DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN ~荒野の名探偵~ 15
ウエスタン小説、最終話。
事件の終わりとコンビの誕生。
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15.
事件解決から一夜が明け、ふたたびサルーン内にて。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!? じゃあ局長、俺たちより先に『ウルフ』が行商人だって分かってたんスか!?」
アデルと、そしてミヌーの二人は、パディントン局長から今回の事件のいきさつを聞かされた。
なんとミヌーたちが訪れるよりもっと早く、局長は「ウルフ」の当たりを付けていたと言うのだ。
「ああ。しかし残念ながら、町長を含めて4名もの犠牲者を出してしまうとは。
わたしがここまで出張っていながら、とんだ失態を演じてしまったもんだよ」
「そうね。名探偵とは言い難い成果だったわね」
ミヌーの言葉に、局長は顔をしかめる。
「うーむ……。いや、言い訳するわけでは無いが、あいつも短気過ぎたんだ。
娘から突然、『ウルフ』と結婚したいから、なんて言われたもんだから、あいつは『娘を獲られるくらいなら』って怒り狂って、一人でライフル片手に乗り込んだそうなんだ。
歳を考えろ、ってもんだ。60過ぎたじいさんが一人でのこのこやって来て、30はじめの若造に敵うわけが無いと、誰でも分かるだろうに!
しかも、わたしがこの話を聞いたのが、もう死んだ後だったんだ。どうしようもできなかったんだよ、本当」
「一体誰から?」
「半分は『ウルフ』の供述からだが、もう半分はあいつの娘からさ。今頃になって謝りたいと言っていたが、……何もかも遅過ぎたわけだ」
「有名なパディントン探偵局のやった仕事にしちゃ、案外ずさんなもんね」
そう返したミヌーに、局長は口をとがらせる。
「とは言え解決はした。懸賞金もちゃんと出る。局にとってはちゃんと成果は挙げられた。
ミス・パレンバーグも悲しんではいるが、父親の遺産はかなり大きい。この先も問題なく生きていけるだろう。
あのディーンとか言う若者も、仇討ちができたから良しとしてるしな。恐らくこの町に残るか、どこかの町に流れ着くかして、後は平和に暮らすだろう。
犠牲は多かったが、一応解決できたわけだ。……と、そうだ」
急に局長が、表情を険しいものに変える。
「ネイサン、君は局に8000ドル上納するところを、4000ドルでごまかそうとしていたね?」
「う」
痛いところを突かれ、アデルは苦い顔をする。
「いや、別に構わんさ。君がわたしの目の前で言ってたように、4000ドルもそれなりの大金だからな。事情も知っているし、その点は不問にしておいてもいい。
しかしその補填に『ウルフ』を狙おうと言うのは、ちょっとばかり粗忽な作戦じゃあないか?」
「仰る通りで……」
赤面するアデルに、局長はこう続けた。
「君は頭は悪くないが、一人じゃあ突拍子もない、無茶な真似ばかりする。誰かにお目付け役を頼んで二人組で行動した方がいいと、わたしは思うんだがね」
そう言ってから、局長はミヌーの方に目をやった。
「……え? 局長さん、それってもしかして、あたしにってこと?」
「傍で見ていた限りでは、なかなか相性は悪くない感じだったよ。悪くないコンビだ。
どうだろう、ミス・ミヌー。うちの局で働いてみないかね?」
「お断りよ。誰かに縛られるのは嫌いなの」
ばっさり言い切ったミヌーに、局長はこう返してきた。
「うちで働けば、色々お得なんだがねぇ。
給金はきっちり出るし、旅費も出す。ひもじい思いを全くせずに、好き勝手に放浪ができると思えば、悪くない話だと思うがね。
君は口ではイギリスで隠居したいとか言っていたが、まだまだ今のところはこの自由の国、期待にあふれる大地を、勝手気ままに歩き回りたいんじゃあないかな?」
「……」
これを聞いたミヌーは、何も言わずサルーンの外に目をやる。
しばらく間をおいて、ミヌーは目をそらしたまま、尋ねてきた。
「一つ、聞いていいかしら」
「いいとも」
「お給金、いくらかしら?」
「月給で52ドルだ。いい仕事をすれば昇給もあるし、ボーナスも弾むつもりだよ。積立金もあるから、長く勤めてくれれば本当に、イギリスでの隠居もできるだろうね」
「……そ」
それから10分ほど後、局長が作ってくれた朝食を平らげる頃になってから――ミヌーは結局、この打診に応じた。
この、エミル・ミヌーとアデルバート・ネイサンとの出会いが、後に様々な探偵譚を生み出すこととなるが――それはまた、別の話である。
DETECTIVE WESTERN ~荒野の名探偵~ THE END
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事件の終わりとコンビの誕生。
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15.
事件解決から一夜が明け、ふたたびサルーン内にて。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!? じゃあ局長、俺たちより先に『ウルフ』が行商人だって分かってたんスか!?」
アデルと、そしてミヌーの二人は、パディントン局長から今回の事件のいきさつを聞かされた。
なんとミヌーたちが訪れるよりもっと早く、局長は「ウルフ」の当たりを付けていたと言うのだ。
「ああ。しかし残念ながら、町長を含めて4名もの犠牲者を出してしまうとは。
わたしがここまで出張っていながら、とんだ失態を演じてしまったもんだよ」
「そうね。名探偵とは言い難い成果だったわね」
ミヌーの言葉に、局長は顔をしかめる。
「うーむ……。いや、言い訳するわけでは無いが、あいつも短気過ぎたんだ。
