DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN ~荒野の名探偵~ 9
ウエスタン小説、第9話。
町を支配する者。
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9.
初めに犠牲となったのは、保安官だった。
まるで愚かな少年たちがいたずら半分で野兎を撲殺するがごとく、保安官は全身にあざを作り、バッジが無ければ判別ができないほどに顔をズタズタに引き裂かれた状態で、給水塔に吊るされていたのだ。
勿論、こんな凶行があっては村の評判に関わるし、このまま暴力で町を支配されるわけには行かないとして、町民たちはすぐに新たな保安官を立て、事件の解決を試みた。
しかしそれは、徒労に終わった――新たな保安官も、その助手も、任命されてから2日と経たないうちに、前保安官と同様の状態で、給水塔に吊るされたからだ。
町民たちの心が折られたのを見透かしたように、若者たちの多くが「ウルフ・ライダーズ」と名乗るようになり、そしてあからさまな凶行に出始めた。
これまでに吊るされたのは、全部で20名以上。一人ででも立ち向かおうとした町民、平和を願った神父やシスター、さらには仲間だったはずの若者までもが、次々と殺され、給水塔に吊るされていった。
そしてつい2日前に吊るされたのが、この町の創始者でもある名士、オリバー・パレンバーグ氏である。
「……で、『ウルフ』の兄貴はそのパレンバーグのおっさんを殺したんだけど、死ぬ間際におっさん、『東部から探偵を呼んだ』って」
「それで探偵探しか。……で」
アデルは台車にもたれかかり、続いてこう尋ねた。
「その『ウルフ』は誰なんだ?」
「……知らない」
「は?」
アデルは再度、若者二人をにらみつける。
「知らないってことがあるかよ。お前ら今の今まで『兄貴』って呼んでたじゃねえか」
「いや、本当に分かんないんだ。いつもマスクしてるし」
「声も町中で聞いた覚え、無いし。突然俺たちの前に現れて、色々命令してくるばっかりで」
「何だそりゃ……。何でそんな奴の言うこと聞こうと思うかねぇ」
「し、仕方無いだろ!? 聞かなきゃ殺すって言われるし、それに、あの……」
二人は口をそろえて、こんなことを口走った。
「逆らえないような気持ちになるんだ……。この人には絶対逆らえない、って」
「……眉唾モノだな。まあ、確かに俺も、『ウルフ』は人心を操れるってのは聞いた覚えがあるが。
じゃあ何だ、お前らは顔も知らないようなヤツに『死体運べ』って言われたから、運んでるのか?」
「……ああ」
これを聞いたアデルは、はーっとため息をつき、それから若者二人の頭を、拳骨で殴りつけた。
「痛えっ……!?」「何すんだよ!?」
「目ぇ覚ませ、バカども。
お前ら顔も分からんようなヤツに、死ぬまでこき使われる気か? いいや、このままこき使われてたらお前ら、そう遠くないうちに死ぬぞ。この革袋の中でおねんねしてるヤツみてーにな」
「うっ……」
「それでいいのか、お前ら? お前らは牛だの豚だのの家畜じゃねえ、真っ当な人として生まれたんだ。もっと自分の思う通り生きたいと、そうは思わねえのか?」
「そりゃ、まあ……」
傍でアデルの叱咤を聞いていたミヌーは内心、アデルの弁舌を評価していた。
(良くもまあ、これだけ口が回るもんね。
いいえ、回るだけじゃない。どう説得したらこの、血気盛んで自尊心の高い坊やたちを焚き付けられるか、まるで手に取るように把握してるわ。
ま、元からこの坊やたちがあまりに素直過ぎる、根っからの間抜けってのもあるだろうけど)
ミヌーの思った通り、この単純な若者たちは次第に顔を真っ赤にし、怒り出した。
「……そうだよな、あんたの言う通りだ!」
「よくよく考えたら、なんであんな奴に付き従わなきゃならねーんだ!」
いきり立つ二人を、アデルがさらにあおる。
「そう、その通りだ! 20にもならないうちから他人にへいこらする人生を送るだなんて、西部の男のすることじゃないぜ。
大体からして、お前らが『ライダーズ』なんて名乗ってこの町を治めようとしたのも、結局はこの町を守りたい、そう言う気持ちからだろう?
