「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・流猫抄 2
麒麟を巡る話、第208話。
黒い猫獣人と茶色い猫獣人。
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2.
(流れに流れてこんなところまで来たけど……)
彼女は街道沿いに唯一残っていた街路樹にもたれつつ、市街地を見渡してため息をつく。
(うわさ以上ね、央北って。ゴミ売ってゴミを稼いでるようなもんじゃない)
彼女は鞄から新聞を取り出し――道端に落ちていたようなものでは無く、1ヶ月前に央中で、暇つぶしのため買ったものである――経済欄を確認する。
「1エルが……、大体で、220か230クラムってところかしら。あ、でも1ヶ月前の話だから、もっと安いかしら。
んー……、じゃあさっきあいつに投げ付けた100エルって、こっちじゃ結構価値があったのね。無駄遣いしちゃったかな」
「いいんじゃない? あたしから見ても面白かったし」
横からの声に、彼女の茶色い猫耳がぴくんと動く。
「誰、アンタ」
そこにいたのは、赤毛に黒い毛並みをした――とは言え、その生え際からは白い地毛が見え隠れしており、染めたものと分かる――自分と同じ猫獣人だった。
「誰でも。……ねえねえ、あたしにも新聞見せて」
「嫌」
「いいじゃない」
そう言うと黒耳の「猫」は、茶耳からひょいと新聞を取り上げる。
「あ、こら」
「まーまー。……ってこれも大概古いわね。
代わりにあたしの見せてあげる。こっちの方がまだ新しいわよ」
黒耳から受け取った新聞を広げ、茶耳は顔をしかめた。
「これも古いじゃない。半月前の」
「だから新しい情報が欲しかったんだけどね。……あーあ、ここって本当にボロっちい街。何にも手に入りゃしない」
「そうね。アンタのそのコーヒーゼリーみたいな耳も、簡単に染められなさそうだし」
「アンタだってそうじゃない」
黒耳は口を尖らせ、茶耳を指差す。
「アンタも染めてるクチでしょ? 色、抜けかかってるし」
「え、マジ?」
茶耳はぽふ、と両手で耳を隠す。
「あと何か、斑(まだら)になってる。自分でやったでしょ」
「え、ええ、そう」
「どっかで染髪料見付けたらさ、あたしがやってあげようか?」
馴れ馴れしく提案してくる黒耳に、茶耳は顔をしかめる。
「嫌よ。名前も知らないような奴に、触らせたくないわ」
「あ、そっか」
黒耳は新聞をリュックにしまいながら、自己紹介した。
「あたしはプレタ。あっちこっち旅してる。歳は21。好きなものはスズキのカルパッチョ。市国で食べて以来病み付きなのよ」
「そんなことまで聞いてないし、聞くつもりも、……って」
プレタを邪険にしていた茶耳が、きょとんとする。
「21歳?」
「そう」
「あたしと同い年ね」
「あれ、そうなの? もっと下かなと思ってた。童顔なのね」
「こっちの台詞よ。10代だと思ってたわ」
「……へー」
これを聞くなり、プレタはニコニコ笑い出した。
「何よ?」
「似てるなー、って」
「あたしと? ……そうね」
茶耳は何故だか、この馴れ馴れしい、同い年で同じ猫獣人の女性に、不思議な親近感を覚えていた。
「ちょっとどっかで、座って話さない? マシなの売ってる露店でも見つけてさ」
「ええ、いいわよ。
それでアンタ、名前は? あたしが名乗ったんだしさ、教えてくれてもいいかなー、って思うんだけど。
それにいつまでも『アンタ』じゃ話しにくいし」
「ん……」
茶耳は少しためらったが、こう答えた。
「……マロンよ。ちなみにアンタはスズキ、カルパッチョにしたのが好きって言ったけど、あたしは塩焼き派だから」
「あら、惜しい」
少し歩き回ったところで比較的綺麗な露店を見付け、二人は近くにあった適当な木箱に並んで腰かけた。
「はい、オレンジジュースで良かった?」
「ええ、ありがと」
最初は邪険にしていたマロンだったが、いざ話し出すと、不思議なほどプレタとは気が合った。
「ねえ、プレタは何でこんなところに?」
「特に目的も無く、って感じ。フラフラしてただけ」
「あはは……、あたしもよ。フラフラしてた」
「似てるわね、本当。背も体格も一緒くらいだし。もしかして体重やスリーサイズまで一緒だったりして」
「まさかぁ」
と、ここで会話が止まる。
二人は顔を見合わせ、ほぼ同時に口を開く。
「……上から」
そして同時に、同じ数値を述べた。
「85・58・84」
一瞬の間をおいて、プレタが顔を赤くしつつ指摘する。
「嘘つき。82・60・84でしょ」
「……バレた?」
「そりゃ、……あたしもサバ読んだもん」
「……あはははっ」
二人とも顔を真っ赤にし、大笑いした。
