「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・流猫抄 6
麒麟を巡る話、第212話。
紙幣。
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6.
マルセロはもう一度、懐から紙幣を取り出す。
「さっきの話の続きだけど、『新央北』である俺たちは、もう一度あの悪名高い中央政府を作りかねないような奴らの金は使いたくないわけだ。何故ならその金、即ちクラムは俺たちには操作できないからだ。
敵の都合で価値の変わる金を使ってるままじゃ、結局は向こうの言いなりになるしか無い。そこで俺たちは別に通貨を創ったわけだ。それがコノン、この金になる」
「金って、……さっきから気になってたんだけど」
マロンはその紙幣をマルセロの手から取り、まじまじと眺める。
「……紙よね?」
「紙だよ」
「頭おかしいの?」
「いいや、真面目さ」
「こんなの火点けたら一瞬で無くなるじゃない」
「金貨や銀貨とかだって、火事になれば熔けるだろ?
そもそも古典を紐解けば、金銀以外の安価な卑金属で通貨を造った例もある。だったら紙で造ったって問題無いさ」
「偽造し放題じゃない。ただの紙なんだし」
「ところがところが」
マルセロはマロンから紙幣を返してもらい、その表面をぐるりと指し示す。
「原版はかなり精密・精巧に作ってある。おまけに銀行の金庫とか牢屋の鍵とかに使ってる錠式魔法陣も応用して描き込んであるから、偽造はまず、不可能だ」
「ふーん……?」
良く見てみると、印刷されている絵――優しい目をした、しかしどこか間の抜けた服を着た、狐獣人の肖像画だ――は精密に描かれており、確かに真似して描けそうにはない。また、その版画の下に魔法陣らしき光彩があり、これも半端な魔術では誤魔化せそうにない。
「なるほどね。偽造できなさそう」
「だろ? 実際、その点が認められたのと、発行元の俺たちが積極的に使うよう徹底しているのとで、既にこいつは『新央北』圏内じゃ真っ当な通貨として使われている。
今あんたらが食ってるその海老とレタスのサンドとオレンジジュースだって、コノンで売ってるしな。ほれ、メニュー見てみ」
言われるままに、二人はメニューを確認する。
「……ホントだ。『サンドイッチ:どれも6コノン』って書いてある」
「でも、この店があたしたちを騙すために作ったって可能性も……」「馬鹿言っちゃいけない」
プレタの不安に、マルセロは苛立った顔を見せる。
「そんなに言うならだ。10コノン渡すから、周りの適当な店に入って買い物してみろよ」
「いいわよ」
マルセロからコノンを受け取り、プレタはその場を離れようとする。
「……あんた、もしこれが本当に使えるとして、よ?」
「ん?」
「あたしがそのまま逃げるとは思わないの?」
「妹を置いてか?」
「……はい?」
きょとんとしたプレタに、マルセロも同様に「あれ?」と声を漏らし、マロンを指差す。
「こっちが姉さんか?」
「えっ」
マルセロの言葉に、マロンとプレタは顔を見合わせた。
「姉妹?」
「そんなに顔も似てて、同じ猫獣人で、使う得物まで一緒。まさかそれで姉妹じゃないって言わないよな?」
こう言われ、マロンは噴き出した。
「……ぷ、くく」
「あはは……」
笑い出す二人に、マルセロは怪訝な顔を見せる。
「何だ? 何か、おかしかったか?」
マロンは笑いをこらえながら、小さくうなずいた。
「いえ、いえね、……ああ、まあ、いいわ。
ええ、そっちが姉でいいわ」
「そうか。まあ、とにかく使ってみてくれ。本当に使えるから」
実際にプレタが使ってみたところ、確かにコノンでの支払いができた。
「使えたわ。はい、チョコクレープとベビーケーキとココア」
「……まさか、全部使ってないよな」
不安がるマルセロに、プレタはぺらぺらと手を振って返す。
「使ったわよ。きっちり10コノン」
「お前なぁ……、まあ、いいか。これで分かってくれたな?」
「ええ、信じるわ」
「あんたらが俺たちに協力してくれたら――勿論、働きに応じてだけど――コノンで報酬を支払う。この街、いや、『新央北』圏内にいる限りは不自由しない程度には払うつもりだ。
まあ、この街だって確かに汚いが、そこそこには飯はうまいし、日用品も揃ってる。ちょっと長居しても不満は無いと思うぜ」
「……んー」
プレタとマロンはもう一度顔を見合わせ、同時にうなずいた。
「いいわ。どうせブラブラ旅してた身だし、ちゃんと金になるなら傭兵くらい、してあげる」
「ありがとよ。……っと、じゃあとりあえず、俺の本拠地に来てもらおうか。そこで仕事の話をしたい」
「分かったわ。じゃ、おやつはそっちで食べるとしましょうか」
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紙幣。
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6.
