DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN ~荒野の名探偵~ 6
ウエスタン小説、第6話。
サルーン・ミーティング1。
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6.
サルーンに戻り、共にカウンターに座ったところで、アデルが話を切り出した。
「そんで、だ。実はさっき、『デリンジャー』じゃないかってヤツを見付けたんだ。つい、さっきな」
「ふうん……?」
と、グラスを磨いていたマスターが苦い顔をする。
「『デリンジャー』と言うのは……、あの『デリンジャー・セイント』ですか」
「ご名答。曰く、無差別に人を殺して回り、さらには死体の胸に十字傷と、『この者は行いを欠いた信仰である』とか、ワケ分からん文章を刻んで立ち去るとか。
ゾッとするほどイカれた野郎だ」
「聖書にある言葉ね。本来の文章は、ヤコブの手紙第2章17節、『信仰は行いを欠けば死んだものである』よ。
死体だからつまり、『行いを欠いた(動かない)信仰』ってことなんでしょうね。聞くだけで吐き気がするわ」
「全くです。……そんな話をされると言うことは、まさか」
「ああ。この町に来てる」
これを聞いて、マスターは顔をしかめた。
「本当ですか」
「ああ。ついさっき、いかにもそいつだろうってのを見た。恐らく今晩、犠牲者が出る」
「なんと……」
「だが心配するな。犠牲者はほぼ間違いなく、『ウルフ・ライダーズ』の連中さ」
「え?」
一転、きょとんとした顔をしたマスターに、アデルはこう続ける。
「その『ついさっき』ってのが――ミス・ミヌーも一緒に連れて来られた――保安官オフィスでの詰問だ。
そん時に見たんだ、『デリンジャー』を」
「……そうね。確かにあたしも見たわ。でもそれだけで、あの人がそうだって証拠になるかしら?」
「なーに、俺の目はごまかされちゃいない。あいつで間違いない。
そんなわけで、だ。今晩に備えて、今日は早めに……」
アデルが言いかけたところで、ミヌーは席を立つ。
「マスター、一人部屋って2つ空いてる?」
「2階にございます。一泊、1ドル25セントです」
「じゃ、そこ借りるわ。こいつはもういっこの部屋ね」
「かしこまりました。こちら、鍵です」
「ありがと」
ニヤニヤと目配せをするアデルを一瞥し、ミヌーはすたすたと2階への階段へと歩いて行く。
その手前でミヌーはアデルに振り向き、にこっと笑って見せた。
「それじゃ今日は早めに寝るわね。おやすみ、アデル」
「……ああ、おやすみ。夜9時には起こすよ。晩メシ、食うだろ?」
「ええ、お願いね」
そのまま階段を上がるミヌーを見送り、それからアデルはため息をついた。
「あーあ、あしらわれちまったぜ」
「金さえ払えばデートでも何でも請ける、と仰っていましたが」
「はは……、そいつが俺に払える額かは、別の話さ。
それじゃ俺も寝るとするか。マスター、鍵を」
アデルも鍵を受け取り、2階へと上がった。
そして時間は経ち、夜の10時――。
「よいしょ、……っと」
昼前にミヌーたちを拘束した「ライダーズ」たちがこそこそと、革袋を荷車に乗せて運んでいた。
中身は昼前まで、自分たちの仲間だったものである。
「こいつも災難だったよなぁ」
「まったくだ。……同情なんかしねーがな」
「確かにな。あの女にいらねー挑発したのもこいつだし、グラス投げ付けられて鼻血噴いたのもこいつ。滅多やたらに拳銃振り回して右手が千切れ飛んだのもこいつ。
……結局、自業自得って奴だ」
「兄貴じゃねーが、役に立たない上に使えない奴だってのは、確かに言えるぜ。
今だってこうやって、俺たちの手を焼かせてんだからな」
「違いねえや、ははは……」
「ひゃひゃひゃ……」
とても死体を運んでいる最中とは思えない陽気さで、彼らは荷車を運んでいた。
その時だった。
ポン、と乾いた音が、裏路地に短く響く。
「……なんだ?」
誰からともなく発せられたその問いに答える代わりに、一人ががくんと膝を着いた。
「どうした、……!?」
突然うずくまった仲間の右耳が、どこにも無い。
そこに空いた大穴からは、ドクドクと赤黒い血が噴き出していた。
「な、な、なん、っ……」
叫びかけた仲間も、同様に膝を着く。彼もまた同様に、いつの間にか左耳が弾け飛んでいた。
