「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・流猫抄 8
麒麟を巡る話、第214話。
ダーティー・マネーゲーム。
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8.
トラス卿が一々話を脱線させてしまうため、二人はマルセロから仕事内容の説明を受けた。
「二人にやってもらいたい仕事についてだが、まずは『新央北』と『天政会』の対立状況から説明させてもらう。
現在、『天政会』は央中・央南やその他外大陸との金融・為替取引を繰り返している状態だ。各地に散らばる天帝教徒の豪商や有力者層と密かに連携を取り、クラムを高騰させようとしてるんだ」
「『高騰させようと』って、そんな簡単にできるものなの?」
尋ねたプレタに、トラス卿が答える。
「そんなに難しい話じゃない。今だって金ヅルが付いたって評判だけで、簡単にクラム高に転じている。
それに『天政会』の政治・経済復興のノウハウは馬鹿にできない。ヘブン王国を初めとして、支配下にある国が順調に経済成長すれば、比例してクラムの価値も見直される。
むしろ今までの低成長は、『天政会』がわざと市場操作して抑えつけてた節もあるくらいだから、奴らはこうなることを、ずっと狙ってたのかも知れん」
「そうなの?」
「ま、それを前提として、だ。
クラム高騰後にヘブン王国に圧力をかけ、大量にクラムを発行すれば、それだけで奴らは世界一の大金持ちになる。無論、大量発行によって多少のクラム安にはなるだろうが、それを補って余りある利益が懐に収まるはずだ。
しかしこの前提条件には、一つのネックがある。それは『順調に経済成長すれば』ってことだ」
「……ふーん」
と、プレタは話の先を読んだらしい。
「つまり『天政会』の主導によって経済成長しようとしてる国に攻め込んで引っ掻き回せば、その目論見を潰せる、と?」
「そう言うことだ。そしてそこにトラス卿は、いくつかの仕掛けを施している」
「うむ」
トラス卿は側にあった金庫から、何枚かの証文の束を取り出した。
「例えば――何人かの代理人を通して、『天政会』支配圏の国に対し、コノン建てで国債や各商会・商社、その他団体の債券を購入している。今はまだ価値の低いコノンだし、一般の人間はこんな裏工作があろうなどとは知る由も無いから、喜んで支払ってくれる。
ところが、我々の目論見が見事達成され、クラムの価値が暴落した暁には、コノンは相対的に価値を高めている。そこで債権の償還(利息付きでの返済)を求めるが、それは恐らくデフォルト(債務不履行)となるだろうし、そうなった場合、我々は現物を差し押さえる。
その現物と言うのが、つまり――」
「クラム通貨圏内の動産、不動産ってわけね。うまく行けば敵を国ごと買える、と」
「そう言うことだ。その他にも色々、奴らの取引に紛れ込む形で仕掛けを施している。
君たちの活躍によってクラムが今以上に暴落し、代わりにコノンが暴騰すれば、我々の方が世界一の金持ちになれると言うわけだ。
そうなった場合、君たちに支払ったコノンは……」
「今はクズ同然でも、その時には巨万の富になってる、ってわけね」
「うむ」
得意満面にうなずいたトラス卿だったが、すぐに浮かない顔をする。
「しかし問題が3つある」
「と言うと?」
「一つは、かなり乱暴に暴れ回らなければこの作戦が実らない、と言うことだ。ちょっとやそっと引っ掻き回した程度では、奴らの成長計画をご破算にするのは難しい。
それに関連して二つ目だが、やり過ぎても駄目だ」
「なんで?」
尋ねたマロンに、プレタが答える。
「アンタ、散々打ち倒してボロボロになった相手の土地やら商会やら、欲しい?」
「あ、そう言うことね」
「そう、その通りだ。あまり破壊行為をやり過ぎると、いざ我々が買い取る場合、その価値を著しく損ねてしまっている可能性が高まる。
できれば計画の邪魔程度に抑え、人員や施設、その他生産地などの破壊はしないようにしてほしい」
「分かったわ」
「そして三つ目だが、これが最も君たちにとって過酷な要因となる。
奴らも我々がこうして邪魔しにくることは読んでいるはずだ。となれば、その阻止を行おうとするのは当然だ」
「つまりその、実際に阻止しようって奴らとあたしたちが衝突するってわけね」
プレタの言葉に、マルセロがうなずく。
「ああ。既に俺たちの情報網で、奴らが支配下の各国から兵隊を集めて防衛隊を結成したと言う情報をキャッチしている。
そして央中の金火狐商会から、大量に武器・弾薬を買い付けたって情報もな」
「さぞ手強そうね」
「……で、どうだろう?」
と、トラス卿が不安げな目でプレタたちを眺めてくる。
「非常に危険であるし、困難な仕事でもある。しかし報酬は間違いなく支払う。