マルセロはもう一度、懐から紙幣を取り出す。
「さっきの話の続きだけど、『新央北』である俺たちは、もう一度あの悪名高い中央政府を作りかねないような奴らの金は使いたくないわけだ。何故ならその金、即ちクラムは俺たちには操作できないからだ。
敵の都合で価値の変わる金を使ってるままじゃ、結局は向こうの言いなりになるしか無い。そこで俺たちは別に通貨を創ったわけだ。それがコノン、この金になる」
「金って、……さっきから気になってたんだけど」
マロンはその紙幣をマルセロの手から取り、まじまじと眺める。
「……紙よね?」
「紙だよ」
「頭おかしいの?」
「いいや、真面目さ」
「こんなの火点けたら一瞬で無くなるじゃない」
「金貨や銀貨とかだって、火事になれば熔けるだろ?
そもそも古典を紐解けば、金銀以外の安価な卑金属で通貨を造った例もある。だったら紙で造ったって問題無いさ」
「偽造し放題じゃない。ただの紙なんだし」
「ところがところが」
マルセロはマロンから紙幣を返してもらい、その表面をぐるりと指し示す。
「原版はかなり精密・精巧に作ってある。おまけに銀行の金庫とか牢屋の鍵とかに使ってる錠式魔法陣も応用して描き込んであるから、偽造はまず、不可能だ」
「ふーん……?」
良く見てみると、印刷されている絵――優しい目をした、しかしどこか間の抜けた服を着た、狐獣人の肖像画だ――は精密に描かれており、確かに真似して描けそうにはない。また、その版画の下に魔法陣らしき光彩があり、これも半端な魔術では誤魔化せそうにない。
「なるほどね。偽造できなさそう」
「だろ? 実際、その点が認められたのと、発行元の俺たちが積極的に使うよう徹底しているのとで、既にこいつは『新央北』圏内じゃ真っ当な通貨として使われている。
今あんたらが食ってるその海老とレタスのサンドとオレンジジュースだって、コノンで売ってるしな。ほれ、メニュー見てみ」
言われるままに、二人はメニューを確認する。
「……ホントだ。『サンドイッチ:どれも6コノン』って書いてある」
「でも、この店があたしたちを騙すために作ったって可能性も……」「馬鹿言っちゃいけない」
プレタの不安に、マルセロは苛立った顔を見せる。
「そんなに言うならだ。10コノン渡すから、周りの適当な店に入って買い物してみろよ」
「いいわよ」
マルセロからコノンを受け取り、プレタはその場を離れようとする。
「……あんた、もしこれが本当に使えるとして、よ?」
「ん?」
「あたしがそのまま逃げるとは思わないの?」
「妹を置いてか?」
「……はい?」
きょとんとしたプレタに、マルセロも同様に「あれ?」と声を漏らし、マロンを指差す。
「こっちが姉さんか?」
「えっ」
マルセロの言葉に、マロンとプレタは顔を見合わせた。
「姉妹?」
「そんなに顔も似てて、同じ猫獣人で、使う得物まで一緒。まさかそれで姉妹じゃないって言わないよな?」
こう言われ、マロンは噴き出した。
「……ぷ、くく」
「あはは……」
笑い出す二人に、マルセロは怪訝な顔を見せる。
「何だ? 何か、おかしかったか?」
マロンは笑いをこらえながら、小さくうなずいた。
「いえ、いえね、……ああ、まあ、いいわ。
ええ、そっちが姉でいいわ」
「そうか。まあ、とにかく使ってみてくれ。本当に使えるから」
実際にプレタが使ってみたところ、確かにコノンでの支払いができた。
「使えたわ。はい、チョコクレープとベビーケーキとココア」
「……まさか、全部使ってないよな」
不安がるマルセロに、プレタはぺらぺらと手を振って返す。
「使ったわよ。きっちり10コノン」
「お前なぁ……、まあ、いいか。これで分かってくれたな?」
「ええ、信じるわ」
「あんたらが俺たちに協力してくれたら――勿論、働きに応じてだけど――コノンで報酬を支払う。この街、いや、『新央北』圏内にいる限りは不自由しない程度には払うつもりだ。
まあ、この街だって確かに汚いが、そこそこには飯はうまいし、日用品も揃ってる。ちょっと長居しても不満は無いと思うぜ」
「……んー」
プレタとマロンはもう一度顔を見合わせ、同時にうなずいた。
「いいわ。どうせブラブラ旅してた身だし、ちゃんと金になるなら傭兵くらい、してあげる」
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