「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・流猫抄 9
麒麟を巡る話、第215話。
姉妹の契りと、古い夢。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
9.
「おお、そうか! いや、非常に助かる、ありがとう」
喜ぶトラス卿に、二人はまた同時に人差し指を立て、条件を出す。
「その代わり報酬と、しばらくあたしたちの住む場所は、うんと奮発してよね」
「ああ、いいとも。……いや、そうだな」
トラス卿は一瞬考え込む様子を見せ、こう返した。
「二人ともここに住むか?」
「え?」
「この街で住むのに一番いい場所は、間違いなくここだ。不足は無いが、どうかな?」
「いいの?」
「私しか住んでないからな。一人で持て余していたところだ。
いや、無論、こんなむさ苦しい中年男がずっと側にいるなんて嫌だ、と言うなら、別の住まいを探すが」
「……んー」
プレタがマロンに耳打ちし、相談する。
「あたしは別に構わないけど、あんたは?」
「いいわよ? 面白いおっさんだし」
「じゃ、決まりね」
二人がうなずいたところで、トラス卿はにっこりと笑った。
「うむ、よろしく。……と、名前を聞いてなかったな」
「あ、そう言えばそうね。あたしはプレタ。こっちはマロン。姉妹みたいなもんよ」
「うむ。……では早速、部屋を見繕うとしよう」
トラス卿から部屋を与えられ、二人は早速休むことにした。
「作戦会議は明日、別のところで行う。それじゃゆっくり休んでくれ」
「ありがと」
と――扉を閉める直前、トラス卿が不安そうな顔をする。
「遠慮してないか?」
「いいえ?」
「一人一部屋でも構わないんだが……、本当に二人一緒で良かったか?」
「ええ。色々話もあるから」
「そうか。……うん、まあ、それじゃ。
お休み、お嬢さん方」
扉が閉まったところで、ベッドに腰掛けていたマロンが口を開く。
「……完璧、姉妹ってことになったわね」
「いいじゃない。あれこれ説明するより手っ取り早いし」
「あ、ううん。不満は無いのよ。ただ……」
「ただ?」
マロンはニッと、口角を上げて見せた。
「あたし、お姉ちゃん欲しかったのよね。兄とかはいたけど」
「……そーね。あたしも妹とか、女の子の兄弟欲しかったわ」
「えへへ……」
どちらからともなく、笑いが漏れる。
「ね、ね」
「ん?」
マロンはベッドからぴょんと立ち上がり、プレタにこう耳打ちした。
「あたしたちに苗字付けるとしたら、何にする?」
「んー……、そうね……」
悩むプレタに、マロンが続ける。
「あたし、いい案があるのよ。ミニーノってどう?」
「……いいかもね。じゃ、これからしばらくはミニーノ姉妹ってことね」
「うふふ……、よろしくね」
マロンは顔を真っ赤にしつつ、ベッドに寝転んだ。
「じゃ、お休みっ!」
「はいはい、お休み」
プレタも自分のベッドに入り、すぐに眠りに就いた。
彼女は夢を見た。
それはまだ13歳の頃――彼女が央南にいた頃の思い出だった。
「ねえ、朔明さん」
「うん……?」
傍らで自分を優しく眺めてくれていた男に、彼女は微笑んだ。
「あたし……、あなたの悲願が叶えられるなら、何でもするから」
「ああ……」
男は彼女の唇に、ちょんと自分の唇を重ねた。
「君が手を貸してくれるなら、成功しないはずが無いさ」
「ええ。……ええ、だから、……朔明さん」
「ん?」
「……あたしを、愛してると言って。そう言ってくれたら、あたし、この先一生、あなたに付いて行くから」
「……はは」
男は笑い、彼女の頭を撫でながら、彼女の言う通りに応えた。
「愛してるよ、月乃」
そう答えた男の顔は――木の洞のようだった。
「うあ……っ!」
がば、と飛び起きる。
「……はぁ……はぁ……」
甘い思い出が悪夢に変わり、彼女は全身に汗をかいていた。
「……んにゃ……どうしたの……?」
声をかけられたが、彼女は取り繕う。
「……ううん、何でもない。変な夢見ちゃった」
「……こっちで一緒に寝る……?」
その提案に、彼女は素直に従った。
「そうするわ。……ごめんね、お邪魔するわ」
「いいわよ、そんなの……」
今度は二人で一緒に、眠りに就く。
かつて「黄月乃」だった彼女は――今度は昔の夢を見ず、ゆっくりと眠ることができた。