「う、撃たれた……!?」「一体、どこから……っ」
残った2人はただ右往左往するばかりで、拳銃すら取り出せないでいた。
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サルーンに戻り、共にカウンターに座ったところで、アデルが話を切り出した。
「そんで、だ。実はさっき、『デリンジャー』じゃないかってヤツを見付けたんだ。つい、さっきな」
「ふうん……?」
と、グラスを磨いていたマスターが苦い顔をする。
「『デリンジャー』と言うのは……、あの『デリンジャー・セイント』ですか」
「ご名答。曰く、無差別に人を殺して回り、さらには死体の胸に十字傷と、『この者は行いを欠いた信仰である』とか、ワケ分からん文章を刻んで立ち去るとか。
ゾッとするほどイカれた野郎だ」
「聖書にある言葉ね。本来の文章は、ヤコブの手紙第2章17節、『信仰は行いを欠けば死んだものである』よ。
死体だからつまり、『行いを欠いた(動かない)信仰』ってことなんでしょうね。聞くだけで吐き気がするわ」
「全くです。……そんな話をされると言うことは、まさか」
「ああ。この町に来てる」
これを聞いて、マスターは顔をしかめた。
「本当ですか」
「ああ。ついさっき、いかにもそいつだろうってのを見た。恐らく今晩、犠牲者が出る」
「なんと……」
「だが心配するな。犠牲者はほぼ間違いなく、『ウルフ・ライダーズ』の連中さ」
「え?」
一転、きょとんとした顔をしたマスターに、アデルはこう続ける。
「その『ついさっき』ってのが――ミス・ミヌーも一緒に連れて来られた――保安官オフィスでの詰問だ。
そん時に見たんだ、『デリンジャー』を」
「……そうね。確かにあたしも見たわ。でもそれだけで、あの人がそうだって証拠になるかしら?」
「なーに、俺の目はごまかされちゃいない。あいつで間違いない。
そんなわけで、だ。今晩に備えて、今日は早めに……」
アデルが言いかけたところで、ミヌーは席を立つ。
「マスター、一人部屋って2つ空いてる?」
「2階にございます。一泊、1ドル25セントです」
「じゃ、そこ借りるわ。こいつはもういっこの部屋ね」
「かしこまりました。こちら、鍵です」
「ありがと」
ニヤニヤと目配せをするアデルを一瞥し、ミヌーはすたすたと2階への階段へと歩いて行く。
その手前でミヌーはアデルに振り向き、にこっと笑って見せた。
「それじゃ今日は早めに寝るわね。おやすみ、アデル」
「……ああ、おやすみ。夜9時には起こすよ。晩メシ、食うだろ?」
「ええ、お願いね」
そのまま階段を上がるミヌーを見送り、それからアデルはため息をついた。
「あーあ、あしらわれちまったぜ」
「金さえ払えばデートでも何でも請ける、と仰っていましたが」
「はは……、そいつが俺に払える額かは、別の話さ。
それじゃ俺も寝るとするか。マスター、鍵を」
アデルも鍵を受け取り、2階へと上がった。
そして時間は経ち、夜の10時――。
「よいしょ、……っと」
昼前にミヌーたちを拘束した「ライダーズ」たちがこそこそと、革袋を荷車に乗せて運んでいた。
中身は昼前まで、自分たちの仲間だったものである。
「こいつも災難だったよなぁ」
「まったくだ。……同情なんかしねーがな」
「確かにな。あの女にいらねー挑発したのもこいつだし、グラス投げ付けられて鼻血噴いたのもこいつ。滅多やたらに拳銃振り回して右手が千切れ飛んだのもこいつ。
……結局、自業自得って奴だ」
「兄貴じゃねーが、役に立たない上に使えない奴だってのは、確かに言えるぜ。
今だってこうやって、俺たちの手を焼かせてんだからな」
「違いねえや、ははは……」
「ひゃひゃひゃ……」
とても死体を運んでいる最中とは思えない陽気さで、彼らは荷車を運んでいた。
その時だった。
ポン、と乾いた音が、裏路地に短く響く。
「……なんだ?」
誰からともなく発せられたその問いに答える代わりに、一人ががくんと膝を着いた。
「どうした、……!?」
突然うずくまった仲間の右耳が、どこにも無い。
そこに空いた大穴からは、ドクドクと赤黒い血が噴き出していた。
「な、な、なん、っ……」
叫びかけた仲間も、同様に膝を着く。彼もまた同様に、いつの間にか左耳が弾け飛んでいた。
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