「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・流猫抄 5
麒麟を巡る話、第211話。
荒野から蘇るものたち。
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5.
かつて央北に君臨した超大国、「中央政府」が完全に消滅して20年余りが経ち、央北の政治・経済は崩壊していた。
その顕著な例が、「クラム」と呼ばれる通貨の暴落である。元々は中央政府が発行・管理していた基軸通貨だったのだが、四半世紀前の戦争で同国が崩壊した後、その管理を担ったのはヘブン王国だった。
だが、通貨の価値は管理する国の「力」に反映される。中央政府と言う超大国ほどの国力を持たない、敗戦国のヘブン王国がクラムの管理を担っても、その価値を維持できるわけが無かったのだ。
戦前は1クラム8~10玄程度だった為替レートも、年を追うごとにクラムの価値が下がっていったため、いつしか立場は逆転。今では1クラムの価値は0.04玄程度しかなく、ヘブン王国と、それに追随してきた央北諸国の経済状況は、最悪の局面を迎えることとなった。
「そこでヘブン王国が泣きついたのが、あの胡散臭え『天政会』ってわけなんだ」
マロンたちをスカウトしてきたこの短耳の男、マルセロ・イッシオは、あの公園近くにあった露店で央北の政治経済事情を説明した。
しかしマロンたちは肩をすくめ、こう返す。
「あの、って言われてもねぇ。聞いたこと無いわ」
「同じく」
「そっか……。じゃあ、それも簡単に説明する。
天帝教は、……流石に知ってるだろ?」
「ええ。それは大丈夫。央北と央中を中心に広まってる宗教でしょ」
マロンの回答に、マルセロは微妙な顔をしつつもうなずく。
「大体合ってる。ただ、央中と央北とでは、ちょっと性格と言うか、毛色が違う。これから俺が説明するのは央北の方の、古来からある天帝教の方になる。
まあ、その央北の天帝教なんだが、昔には中央政府の中核だったこともある」
「それも歴史の勉強で聞いたわ」
「でも4世紀の黒白戦争で中央政府が負けた後、首都だったクロスセントラルから追い出された。それ以来ただの教団として、央北の片隅で縮こまってたわけなんだが、その事情が動いたのが30年前の、黒炎戦争の時なんだ。
自分たちを追い出した中央政府がこの戦争で倒れたんで、こりゃもしかしたらまた、自分たちが政治の舵取りができるようになるかもって思った急進派の連中が、シンクタンク(政治組織に関して意見・提案を立てる団体)なんてのを作った。これが『天帝教政治審議会』、通称『天政会』ってわけだ。
そして続く日上戦争で、央北をまとめてた『ヘブン』がバラバラになった時、奴らは動いた。それまで中央政府や『ヘブン』に属してた州が国として独立したはいいが、それまで『お上』に任せてたせいで、国をどう動かしていいか分からない。そんな奴らに対し、天政会はアドバイザー役と言うか、コンサルタントみたいなのを申し出た。
何をどうすればいいか途方に暮れてた奴らにとっちゃ、この申し出はさぞありがたかっただろうが、天政会にとっちゃいいカモだ。たちまち籠絡し、自分たちの言うことをただ聞かせるだけの人形、傀儡政権に仕立て上げちまった。
そんな傀儡国家がこの30年で既に6つ、央北の西側3分の1にまで及んでいる。天政会にとっては思い通りの展開になっていたが、ここでさっき言った事件が起こった」
「事件? ヘブン王国が天政会に泣きついた、って言ってたアレ?」
プレタの言葉に、マルセロは深々とうなずいて見せた。
「そう、それだ。クラム管理国であったヘブン王国がここに下ったことで、天政会は自由にクラムを操作できる権限を手に入れた。
これで央北は、ますます旧き悪しき中央政府時代に逆行していくだろうと、央北の人間の大半に呆れられる一方、央北外の投資家やら政治家は、これを好機と見ている。それは何故か?」
「うーん……?」
答えが分からず黙るマロンに対し、プレタは淀みなく答えた。
「天政会の母体、央北天帝教が金と権力持ってるからでしょ? 中央大陸以外にも信者は多いし、外交しようってことになったら話も通しやすいでしょうしね。
これまでとは桁違いに信用が増すでしょうし、連動して価値も上がっていくでしょうね」
「そう言うことだ。事実、ヘブン王国が天政会に下って以降は、クラムの価値がじわじわとではあるが、上がり始めている。
とは言え、また神様に政治を任せるなんてのは真っ平御免。そう考える央北人は、決して少なくない。それでまた黒白戦争とか黒炎戦争みたいなことになったら、嫌だからな。そう考えたこっち側、つまり央北東側の人間は、天政会に対抗するため同盟を組んだ。
それが『新央北秩序構築同盟』、通称『新央北』なんだ」
「ふーん」
二人は同時に、それだけ返す。
「ふーん、ってお前らなぁ……」
「あのね、マルセロだったっけ、あんた。あたしもマロンも、そんな政治臭い話を聞きに付いて来たわけじゃないのよ?
