DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN ~荒野の名探偵~ 11
ウエスタン小説、第11話。
町長令嬢の醜聞。
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11.
「……なに?」
「ちょっと待って?」
二人は同時に声を挙げ、そしてミヌーが尋ねる。
「あんた、『ウルフ』の話をどこで聞いたのよ?」
「いやー、実はオレも『ウルフ』を追ってあっちこっち旅してたクチでさ。
で、ここのマスターに根掘り葉掘り聞いたり、町を探し回ったりして、情報を集めてたんだ。
それでだよ、お二方」
ディーンはテーブルに身を乗り出し、小声でこうささやいた。
「ちょっと臭う話をさ、聞いたワケなんだ」
「臭う話?」
「ああ。3日前殺されたって言う、この町の大地主で町長でもあったパレンバーグっておっさんのコトなんだけど、そのおっさんには一人娘がいる。
で、これも聞いた話なんだが、数週間前からその娘さん、誰かにアツくなっちまったとか」
得意げに話すディーンに対し、二人は冷淡に返す。
「は?」
「何の話してんだよ、お前」
「ま、ま、最後まで聞いてくれよ。大事なのはここからさぁ。
そんで4日前、つまりパレンバーグ町長の死ぬ前日にだ、町長は娘と大ゲンカしてたらしい。その内容ってのがまあ、屋敷の使用人とかからの又聞きになるんだけど、どうやら娘が誰かと結婚したいって言い出したのが原因らしい。
そしてその晩に町長は殺され、翌朝になってあの給水塔に吊るされてるところを発見された、……ってわけだ」
「だから?」
「分かんねーかなー、つまりさ、その娘のホレ込んだ相手ってのがもしかしたら、『ウルフ』なんじゃないかってコトだよ。
娘との恋路を邪魔された『ウルフ』は怒りのあまり、町長を惨殺! ああ、何と言う悲劇! ……って話だろ、どう考えても」
「飛躍し過ぎね。元々、町長は『ウルフ』を捕まえようとしてたんだし、殺されたのはその報復でしょ」
「それにしたってケンカしたその晩に、だぜ? 偶然にしちゃ、出来過ぎだろ?
逆に言えばよ、それまでにも町長は『ウルフ』探ししてたはずだろ? じゃあケンカするより前に殺されても不思議じゃない。ところが何だってその日に殺しにかかったか? オレの仮説がたとえ間違いだったとしても、確実にそのケンカの内容に、『ウルフ』を動かすだけの何かがあったんじゃないか、……と、オレはにらんでる」
「……ちょっとばかし強引な理屈もあるが、確かに臭うな」
ここまでずっと、むすっとした顔をしていたアデルは一転、真剣な目つきになる。
「色恋云々は置いといても、詳しく聞いてみるくらいの価値は、確かにありそうだ。
行ってみるか。場所は知ってるか、坊や?」
「ディーンって呼んでくれよ、アデルの兄貴。勿論知ってるぜ」
「よし、行こう。……ミヌー、お前も来るよな?」
「……ま、行くだけはね。それで結局手がかりがつかめなかったら、あたしはこれっきりにするわよ」
「ああ、いいとも」
十分ほど後、三人はパレンバーグ邸を訪れた。
しかし娘との面会を打診したところ、応対したメイドからはにべもない答えが返ってきた。
「お嬢様は現在、心労により伏せっておられます。申し訳ありませんが、お通しすることはできません」
これを受けて、アデルは得意の口を使った。
「そっか。いや、俺たちはただの余所者なんだけども、何でもつい先日、ここに住んでた町長さんが亡くなったって言うじゃないか。さぞやお嬢さん、悲しんでるだろうと思ってな。
僭越ながら贈り物でもして、少しでも心の安らぎになればと思ったんだが……、そう言う事情じゃしょうがないな」
「お気持ちだけ、お伝えしておきます。お心遣い、誠に感謝します」
「ああ。……で、これも小耳に挟んだんだが、お嬢さん、町長さんとケンカなさったんだって? さぞ心を痛めてるだろうな、謝る機会を永遠に失ったわけだし」
「ええ、まあ。……内容については、気軽にお話できるようなものではありませんが」
「ああ、うんうん、そりゃそうだ、そんなのは言っちゃいけねえや。
しかしそれにしても、町長さんがそこまで怒るような、そんな話だったのかい? 相当カッカしてたって聞いたが」
当たり障りなく、しかし「これくらいの話はしても大丈夫だろう」と思わせる範囲で、アデルはメイドからそれとなく、状況を聞き出していく。
「いえ……、内容は本当に言えませんが、私共が傍で聞く限りは――まあ、確かに突然『結婚したい人ができた』と聞かされて、仰天しない親はいないでしょうけど――あれほど激昂されるとは、思いもよりませんでしたね」
「ふうん……? 相手も当然、その時言ったんだよな?」
「いえ」
「ほう? 相手の名前も言ってないのに、結婚したいって言った途端に怒り出したって言うのか?」
「と言うよりも、私共も旦那様もその際、お相手の名前しか伺っていなかったのですが、その名前を耳にされた途端、旦那様は顔を真っ赤にして、……あ、と」
「おっとと、危ない危ない。それ以上はこれ、だな」
そう言って人差し指を唇に当てるアデルに、メイドはクスっと笑った。
