの言う通りさ」
     嘘を簡単に見抜かれ、ディーンはしゅんとなる。それを受け、アデルがやんわり諭そうとする。
    「賞金首にゃ多少詳しそうだが、坊やには荷が重い仕事になるぜ? 8000ってのは伊達じゃねえ。これまでに17人を殺した凶悪犯だ。しかもあいつは……」「かっ、覚悟の上だ!」
     ところがディーンは声を荒げ、アデルに食ってかかる。
    「他に金がポンと稼げる手段なんかねーんだ! そ、それともお二人方、この坊やを荒野に置き去りにしようってのか!?」
    「情けないこと言うわね」
     呆れるミヌーに対し、ディーンは開き直る。
    「情けなかろうが何だろーが、生きるためだ! そーやってオレはこの2年、放浪してきたんだ! 笑いたきゃ笑えっ!
     だがな、放浪してた分、腕はそれなりに立つんだぜ! いいのか、いざって時に『ああ、あの坊やを雇っておきゃよかった』って後悔してもよぉ!?」
    「悪いがお断りだ。坊やの腕なんて、たかが知れてる。
     ケガしないうちに、とっととこの町から出て行った方がいいぜ」
    「うー……っ」
     ディーンはそこで口ごもり、それ以上何も言い返さずに走り去っていった。
    「じゃ、決まりだな。よろしくな、……えーと」
    「ミヌーよ。エミル・ミヌー」
    「オッケー、よろしくミヌー」
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