DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN ~荒野の名探偵~ 12
ウエスタン小説、第12話。
「ウルフ」の正体とは?
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12.
サルーンに戻ってきたところで、ディーンががっかりした声を挙げた。
「あーあ、無駄足かよぉ。コレじゃどうしようもないぜ」
ところが、アデルは活き活きとした目をしている。
「いや、そうでもないな。かなり人物像が絞れた」
「へっ?」
意外そうな顔をしたディーンに、アデルはこう説明する。
「やっぱり、パレンバーグ町長は『ウルフ』の正体に感づいてたんだ。でなきゃ名前を聞いただけで怒り出すわけが無い。
そしてその、名前を出された相手は、この町の住人じゃない可能性が非常に高い」
「どうしてそんなことまで分かるの?」
ミヌーの問いに、アデルは問いで返す。
「例えばだ――お前さん放浪歴が長そうだから、ピンとは来ないかも知れないが――親しくしてた近所のお姉さんだかが、これこれ某(なにがし)って相手を好きになったんだ、と告白してきたとする。
そのお相手が自分も知ってるヤツだったら、『前から怪しいと思ってた』とか、『あの人とだなんて意外だ』とか、そう言う感想を抱かないか?」
「うーん……、まあ、分からなくはないわね。そう思うかも」
「だろ? ところがあのおしゃべりなメイド、それについては全く何も言わなかった。お似合いとも、意外だったとも、何の感想も言ってないんだ。
ってコトはそんな風に思わない、思おうにも何の情報も無い、聞いたことのない相手、つまりこの町の住人であるメイドが知らない相手だったってコトになる」
「流石ね、探偵さん」
「どうも。で、ここから突き詰めていくとだ。
そのお嬢さんの相手ってのはこの町の住人じゃない、即ち余所者だ。しかしその反面、町には頻繁に出入りしてるヤツって可能性が高い。でなきゃホレ込むまでに至るのは難しいからな。まあ、一目ボレって可能性はあるかも知れないが。
しかしこう考えてみると、昨日の朝の出来事でいっこだけ引っかかってたコトに、一つの解答が付けられるんだ」
「どう言うこと?」
再度尋ねたミヌーに、アデルはまたも尋ね返した。
「保安官オフィスに集められたのは何人だった? そして、そこから俺の煙幕に乗じて、まんまと逃げおおせたのは何人だった?」
「え……と?」
昨日のことを思い返し、ミヌーは首をかしげる。
「そう言えば……、確かにそうね。言われて初めて気が付いた、……と言うか、忘れてたわ」
「だろ?」
「何がだよ」
納得するミヌーに対し、ディーンは唇を尖らせている。
「お二人ともさ、何の話してんだよ、ソレ」
「お前さん、算数が本当に苦手と見えるな」
アデルは呆れた顔をしつつ、こう続けた。
「5引く1引く3だ」
「はぁ?」
「いいか、昨日『ライダーズ』の連中が保安官オフィスに集めてきた余所者は、5人だ。
そのうち1人、『デリンジャー』は途中で追い出された。この時点で、残るは4人。
で、ミヌーが暴れた隙に俺が煙幕を使って、そんでこの3人が固まって逃げおおせたわけだ。ここまではお前さんも、覚えてるはずだ」
「ああ、まあ」
「計算が合わないと思わないか? 5人集められて、そこから1人追い出されて、3人逃げたんだぜ?」
「……あ」
納得したような顔を見せたディーンは、しかしすぐに腑に落ちなさそうな表情になる。
「でもソレがどうしたんだ? 1人逃げ遅れたアホがいただけじゃないのか?」
「アホはお前さんだ。あのバカで血気盛んな『ライダーズ』が、おまけにミヌーに挑発された上に、集めた奴らにまんまと逃げられた、……となりゃ、ただ一人逃げ遅れたそいつに何もしないワケが無い。ほぼ間違いなく袋叩きに遭うだろう。
だが、俺たちは今朝、そいつが何事も無かったかのようにピンピンしてるのを見てるんだ。あの給水塔の前で、野次馬に混じってな」
「じゃあ、そいつもうまく逃げたんじゃねーのか? オレたちとは別方向に」
「その可能性も無くはない。しかしもっと不可解なことが、『そいつ』に関係して起こってるんだよ。
余所者に逃げられたその後すぐ、本当にその直後に、『ライダーズ』が一人殺されている。いくらなんでも『ウルフ』のこの動きは、奇妙なほど早すぎる。
まるでその失敗を、自分のすぐ目の前で確認していたかのように、……な」
「……じゃあ、そいつなのか?」
「ああ、可能性は非常に高い。
余所者で、かつ、頻繁に町へ出入りする人間。あの保安官オフィスで、『ライダーズ』の失敗をすぐ目の前で見ていた人間――状況的な証拠ばかりだが、それでもあいつが『ウルフ』である可能性を強く示していると、俺は確信している」
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「ウルフ」の正体とは?
