「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・流猫抄 7
麒麟を巡る話、第213話。
変人侯爵。
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7.
マルセロに案内され、二人は大きな屋敷へと入った。
「街中ゴミだらけだったけど、ここは綺麗ね。塵ひとつ落ちてないし、それなりに金持ちそうな造り」
プレタにそう褒められ、マルセロは「はは……」と笑う。
「言わば市長官邸だからな。ここが汚かったらどうしようもないぜ」
「市長官邸?」
マロンに尋ねられ、マルセロは廊下を歩きつつ説明する。
「本来の名前は旧トランプ邸つって、元々この街の大地主の家だったんだが、何だかんだで没落したらしい。で、当時の市長が買い取ったらしいが、なーんでか……」
廊下の途中にあった、人相のまるで揃わない肖像画の列を指差し、マルセロは笑う。
「その市長やってた奴の一家も、代が替わった途端に破産して夜逃げ。その後も何度か持ち主が替わったんだが、三代保った試しが無い。
やがてこの家は……」
くる、と二人に向き直り、マルセロは声色を変えてこう続けた。
「『貧乏神邸』なんて言う、ひでー名前が付いたってわけさ」
「……そんないわくつきの家を官邸に?」
怪訝な顔をしたプレタに、マルセロは肩をすくめて見せた。
「そこが俺の雇い主、トラス卿の一番ヘンなところさ。変わり者なんだ、トラス卿は」
と、マルセロの背後からすう……、と音も無く、狼獣人の男性が忍び寄ってきた。
「変わり者で結構」「おわっ!?」
その狼獣人に肩をつかまれ、マルセロは目を丸くする。
「き、卿!?」
「私くらい変人でなきゃ、わざわざ紙で金を造ろうだなんて思わんよ。しかし実際は大成功してるわけだ。じゃあ変わり者だっていいじゃないか。そうでしょう、お嬢さん?」
「はあ……」
目を白黒させているマロンに、その銀髪に茶と銀の毛並をした狼獣人はにっこりと笑いかけた。
「お初にお目にかかります、『猫』のお嬢さん方。私が『新央北』の風雲児、ショウ・トラス侯爵だ。以後、お見知り置きを」
「ど、どうも」
マルセロが言った通り、確かにトラス卿は変人のようだった。
「そもそもこの家を買った経緯だが、元々は私の父が央北分裂の際、この街とその周辺を国として独立させたわけでな。
分裂前、父は『ヘブン』の内務大臣でね。『ヘブン』の王様があんまりにも信用が無さそうだ、ああこりゃ『ヘブン』も長くないなと見切って、早々にこの街を我が物にしようと画策したと言うわけだ。
その目論見は成功し、ついでにヘブン王国からちょっとばかし――ヘブンズ・クラムじゃない方の、通称『オリジナル』クラムで7、8億ほど――ちょろまかし、トラス王国を立ち上げたわけだ」
トラス卿は二人が席に着くなり、ぺらぺらと自分とこの国の経歴を語りだした。
「なかなかの出世譚ですね」
プレタがそう返したが、トラス卿は一転、しょんぼりとした顔になる。
「いやぁ、ところがだ。お嬢さんもご存知の通り、オリジナル・クラムからヘブンズ・クラムに切り替わって以降、価値は著しく下がってしまったわけで。独立当初は栄華を極めた我が国も、コノン発行前までは貧乏、貧乏で汲々としていた」
かと思うと、今度は居丈高になる。
「その上鼻持ちならぬあの天政会がヘブン王国を牛耳り、クラムの命脈を握り締めてしまった! これはいよいよ古の悪夢、神権政治による中央政府の復活となるのではないか、そう危惧する者も大勢……」「そこは聞きました」「おお、そうだったか」
トラス卿は表情を真面目なものにころっと変え、こう続ける。
「まあ、そうした諸侯を集めて同盟を作り、『天政会』に対抗しようと蹶起。それが現在、私が主導している『新央北』と言うわけだ」
得意げな顔をしたトラス卿に、マロンが尋ねる。
「あの……、それで卿、この家を購入された経緯と言うのは?」
「あ、そうだった。いやいや、脱線してしまって申し訳無い。
そうそう、父がトラス王国を建国した時官邸にしていたのが、父の持っていた別荘でな。しかし国としての体面が整うにつれて、何かと手狭になってしまった。
じゃあもっと大きい屋敷を造るか買うかしようと言うことになり、そこで目を付けたのがこの、『貧乏神邸』だった。
イッシオ君から聞いた通り、この屋敷は悪評のために誰も住みたがらず、ずーっと空き家となっていたから、かなりの安値で買えた、と言うわけだ」
「なるほど」
「もしも悪評が本物だったら、私か、私の子供の代で潰れるとのことだが、……ま、その点は心配無用。
私には子供どころか、伴侶もいないのでな、わはは……」
トラス卿は笑って見せたが、二人と、横にいたマルセロは苦笑いを返すしかなかった。
