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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN ~荒野の名探偵~ 7

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    ウエスタン小説、第7話。
    「デリンジャー・セイント」。

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    7.
     と、そこへ――。
    「隠れてろ、バカ! 荷車の後ろに回り込め!」
     突然かけられた声に、残った「ライダーズ」の2人は慌てて従う。
    「お、おわ、わわわ……」
     彼らが隠れたところで、声をかけた本人――アデルと、ミヌーが現れた。
    「こう言うの、何だっけな? 因果応報って言うのか?」
    「『デリンジャー』風に言うなら、『自分で蒔いた種はまた、自分が刈り取ることになる』、ね」
     二人は暗がりに潜む、硝煙を上げる短銃(デリンジャー拳銃)を握りしめる男に目をやった。
    「僧服、どうしたの? どこかに適当なのがあったみたいね」
    「……」
    「この町にゃ教会はあっても、神父やシスターなんかはいなさそうだからな。その辺りから勝手に取って着てるんだろ。まったく、大した『聖者(セイント)』サマだぜ」
     男は静かに、月明かりの当たる場所まで歩み寄ってきた。
     その男は間違いなく、昼間「ライダーズ」たちに衣服をはぎ取られた、あの牧師だった。
    「私の邪魔をするのか、悪魔共め」
    「するさ。ならず者だろうが善悪の判断も付かないバカな若造だろうが、人が殺されようって時に見捨てられるほど、俺は冷血漢になった覚えは無いからな。
     しかし災難だったな――あんなトラブルさえなけりゃ、俺もアンタが『デリンジャー・セイント』とは気付かなかったよ。
     昼間、アンタがあいつらに剥かれてた時、短銃をあいつらが確かめてたが、単なる護身用のデリンジャーにしちゃライフリングはすり減ってるし、銃口なんかも火薬で焼けた跡があった。相当使い込んでなきゃ、あんな風にはならない。
     おまけに銃身やグリップまで改造してある――あれじゃ、『この銃は殺人用です』と言ってるようなもんだぜ。
     とは言え災難って言うなら、こいつらにとってもだがな。アンタを怒らせたりしなきゃ、こうして狙われることも……」「勘違いをするな、悪魔の手先よ」
    「セイント」は短銃に弾を込め、アデルに向ける。
    「呪われたこの町を救うため、私はやって来たのだ。私に与えられた辱めなど、些細なことに過ぎない。元よりこいつらは、滅するつもりだったのだ。
     この町は血の匂いがあまりにも濃過ぎる。その異臭の源たる悪魔共を、この聖なる銀弾で一匹残らず祓い、滅することが、私に課された使命なのだ。
     邪魔はさせんぞ!」
     そう叫び、「セイント」は――突然、身を翻した。
    「あっ……?」
     てっきりそのまま発砲してくると思い、身構えていた二人は虚を突かれる。
    「う、後ろだーッ!」
     荷車の陰に隠れていた「ライダーズ」たちが叫ぶ。
    「なに……!?」
     二人とも、とっさにその場を飛び退く。次の瞬間、二人の頭があった場所を、銀製の銃弾が飛んで行った。
    「は、速ええ……! ついさっきまでそこにいたのに!」
    「立ち去れ、悪魔よ!」
     上下2発装填のはずの短銃を、「セイント」は立て続けに5発、6発と発砲してくる。
    「指先まで速いわね、……手強いわ」
     ミヌーはかわしざまに拳銃を腰だめに構え、弾倉にあった6発全弾を撃ち尽くす。
     しかし1発も「セイント」に当たることなく、弾は建物の壁や遠くの木に当たるだけだった。
     一方、アデルも両手でライフルを構え、あちこちを走り回る「セイント」に向けて発砲するが――。
    「くっそ……、『セイント』どころか、まるでゴーストだ! 全っ然捉えられねえ!」



    「ははは……! お前たちのような悪魔ごときに、私が屈するものか!
     そろそろ決着を付けてやろう! 主の元へ召されるがいい!」
     ひた……、とミヌーの左肩に、冷たく骨ばった手が置かれる。
    「……!」
     彼女の背中に、「セイント」の持つ短銃がぐい、と当てられる。
     そして間も無く、パン、と乾いた音が、裏路地にこだました。

     ところが――。
    「……な、……なぜだ、主よ。
     私はまだ、使命を、……果たして……」
     どさっと乾いた音を立て、「セイント」はその場に倒れた。
    「『デリンジャー・セイント』だっけ。教えてあげるわ。
     こうやって使うのよ、こう言う小さい銃はね」
     ミヌーはくるりと振り返り、左手に持っていた、硝煙を上げる短銃をくるくると回して見せた。

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    ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
    ありがとうございます!
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