あたしたちにとって重要なのは、まともな金をくれるのか? ってことよ」
「あー、まあ、そうだな。そうだった。
ただ、順序を追って説明したいんだ。でないと金の話には持って行きづらい。もうちょっと付き合ってもらいたいんだが……」
「……短めに頼むわ」
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かつて央北に君臨した超大国、「中央政府」が完全に消滅して20年余りが経ち、央北の政治・経済は崩壊していた。
その顕著な例が、「クラム」と呼ばれる通貨の暴落である。元々は中央政府が発行・管理していた基軸通貨だったのだが、四半世紀前の戦争で同国が崩壊した後、その管理を担ったのはヘブン王国だった。
だが、通貨の価値は管理する国の「力」に反映される。中央政府と言う超大国ほどの国力を持たない、敗戦国のヘブン王国がクラムの管理を担っても、その価値を維持できるわけが無かったのだ。
戦前は1クラム8~10玄程度だった為替レートも、年を追うごとにクラムの価値が下がっていったため、いつしか立場は逆転。今では1クラムの価値は0.04玄程度しかなく、ヘブン王国と、それに追随してきた央北諸国の経済状況は、最悪の局面を迎えることとなった。
「そこでヘブン王国が泣きついたのが、あの胡散臭え『天政会』ってわけなんだ」
マロンたちをスカウトしてきたこの短耳の男、マルセロ・イッシオは、あの公園近くにあった露店で央北の政治経済事情を説明した。
しかしマロンたちは肩をすくめ、こう返す。
「あの、って言われてもねぇ。聞いたこと無いわ」
「同じく」
「そっか……。じゃあ、それも簡単に説明する。
天帝教は、……流石に知ってるだろ?」
「ええ。それは大丈夫。央北と央中を中心に広まってる宗教でしょ」
マロンの回答に、マルセロは微妙な顔をしつつもうなずく。
「大体合ってる。ただ、央中と央北とでは、ちょっと性格と言うか、毛色が違う。これから俺が説明するのは央北の方の、古来からある天帝教の方になる。
まあ、その央北の天帝教なんだが、昔には中央政府の中核だったこともある」
「それも歴史の勉強で聞いたわ」
「でも4世紀の黒白戦争で中央政府が負けた後、首都だったクロスセントラルから追い出された。それ以来ただの教団として、央北の片隅で縮こまってたわけなんだが、その事情が動いたのが30年前の、黒炎戦争の時なんだ。
自分たちを追い出した中央政府がこの戦争で倒れたんで、こりゃもしかしたらまた、自分たちが政治の舵取りができるようになるかもって思った急進派の連中が、シンクタンク(政治組織に関して意見・提案を立てる団体)なんてのを作った。これが『天帝教政治審議会』、通称『天政会』ってわけだ。
そして続く日上戦争で、央北をまとめてた『ヘブン』がバラバラになった時、奴らは動いた。それまで中央政府や『ヘブン』に属してた州が国として独立したはいいが、それまで『お上』に任せてたせいで、国をどう動かしていいか分からない。そんな奴らに対し、天政会はアドバイザー役と言うか、コンサルタントみたいなのを申し出た。
何をどうすればいいか途方に暮れてた奴らにとっちゃ、この申し出はさぞありがたかっただろうが、天政会にとっちゃいいカモだ。たちまち籠絡し、自分たちの言うことをただ聞かせるだけの人形、傀儡政権に仕立て上げちまった。
そんな傀儡国家がこの30年で既に6つ、央北の西側3分の1にまで及んでいる。天政会にとっては思い通りの展開になっていたが、ここでさっき言った事件が起こった」
「事件? ヘブン王国が天政会に泣きついた、って言ってたアレ?」
プレタの言葉に、マルセロは深々とうなずいて見せた。
「そう、それだ。クラム管理国であったヘブン王国がここに下ったことで、天政会は自由にクラムを操作できる権限を手に入れた。
これで央北は、ますます旧き悪しき中央政府時代に逆行していくだろうと、央北の人間の大半に呆れられる一方、央北外の投資家やら政治家は、これを好機と見ている。それは何故か?」
「うーん……?」
答えが分からず黙るマロンに対し、プレタは淀みなく答えた。
「天政会の母体、央北天帝教が金と権力持ってるからでしょ? 中央大陸以外にも信者は多いし、外交しようってことになったら話も通しやすいでしょうしね。
これまでとは桁違いに信用が増すでしょうし、連動して価値も上がっていくでしょうね」
「そう言うことだ。事実、ヘブン王国が天政会に下って以降は、クラムの価値がじわじわとではあるが、上がり始めている。
とは言え、また神様に政治を任せるなんてのは真っ平御免。そう考える央北人は、決して少なくない。それでまた黒白戦争とか黒炎戦争みたいなことになったら、嫌だからな。そう考えたこっち側、つまり央北東側の人間は、天政会に対抗するため同盟を組んだ。
それが『新央北秩序構築同盟』、通称『新央北』なんだ」
「ふーん」
二人は同時に、それだけ返す。
「ふーん、ってお前らなぁ……」
「あのね、マルセロだったっけ、あんた。あたしもマロンも、そんな政治臭い話を聞きに付いて来たわけじゃないのよ?
あたしたちにとって重要なのは、まともな金をくれるのか? ってことよ」
「あー、まあ、そうだな。そうだった。
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