白猫夢・流猫抄 終
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姉妹の契りと、古い夢。
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「おお、そうか! いや、非常に助かる、ありがとう」
喜ぶトラス卿に、二人はまた同時に人差し指を立て、条件を出す。
「その代わり報酬と、しばらくあたしたちの住む場所は、うんと奮発してよね」
「ああ、いいとも。……いや、そうだな」
トラス卿は一瞬考え込む様子を見せ、こう返した。
「二人ともここに住むか?」
「え?」
「この街で住むのに一番いい場所は、間違いなくここだ。不足は無いが、どうかな?」
「いいの?」
「私しか住んでないからな。一人で持て余していたところだ。
いや、無論、こんなむさ苦しい中年男がずっと側にいるなんて嫌だ、と言うなら、別の住まいを探すが」
「……んー」
プレタがマロンに耳打ちし、相談する。
「あたしは別に構わないけど、あんたは?」
「いいわよ? 面白いおっさんだし」
「じゃ、決まりね」
二人がうなずいたところで、トラス卿はにっこりと笑った。
「うむ、よろしく。……と、名前を聞いてなかったな」
「あ、そう言えばそうね。あたしはプレタ。こっちはマロン。姉妹みたいなもんよ」
「うむ。……では早速、部屋を見繕うとしよう」
トラス卿から部屋を与えられ、二人は早速休むことにした。
「作戦会議は明日、別のところで行う。それじゃゆっくり休んでくれ」
「ありがと」
と――扉を閉める直前、トラス卿が不安そうな顔をする。
「遠慮してないか?」
「いいえ?」
「一人一部屋でも構わないんだが……、本当に二人一緒で良かったか?」
「ええ。色々話もあるから」
「そうか。……うん、まあ、それじゃ。
お休み、お嬢さん方」
扉が閉まったところで、ベッドに腰掛けていたマロンが口を開く。
「……完璧、姉妹ってことになったわね」
「いいじゃない。あれこれ説明するより手っ取り早いし」
「あ、ううん。不満は無いのよ。ただ……」
「ただ?」
マロンはニッと、口角を上げて見せた。
「あたし、お姉ちゃん欲しかったのよね。兄とかはいたけど」
「……そーね。あたしも妹とか、女の子の兄弟欲しかったわ」
「えへへ……」
どちらからともなく、笑いが漏れる。
「ね、ね」
「ん?」
マロンはベッドからぴょんと立ち上がり、プレタにこう耳打ちした。
「あたしたちに苗字付けるとしたら、何にする?」
「んー……、そうね……」
悩むプレタに、マロンが続ける。
「あたし、いい案があるのよ。ミニーノってどう?」
「……いいかもね。じゃ、これからしばらくはミニーノ姉妹ってことね」
「うふふ……、よろしくね」
マロンは顔を真っ赤にしつつ、ベッドに寝転んだ。
「じゃ、お休みっ!」
「はいはい、お休み」
プレタも自分のベッドに入り、すぐに眠りに就いた。
彼女は夢を見た。
それはまだ13歳の頃――彼女が央南にいた頃の思い出だった。
「ねえ、朔明さん」
「うん……?」
傍らで自分を優しく眺めてくれていた男に、彼女は微笑んだ。
「あたし……、あなたの悲願が叶えられるなら、何でもするから」
「ああ……」
男は彼女の唇に、ちょんと自分の唇を重ねた。
「君が手を貸してくれるなら、成功しないはずが無いさ」
「ええ。……ええ、だから、……朔明さん」
「ん?」
「……あたしを、愛してると言って。そう言ってくれたら、あたし、この先一生、あなたに付いて行くから」
「……はは」
男は笑い、彼女の頭を撫でながら、彼女の言う通りに応えた。
「愛してるよ、月乃」
そう答えた男の顔は――木の洞のようだった。
「うあ……っ!」
がば、と飛び起きる。
「……はぁ……はぁ……」
甘い思い出が悪夢に変わり、彼女は全身に汗をかいていた。
「……んにゃ……どうしたの……?」
声をかけられたが、彼女は取り繕う。
「……ううん、何でもない。変な夢見ちゃった」
「……こっちで一緒に寝る……?」
その提案に、彼女は素直に従った。
「そうするわ。……ごめんね、お邪魔するわ」
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