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変人侯爵。
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マルセロに案内され、二人は大きな屋敷へと入った。
「街中ゴミだらけだったけど、ここは綺麗ね。塵ひとつ落ちてないし、それなりに金持ちそうな造り」
プレタにそう褒められ、マルセロは「はは……」と笑う。
「言わば市長官邸だからな。ここが汚かったらどうしようもないぜ」
「市長官邸?」
マロンに尋ねられ、マルセロは廊下を歩きつつ説明する。
「本来の名前は旧トランプ邸つって、元々この街の大地主の家だったんだが、何だかんだで没落したらしい。で、当時の市長が買い取ったらしいが、なーんでか……」
廊下の途中にあった、人相のまるで揃わない肖像画の列を指差し、マルセロは笑う。
「その市長やってた奴の一家も、代が替わった途端に破産して夜逃げ。その後も何度か持ち主が替わったんだが、三代保った試しが無い。
やがてこの家は……」
くる、と二人に向き直り、マルセロは声色を変えてこう続けた。
「『貧乏神邸』なんて言う、ひでー名前が付いたってわけさ」
「……そんないわくつきの家を官邸に?」
怪訝な顔をしたプレタに、マルセロは肩をすくめて見せた。
「そこが俺の雇い主、トラス卿の一番ヘンなところさ。変わり者なんだ、トラス卿は」
と、マルセロの背後からすう……、と音も無く、狼獣人の男性が忍び寄ってきた。
「変わり者で結構」「おわっ!?」
その狼獣人に肩をつかまれ、マルセロは目を丸くする。
「き、卿!?」
「私くらい変人でなきゃ、わざわざ紙で金を造ろうだなんて思わんよ。しかし実際は大成功してるわけだ。じゃあ変わり者だっていいじゃないか。そうでしょう、お嬢さん?」
「はあ……」
目を白黒させているマロンに、その銀髪に茶と銀の毛並をした狼獣人はにっこりと笑いかけた。
「お初にお目にかかります、『猫』のお嬢さん方。私が『新央北』の風雲児、ショウ・トラス侯爵だ。以後、お見知り置きを」
「ど、どうも」
マルセロが言った通り、確かにトラス卿は変人のようだった。
「そもそもこの家を買った経緯だが、元々は私の父が央北分裂の際、この街とその周辺を国として独立させたわけでな。
分裂前、父は『ヘブン』の内務大臣でね。『ヘブン』の王様があんまりにも信用が無さそうだ、ああこりゃ『ヘブン』も長くないなと見切って、早々にこの街を我が物にしようと画策したと言うわけだ。
その目論見は成功し、ついでにヘブン王国からちょっとばかし――ヘブンズ・クラムじゃない方の、通称『オリジナル』クラムで7、8億ほど――ちょろまかし、トラス王国を立ち上げたわけだ」
トラス卿は二人が席に着くなり、ぺらぺらと自分とこの国の経歴を語りだした。
「なかなかの出世譚ですね」
プレタがそう返したが、トラス卿は一転、しょんぼりとした顔になる。
「いやぁ、ところがだ。お嬢さんもご存知の通り、オリジナル・クラムからヘブンズ・クラムに切り替わって以降、価値は著しく下がってしまったわけで。独立当初は栄華を極めた我が国も、コノン発行前までは貧乏、貧乏で汲々としていた」
かと思うと、今度は居丈高になる。
「その上鼻持ちならぬあの天政会がヘブン王国を牛耳り、クラムの命脈を握り締めてしまった! これはいよいよ古の悪夢、神権政治による中央政府の復活となるのではないか、そう危惧する者も大勢……」「そこは聞きました」「おお、そうだったか」
トラス卿は表情を真面目なものにころっと変え、こう続ける。
「まあ、そうした諸侯を集めて同盟を作り、『天政会』に対抗しようと蹶起。それが現在、私が主導している『新央北』と言うわけだ」
得意げな顔をしたトラス卿に、マロンが尋ねる。
「あの……、それで卿、この家を購入された経緯と言うのは?」
「あ、そうだった。いやいや、脱線してしまって申し訳無い。
そうそう、父がトラス王国を建国した時官邸にしていたのが、父の持っていた別荘でな。しかし国としての体面が整うにつれて、何かと手狭になってしまった。
じゃあもっと大きい屋敷を造るか買うかしようと言うことになり、そこで目を付けたのがこの、『貧乏神邸』だった。
イッシオ君から聞いた通り、この屋敷は悪評のために誰も住みたがらず、ずーっと空き家となっていたから、かなりの安値で買えた、と言うわけだ」
「なるほど」
「もしも悪評が本物だったら、私か、私の子供の代で潰れるとのことだが、……ま、その点は心配無用。
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