その愛する我が町を今まさに脅かしてるのは、誰だ?」
「『ウルフ』だ!」「そうだ、『ウルフ』だ!」
「おう、分かってるじゃねえか! じゃあどうする?」
「決まってる! あいつの言いなりになってる俺たちの仲間を説得して、『ウルフ』を袋叩きにしてやるんだ!」
「そりゃあいい! 無法にゃ無法でやり返さなくっちゃな! ……で」
と、アデルは一転、声を潜める。
「そのためにはちょっと、策を練らなきゃならない。
まずはお前らが集められるだけ、『ライダーズ』を集めてくれ。俺が説得して、反旗を翻すように仕向け……、じゃない、味方に付けよう」
その一瞬の言い直しに、ミヌーは噴き出しそうになった。
(うふふ……、なーるほど。ついでに『ウルフ』も捕まえて、その懸賞金もブン獲る、と。
あいつの懸賞金は16000ドル。あたしと折半したせいで出た4000ドルの赤字を、それで補填するつもりなのね)
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町を支配する者。
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初めに犠牲となったのは、保安官だった。
まるで愚かな少年たちがいたずら半分で野兎を撲殺するがごとく、保安官は全身にあざを作り、バッジが無ければ判別ができないほどに顔をズタズタに引き裂かれた状態で、給水塔に吊るされていたのだ。
勿論、こんな凶行があっては村の評判に関わるし、このまま暴力で町を支配されるわけには行かないとして、町民たちはすぐに新たな保安官を立て、事件の解決を試みた。
しかしそれは、徒労に終わった――新たな保安官も、その助手も、任命されてから2日と経たないうちに、前保安官と同様の状態で、給水塔に吊るされたからだ。
町民たちの心が折られたのを見透かしたように、若者たちの多くが「ウルフ・ライダーズ」と名乗るようになり、そしてあからさまな凶行に出始めた。
これまでに吊るされたのは、全部で20名以上。一人ででも立ち向かおうとした町民、平和を願った神父やシスター、さらには仲間だったはずの若者までもが、次々と殺され、給水塔に吊るされていった。
そしてつい2日前に吊るされたのが、この町の創始者でもある名士、オリバー・パレンバーグ氏である。
「……で、『ウルフ』の兄貴はそのパレンバーグのおっさんを殺したんだけど、死ぬ間際におっさん、『東部から探偵を呼んだ』って」
「それで探偵探しか。……で」
アデルは台車にもたれかかり、続いてこう尋ねた。
「その『ウルフ』は誰なんだ?」
「……知らない」
「は?」
アデルは再度、若者二人をにらみつける。
「知らないってことがあるかよ。お前ら今の今まで『兄貴』って呼んでたじゃねえか」
「いや、本当に分かんないんだ。いつもマスクしてるし」
「声も町中で聞いた覚え、無いし。突然俺たちの前に現れて、色々命令してくるばっかりで」
「何だそりゃ……。何でそんな奴の言うこと聞こうと思うかねぇ」
「し、仕方無いだろ!? 聞かなきゃ殺すって言われるし、それに、あの……」
二人は口をそろえて、こんなことを口走った。
「逆らえないような気持ちになるんだ……。この人には絶対逆らえない、って」
「……眉唾モノだな。まあ、確かに俺も、『ウルフ』は人心を操れるってのは聞いた覚えがあるが。
じゃあ何だ、お前らは顔も知らないようなヤツに『死体運べ』って言われたから、運んでるのか?」
「……ああ」
これを聞いたアデルは、はーっとため息をつき、それから若者二人の頭を、拳骨で殴りつけた。
「痛えっ……!?」「何すんだよ!?」
「目ぇ覚ませ、バカども。
お前ら顔も分からんようなヤツに、死ぬまでこき使われる気か? いいや、このままこき使われてたらお前ら、そう遠くないうちに死ぬぞ。この革袋の中でおねんねしてるヤツみてーにな」
「うっ……」
「それでいいのか、お前ら? お前らは牛だの豚だのの家畜じゃねえ、真っ当な人として生まれたんだ。もっと自分の思う通り生きたいと、そうは思わねえのか?」
「そりゃ、まあ……」
傍でアデルの叱咤を聞いていたミヌーは内心、アデルの弁舌を評価していた。
(良くもまあ、これだけ口が回るもんね。
いいえ、回るだけじゃない。どう説得したらこの、血気盛んで自尊心の高い坊やたちを焚き付けられるか、まるで手に取るように把握してるわ。
ま、元からこの坊やたちがあまりに素直過ぎる、根っからの間抜けってのもあるだろうけど)
ミヌーの思った通り、この単純な若者たちは次第に顔を真っ赤にし、怒り出した。
「……そうだよな、あんたの言う通りだ!」
「よくよく考えたら、なんであんな奴に付き従わなきゃならねーんだ!」
いきり立つ二人を、アデルがさらにあおる。
「そう、その通りだ! 20にもならないうちから他人にへいこらする人生を送るだなんて、西部の男のすることじゃないぜ。
大体からして、お前らが『ライダーズ』なんて名乗ってこの町を治めようとしたのも、結局はこの町を守りたい、そう言う気持ちからだろう?
その愛する我が町を今まさに脅かしてるのは、誰だ?」
「『ウルフ』だ!」「そうだ、『ウルフ』だ!」
「おう、分かってるじゃねえか! じゃあどうする?」
「決まってる! あいつの言いなりになってる俺たちの仲間を説得して、『ウルフ』を袋叩きにしてやるんだ!」
「そりゃあいい! 無法にゃ無法でやり返さなくっちゃな! ……で」
と、アデルは一転、声を潜める。
「そのためにはちょっと、策を練らなきゃならない。
まずはお前らが集められるだけ、『ライダーズ』を集めてくれ。俺が説得して、反旗を翻すように仕向け……、じゃない、味方に付けよう」
その一瞬の言い直しに、ミヌーは噴き出しそうになった。
(うふふ……、なーるほど。ついでに『ウルフ』も捕まえて、その懸賞金もブン獲る、と。
あいつの懸賞金は16000ドル。あたしと折半したせいで出た4000ドルの赤字を、それで補填するつもりなのね)
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