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町長令嬢の醜聞。
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「……なに?」
「ちょっと待って?」
二人は同時に声を挙げ、そしてミヌーが尋ねる。
「あんた、『ウルフ』の話をどこで聞いたのよ?」
「いやー、実はオレも『ウルフ』を追ってあっちこっち旅してたクチでさ。
で、ここのマスターに根掘り葉掘り聞いたり、町を探し回ったりして、情報を集めてたんだ。
それでだよ、お二方」
ディーンはテーブルに身を乗り出し、小声でこうささやいた。
「ちょっと臭う話をさ、聞いたワケなんだ」
「臭う話?」
「ああ。3日前殺されたって言う、この町の大地主で町長でもあったパレンバーグっておっさんのコトなんだけど、そのおっさんには一人娘がいる。
で、これも聞いた話なんだが、数週間前からその娘さん、誰かにアツくなっちまったとか」
得意げに話すディーンに対し、二人は冷淡に返す。
「は?」
「何の話してんだよ、お前」
「ま、ま、最後まで聞いてくれよ。大事なのはここからさぁ。
そんで4日前、つまりパレンバーグ町長の死ぬ前日にだ、町長は娘と大ゲンカしてたらしい。その内容ってのがまあ、屋敷の使用人とかからの又聞きになるんだけど、どうやら娘が誰かと結婚したいって言い出したのが原因らしい。
そしてその晩に町長は殺され、翌朝になってあの給水塔に吊るされてるところを発見された、……ってわけだ」
「だから?」
「分かんねーかなー、つまりさ、その娘のホレ込んだ相手ってのがもしかしたら、『ウルフ』なんじゃないかってコトだよ。
娘との恋路を邪魔された『ウルフ』は怒りのあまり、町長を惨殺! ああ、何と言う悲劇! ……って話だろ、どう考えても」
「飛躍し過ぎね。元々、町長は『ウルフ』を捕まえようとしてたんだし、殺されたのはその報復でしょ」
「それにしたってケンカしたその晩に、だぜ? 偶然にしちゃ、出来過ぎだろ?
逆に言えばよ、それまでにも町長は『ウルフ』探ししてたはずだろ? じゃあケンカするより前に殺されても不思議じゃない。ところが何だってその日に殺しにかかったか? オレの仮説がたとえ間違いだったとしても、確実にそのケンカの内容に、『ウルフ』を動かすだけの何かがあったんじゃないか、……と、オレはにらんでる」
「……ちょっとばかし強引な理屈もあるが、確かに臭うな」
ここまでずっと、むすっとした顔をしていたアデルは一転、真剣な目つきになる。
「色恋云々は置いといても、詳しく聞いてみるくらいの価値は、確かにありそうだ。
行ってみるか。場所は知ってるか、坊や?」
「ディーンって呼んでくれよ、アデルの兄貴。勿論知ってるぜ」
「よし、行こう。……ミヌー、お前も来るよな?」
「……ま、行くだけはね。それで結局手がかりがつかめなかったら、あたしはこれっきりにするわよ」
「ああ、いいとも」
十分ほど後、三人はパレンバーグ邸を訪れた。
しかし娘との面会を打診したところ、応対したメイドからはにべもない答えが返ってきた。
「お嬢様は現在、心労により伏せっておられます。申し訳ありませんが、お通しすることはできません」
これを受けて、アデルは得意の口を使った。
「そっか。いや、俺たちはただの余所者なんだけども、何でもつい先日、ここに住んでた町長さんが亡くなったって言うじゃないか。さぞやお嬢さん、悲しんでるだろうと思ってな。
僭越ながら贈り物でもして、少しでも心の安らぎになればと思ったんだが……、そう言う事情じゃしょうがないな」
「お気持ちだけ、お伝えしておきます。お心遣い、誠に感謝します」
「ああ。……で、これも小耳に挟んだんだが、お嬢さん、町長さんとケンカなさったんだって? さぞ心を痛めてるだろうな、謝る機会を永遠に失ったわけだし」
「ええ、まあ。……内容については、気軽にお話できるようなものではありませんが」
「ああ、うんうん、そりゃそうだ、そんなのは言っちゃいけねえや。
しかしそれにしても、町長さんがそこまで怒るような、そんな話だったのかい? 相当カッカしてたって聞いたが」
当たり障りなく、しかし「これくらいの話はしても大丈夫だろう」と思わせる範囲で、アデルはメイドからそれとなく、状況を聞き出していく。
「いえ……、内容は本当に言えませんが、私共が傍で聞く限りは――まあ、確かに突然『結婚したい人ができた』と聞かされて、仰天しない親はいないでしょうけど――あれほど激昂されるとは、思いもよりませんでしたね」
「ふうん……? 相手も当然、その時言ったんだよな?」
「いえ」
「ほう? 相手の名前も言ってないのに、結婚したいって言った途端に怒り出したって言うのか?」
「と言うよりも、私共も旦那様もその際、お相手の名前しか伺っていなかったのですが、その名前を耳にされた途端、旦那様は顔を真っ赤にして、……あ、と」
「おっとと、危ない危ない。それ以上はこれ、だな」
そう言って人差し指を唇に当てるアデルに、メイドはクスっと笑った。
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