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サルーンに戻ってきたところで、ディーンががっかりした声を挙げた。
「あーあ、無駄足かよぉ。コレじゃどうしようもないぜ」
ところが、アデルは活き活きとした目をしている。
「いや、そうでもないな。かなり人物像が絞れた」
「へっ?」
意外そうな顔をしたディーンに、アデルはこう説明する。
「やっぱり、パレンバーグ町長は『ウルフ』の正体に感づいてたんだ。でなきゃ名前を聞いただけで怒り出すわけが無い。
そしてその、名前を出された相手は、この町の住人じゃない可能性が非常に高い」
「どうしてそんなことまで分かるの?」
ミヌーの問いに、アデルは問いで返す。
「例えばだ――お前さん放浪歴が長そうだから、ピンとは来ないかも知れないが――親しくしてた近所のお姉さんだかが、これこれ某(なにがし)って相手を好きになったんだ、と告白してきたとする。
そのお相手が自分も知ってるヤツだったら、『前から怪しいと思ってた』とか、『あの人とだなんて意外だ』とか、そう言う感想を抱かないか?」
「うーん……、まあ、分からなくはないわね。そう思うかも」
「だろ? ところがあのおしゃべりなメイド、それについては全く何も言わなかった。お似合いとも、意外だったとも、何の感想も言ってないんだ。
ってコトはそんな風に思わない、思おうにも何の情報も無い、聞いたことのない相手、つまりこの町の住人であるメイドが知らない相手だったってコトになる」
「流石ね、探偵さん」
「どうも。で、ここから突き詰めていくとだ。
そのお嬢さんの相手ってのはこの町の住人じゃない、即ち余所者だ。しかしその反面、町には頻繁に出入りしてるヤツって可能性が高い。でなきゃホレ込むまでに至るのは難しいからな。まあ、一目ボレって可能性はあるかも知れないが。
しかしこう考えてみると、昨日の朝の出来事でいっこだけ引っかかってたコトに、一つの解答が付けられるんだ」
「どう言うこと?」
再度尋ねたミヌーに、アデルはまたも尋ね返した。
「保安官オフィスに集められたのは何人だった? そして、そこから俺の煙幕に乗じて、まんまと逃げおおせたのは何人だった?」
「え……と?」
昨日のことを思い返し、ミヌーは首をかしげる。
「そう言えば……、確かにそうね。言われて初めて気が付いた、……と言うか、忘れてたわ」
「だろ?」
「何がだよ」
納得するミヌーに対し、ディーンは唇を尖らせている。
「お二人ともさ、何の話してんだよ、ソレ」
「お前さん、算数が本当に苦手と見えるな」
アデルは呆れた顔をしつつ、こう続けた。
「5引く1引く3だ」
「はぁ?」
「いいか、昨日『ライダーズ』の連中が保安官オフィスに集めてきた余所者は、5人だ。
そのうち1人、『デリンジャー』は途中で追い出された。この時点で、残るは4人。
で、ミヌーが暴れた隙に俺が煙幕を使って、そんでこの3人が固まって逃げおおせたわけだ。ここまではお前さんも、覚えてるはずだ」
「ああ、まあ」
「計算が合わないと思わないか? 5人集められて、そこから1人追い出されて、3人逃げたんだぜ?」
「……あ」
納得したような顔を見せたディーンは、しかしすぐに腑に落ちなさそうな表情になる。
「でもソレがどうしたんだ? 1人逃げ遅れたアホがいただけじゃないのか?」
「アホはお前さんだ。あのバカで血気盛んな『ライダーズ』が、おまけにミヌーに挑発された上に、集めた奴らにまんまと逃げられた、……となりゃ、ただ一人逃げ遅れたそいつに何もしないワケが無い。ほぼ間違いなく袋叩きに遭うだろう。
だが、俺たちは今朝、そいつが何事も無かったかのようにピンピンしてるのを見てるんだ。あの給水塔の前で、野次馬に混じってな」
「じゃあ、そいつもうまく逃げたんじゃねーのか? オレたちとは別方向に」
「その可能性も無くはない。しかしもっと不可解なことが、『そいつ』に関係して起こってるんだよ。
余所者に逃げられたその後すぐ、本当にその直後に、『ライダーズ』が一人殺されている。いくらなんでも『ウルフ』のこの動きは、奇妙なほど早すぎる。
まるでその失敗を、自分のすぐ目の前で確認していたかのように、……な」
「……じゃあ、そいつなのか?」
「ああ、可能性は非常に高い。
余所者で、かつ、頻繁に町へ出入りする人間。あの保安官オフィスで、『ライダーズ』の失敗をすぐ目の前で見ていた人間――状況的な証拠ばかりだが、それでもあいつが『ウルフ』である可能性を強く示していると、俺は確信している」
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