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黒い猫獣人と茶色い猫獣人。
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(流れに流れてこんなところまで来たけど……)
彼女は街道沿いに唯一残っていた街路樹にもたれつつ、市街地を見渡してため息をつく。
(うわさ以上ね、央北って。ゴミ売ってゴミを稼いでるようなもんじゃない)
彼女は鞄から新聞を取り出し――道端に落ちていたようなものでは無く、1ヶ月前に央中で、暇つぶしのため買ったものである――経済欄を確認する。
「1エルが……、大体で、220か230クラムってところかしら。あ、でも1ヶ月前の話だから、もっと安いかしら。
んー……、じゃあさっきあいつに投げ付けた100エルって、こっちじゃ結構価値があったのね。無駄遣いしちゃったかな」
「いいんじゃない? あたしから見ても面白かったし」
横からの声に、彼女の茶色い猫耳がぴくんと動く。
「誰、アンタ」
そこにいたのは、赤毛に黒い毛並みをした――とは言え、その生え際からは白い地毛が見え隠れしており、染めたものと分かる――自分と同じ猫獣人だった。
「誰でも。……ねえねえ、あたしにも新聞見せて」
「嫌」
「いいじゃない」
そう言うと黒耳の「猫」は、茶耳からひょいと新聞を取り上げる。
「あ、こら」
「まーまー。……ってこれも大概古いわね。
代わりにあたしの見せてあげる。こっちの方がまだ新しいわよ」
黒耳から受け取った新聞を広げ、茶耳は顔をしかめた。
「これも古いじゃない。半月前の」
「だから新しい情報が欲しかったんだけどね。……あーあ、ここって本当にボロっちい街。何にも手に入りゃしない」
「そうね。アンタのそのコーヒーゼリーみたいな耳も、簡単に染められなさそうだし」
「アンタだってそうじゃない」
黒耳は口を尖らせ、茶耳を指差す。
「アンタも染めてるクチでしょ? 色、抜けかかってるし」
「え、マジ?」
茶耳はぽふ、と両手で耳を隠す。
「あと何か、斑(まだら)になってる。自分でやったでしょ」
「え、ええ、そう」
「どっかで染髪料見付けたらさ、あたしがやってあげようか?」
馴れ馴れしく提案してくる黒耳に、茶耳は顔をしかめる。
「嫌よ。名前も知らないような奴に、触らせたくないわ」
「あ、そっか」
黒耳は新聞をリュックにしまいながら、自己紹介した。
「あたしはプレタ。あっちこっち旅してる。歳は21。好きなものはスズキのカルパッチョ。市国で食べて以来病み付きなのよ」
「そんなことまで聞いてないし、聞くつもりも、……って」
プレタを邪険にしていた茶耳が、きょとんとする。
「21歳?」
「そう」
「あたしと同い年ね」
「あれ、そうなの? もっと下かなと思ってた。童顔なのね」
「こっちの台詞よ。10代だと思ってたわ」
「……へー」
これを聞くなり、プレタはニコニコ笑い出した。
「何よ?」
「似てるなー、って」
「あたしと? ……そうね」
茶耳は何故だか、この馴れ馴れしい、同い年で同じ猫獣人の女性に、不思議な親近感を覚えていた。
「ちょっとどっかで、座って話さない? マシなの売ってる露店でも見つけてさ」
「ええ、いいわよ。
それでアンタ、名前は? あたしが名乗ったんだしさ、教えてくれてもいいかなー、って思うんだけど。
それにいつまでも『アンタ』じゃ話しにくいし」
「ん……」
茶耳は少しためらったが、こう答えた。
「……マロンよ。ちなみにアンタはスズキ、カルパッチョにしたのが好きって言ったけど、あたしは塩焼き派だから」
「あら、惜しい」
少し歩き回ったところで比較的綺麗な露店を見付け、二人は近くにあった適当な木箱に並んで腰かけた。
「はい、オレンジジュースで良かった?」
「ええ、ありがと」
最初は邪険にしていたマロンだったが、いざ話し出すと、不思議なほどプレタとは気が合った。
「ねえ、プレタは何でこんなところに?」
「特に目的も無く、って感じ。フラフラしてただけ」
「あはは……、あたしもよ。フラフラしてた」
「似てるわね、本当。背も体格も一緒くらいだし。もしかして体重やスリーサイズまで一緒だったりして」
「まさかぁ」
と、ここで会話が止まる。
二人は顔を見合わせ、ほぼ同時に口を開く。
「……上から」
そして同時に、同じ数値を述べた。
「85・58・84」
一瞬の間をおいて、プレタが顔を赤くしつつ指摘する。
「嘘つき。82・60・84でしょ」
「……バレた?」
「そりゃ、……あたしもサバ読んだもん」
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