娘から突然、『ウルフ』と結婚したいから、なんて言われたもんだから、あいつは『娘を獲られるくらいなら』って怒り狂って、一人でライフル片手に乗り込んだそうなんだ。
歳を考えろ、ってもんだ。60過ぎたじいさんが一人でのこのこやって来て、30はじめの若造に敵うわけが無いと、誰でも分かるだろうに!
しかも、わたしがこの話を聞いたのが、もう死んだ後だったんだ。どうしようもできなかったんだよ、本当」
「一体誰から?」
「半分は『ウルフ』の供述からだが、もう半分はあいつの娘からさ。今頃になって謝りたいと言っていたが、……何もかも遅過ぎたわけだ」
「有名なパディントン探偵局のやった仕事にしちゃ、案外ずさんなもんね」
そう返したミヌーに、局長は口をとがらせる。
「とは言え解決はした。懸賞金もちゃんと出る。局にとってはちゃんと成果は挙げられた。
ミス・パレンバーグも悲しんではいるが、父親の遺産はかなり大きい。この先も問題なく生きていけるだろう。
あのディーンとか言う若者も、仇討ちができたから良しとしてるしな。恐らくこの町に残るか、どこかの町に流れ着くかして、後は平和に暮らすだろう。
犠牲は多かったが、一応解決できたわけだ。……と、そうだ」
急に局長が、表情を険しいものに変える。
「ネイサン、君は局に8000ドル上納するところを、4000ドルでごまかそうとしていたね?」
「う」
痛いところを突かれ、アデルは苦い顔をする。
「いや、別に構わんさ。君がわたしの目の前で言ってたように、4000ドルもそれなりの大金だからな。事情も知っているし、その点は不問にしておいてもいい。
しかしその補填に『ウルフ』を狙おうと言うのは、ちょっとばかり粗忽な作戦じゃあないか?」
「仰る通りで……」
赤面するアデルに、局長はこう続けた。
「君は頭は悪くないが、一人じゃあ突拍子もない、無茶な真似ばかりする。誰かにお目付け役を頼んで二人組で行動した方がいいと、わたしは思うんだがね」
そう言ってから、局長はミヌーの方に目をやった。
「……え? 局長さん、それってもしかして、あたしにってこと?」
「傍で見ていた限りでは、なかなか相性は悪くない感じだったよ。悪くないコンビだ。
どうだろう、ミス・ミヌー。うちの局で働いてみないかね?」
「お断りよ。誰かに縛られるのは嫌いなの」
ばっさり言い切ったミヌーに、局長はこう返してきた。
「うちで働けば、色々お得なんだがねぇ。
給金はきっちり出るし、旅費も出す。ひもじい思いを全くせずに、好き勝手に放浪ができると思えば、悪くない話だと思うがね。
君は口ではイギリスで隠居したいとか言っていたが、まだまだ今のところはこの自由の国、期待にあふれる大地を、勝手気ままに歩き回りたいんじゃあないかな?」
「……」
これを聞いたミヌーは、何も言わずサルーンの外に目をやる。
しばらく間をおいて、ミヌーは目をそらしたまま、尋ねてきた。
「一つ、聞いていいかしら」
「いいとも」
「お給金、いくらかしら?」
「月給で52ドルだ。いい仕事をすれば昇給もあるし、ボーナスも弾むつもりだよ。積立金もあるから、長く勤めてくれれば本当に、イギリスでの隠居もできるだろうね」
「……そ」
それから10分ほど後、局長が作ってくれた朝食を平らげる頃になってから――ミヌーは結局、この打診に応じた。
この、エミル・ミヌーとアデルバート・ネイサンとの出会いが、後に様々な探偵譚を生み出すこととなるが――それはまた、別の話である。
DETECTIVE WESTERN ~荒野の名探偵~ THE END
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これにて短編ウエスタン小説、終了です。
「双月千年世界」以外の小説を書いたのは、本当に久しぶり。
2011年暮れに書いたリレー小説以来。
そう言えば今回の挿絵を提供していただいた矢端想さんとはこの頃に知り合ったんだなぁ……、などと思ってみたり。
矢端さん、本当にありがとうございました。
いつか矢端さんに挿絵を描いていただけたらと思っていたので、非常にうれしかったです(*´∀`)
この小説が好評であればまた続きを書きたいなと思っていますので、その時はまた、挿絵をお願いしたいです。
さて、半月前に「書けてない(´;ω;)」と言っていた「白猫夢 第5部」ですが、
何とか今現在、20話程度のストックは確保できました。
どうにか連載できる体裁が整えられそうです。
もう少々お待ちいただければ、再開できます。
と言うわけで、第5部の連載開始は4月20日とします。
お待たせした分、何とか面白くさせるつもりです。
これにて短編ウエスタン小説、終了です。
「双月千年世界」以外の小説を書いたのは、本当に久しぶり。
2011年暮れに書いたリレー小説以来。
そう言えば今回の挿絵を提供していただいた矢端想さんとはこの頃に知り合ったんだなぁ……、などと思ってみたり。
矢端さん、本当にありがとうございました。
いつか矢端さんに挿絵を描いていただけたらと思っていたので、非常にうれしかったです(*´∀`)
この小説が好評であればまた続きを書きたいなと思っていますので、その時はまた、挿絵をお願いしたいです。
さて、半月前に「書けてない(´;ω;)」と言っていた「白猫夢 第5部」ですが、
何とか今現在、20話程度のストックは確保できました。
どうにか連載できる体裁が整えられそうです。
もう少々お待ちいただければ、再開できます。
と言うわけで、第5部の連載開始は4月20日とします。
お待たせした分、何とか面白くさせるつもりです。
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双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
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双月千年世界 1;蒼天剣