やってくれるか……?」
「いいわよ」
プレタとマロンは逡巡する様子も見せず、同時に承諾した。
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トラス卿が一々話を脱線させてしまうため、二人はマルセロから仕事内容の説明を受けた。
「二人にやってもらいたい仕事についてだが、まずは『新央北』と『天政会』の対立状況から説明させてもらう。
現在、『天政会』は央中・央南やその他外大陸との金融・為替取引を繰り返している状態だ。各地に散らばる天帝教徒の豪商や有力者層と密かに連携を取り、クラムを高騰させようとしてるんだ」
「『高騰させようと』って、そんな簡単にできるものなの?」
尋ねたプレタに、トラス卿が答える。
「そんなに難しい話じゃない。今だって金ヅルが付いたって評判だけで、簡単にクラム高に転じている。
それに『天政会』の政治・経済復興のノウハウは馬鹿にできない。ヘブン王国を初めとして、支配下にある国が順調に経済成長すれば、比例してクラムの価値も見直される。
むしろ今までの低成長は、『天政会』がわざと市場操作して抑えつけてた節もあるくらいだから、奴らはこうなることを、ずっと狙ってたのかも知れん」
「そうなの?」
「ま、それを前提として、だ。
クラム高騰後にヘブン王国に圧力をかけ、大量にクラムを発行すれば、それだけで奴らは世界一の大金持ちになる。無論、大量発行によって多少のクラム安にはなるだろうが、それを補って余りある利益が懐に収まるはずだ。
しかしこの前提条件には、一つのネックがある。それは『順調に経済成長すれば』ってことだ」
「……ふーん」
と、プレタは話の先を読んだらしい。
「つまり『天政会』の主導によって経済成長しようとしてる国に攻め込んで引っ掻き回せば、その目論見を潰せる、と?」
「そう言うことだ。そしてそこにトラス卿は、いくつかの仕掛けを施している」
「うむ」
トラス卿は側にあった金庫から、何枚かの証文の束を取り出した。
「例えば――何人かの代理人を通して、『天政会』支配圏の国に対し、コノン建てで国債や各商会・商社、その他団体の債券を購入している。今はまだ価値の低いコノンだし、一般の人間はこんな裏工作があろうなどとは知る由も無いから、喜んで支払ってくれる。
ところが、我々の目論見が見事達成され、クラムの価値が暴落した暁には、コノンは相対的に価値を高めている。そこで債権の償還(利息付きでの返済)を求めるが、それは恐らくデフォルト(債務不履行)となるだろうし、そうなった場合、我々は現物を差し押さえる。
その現物と言うのが、つまり――」
「クラム通貨圏内の動産、不動産ってわけね。うまく行けば敵を国ごと買える、と」
「そう言うことだ。その他にも色々、奴らの取引に紛れ込む形で仕掛けを施している。
君たちの活躍によってクラムが今以上に暴落し、代わりにコノンが暴騰すれば、我々の方が世界一の金持ちになれると言うわけだ。
そうなった場合、君たちに支払ったコノンは……」
「今はクズ同然でも、その時には巨万の富になってる、ってわけね」
「うむ」
得意満面にうなずいたトラス卿だったが、すぐに浮かない顔をする。
「しかし問題が3つある」
「と言うと?」
「一つは、かなり乱暴に暴れ回らなければこの作戦が実らない、と言うことだ。ちょっとやそっと引っ掻き回した程度では、奴らの成長計画をご破算にするのは難しい。
それに関連して二つ目だが、やり過ぎても駄目だ」
「なんで?」
尋ねたマロンに、プレタが答える。
「アンタ、散々打ち倒してボロボロになった相手の土地やら商会やら、欲しい?」
「あ、そう言うことね」
「そう、その通りだ。あまり破壊行為をやり過ぎると、いざ我々が買い取る場合、その価値を著しく損ねてしまっている可能性が高まる。
できれば計画の邪魔程度に抑え、人員や施設、その他生産地などの破壊はしないようにしてほしい」
「分かったわ」
「そして三つ目だが、これが最も君たちにとって過酷な要因となる。
奴らも我々がこうして邪魔しにくることは読んでいるはずだ。となれば、その阻止を行おうとするのは当然だ」
「つまりその、実際に阻止しようって奴らとあたしたちが衝突するってわけね」
プレタの言葉に、マルセロがうなずく。
「ああ。既に俺たちの情報網で、奴らが支配下の各国から兵隊を集めて防衛隊を結成したと言う情報をキャッチしている。
そして央中の金火狐商会から、大量に武器・弾薬を買い付けたって情報もな」
「さぞ手強そうね」
「……で、どうだろう?」
と、トラス卿が不安げな目でプレタたちを眺めてくる。
「非常に危険であるし、困難な仕事でもある。しかし報酬は間違いなく支払う。
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