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双月千年世界 目次 / あらすじ

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他サイトさんとの交流

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短編・掌編

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雑記

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クルマのドット絵

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携帯待受

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カウンタ、ウェブ素材

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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
はじめまして。
面白くて一気に読んでしまいました(^^)
反旗を翻した若者が吊るされちゃうシーンは悲しかったです(>_<)
その後のアデルの悲しそうな様子を見て、アデルを好きになりました。いいキャラですね(^^)
残虐なシーンなどは苦手なので目を覆いながら読みましたが(^^;
また続編も読んでみたいと思います。
私も小説や脚本を書いてますが、どれも中途半端…。
ちゃんと完成させなければと思いました(^^;
ところで『黄輪さん』ってどう読めばいいのですか?
『きりんさん』?『おうりんさん』?『きわさん』?(^^;
面白くて一気に読んでしまいました(^^)
反旗を翻した若者が吊るされちゃうシーンは悲しかったです(>_<)
その後のアデルの悲しそうな様子を見て、アデルを好きになりました。いいキャラですね(^^)
残虐なシーンなどは苦手なので目を覆いながら読みましたが(^^;
また続編も読んでみたいと思います。
私も小説や脚本を書いてますが、どれも中途半端…。
ちゃんと完成させなければと思いました(^^;
ところで『黄輪さん』ってどう読めばいいのですか?
『きりんさん』?『おうりんさん』?『きわさん』?(^^;
NoTitle
お祝いのコメントありがとうございます。
思っていた以上に人気が出ているようです。
FC2の、連日の接続障害が無ければ、
アクセス数はもっと伸びたかも知れませんね。
次回作、真面目に考えてみます。
その時はまた、よろしくお願いします。
ギャラは金銭的都合により、まだ出せませんが。
思っていた以上に人気が出ているようです。
FC2の、連日の接続障害が無ければ、
アクセス数はもっと伸びたかも知れませんね。
次回作、真面目に考えてみます。
その時はまた、よろしくお願いします。
ギャラは金銭的都合により、まだ出せませんが。
NoTitle
終了、おめでとうございます。ぱちぱち。
ちゃんとシリーズのはじまりのような体裁で終わりましたね。
新たなイメージの「西部」の創設に賛辞を贈ります。
これはこれで、魑魅魍魎が徘徊するようなあまり住みたくない西部だがなあ・・・。ラノベ向き?
乗りかかった船、このシリーズなら続編も挿絵は喜んで描かせていただきますよ!
ただ、今後あまりあちこちから依頼が来だしたりしたら身がもちませんので、いずれギャラもらうことにするかも知れませんが(←ヤラしこと言いなはんな)
ノーギャラ仕事は早いもん勝ちっ!
ちゃんとシリーズのはじまりのような体裁で終わりましたね。
新たなイメージの「西部」の創設に賛辞を贈ります。
これはこれで、魑魅魍魎が徘徊するようなあまり住みたくない西部だがなあ・・・。ラノベ向き?
乗りかかった船、このシリーズなら続編も挿絵は喜んで描かせていただきますよ!
ただ、今後あまりあちこちから依頼が来だしたりしたら身がもちませんので、いずれギャラもらうことにするかも知れませんが(←ヤラしこと言いなはんな)
ノーギャラ仕事は早いもん勝ちっ!
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NoTitle
「DW」の舞台は無法の荒野なので、時折ハードでグロテスクなシーンに出くわすこともあります。
アデルはその中でも人間性を失わないでいられる、いいヤツです。
……探偵としては少しばかりへっぽこですが。
僕も10年以上書いてますが、ちょくちょく投げっぱなしになった作品やシリーズがあります。
手を付けるのは案外簡単なんですが、完成させるのは本当に大変です。何度も何度も書き直しましたし……w
Geelさんも良い作品が作れるよう、応援します。