「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・隼襲抄 1
麒麟を巡る話、第216話。
「ファルコン」部隊。
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1.
トラス卿の傭兵となったプレタとマロンは、早速マルセロ率いる遊撃隊――通称「ファルコン」部隊の本営に案内された。
「諸君、今日は新しく我々の仲間となった人間を2名、紹介しよう」
この部隊の司令であるマルセロが壇上に立ち、そう前置きしたところで、彼の前に並ぶ隊員たちがざわ……、とどよめいた。
それを受けて、マルセロが苦笑する。
「なかなかの美人だが、それで採ったわけじゃない。抜群の腕利きなんだ。非常に有力な戦力であると、大いに期待していい。
では簡単に、自己紹介してもらおうか」
マルセロに促され、「姉」のプレタが応じた。
「どうも。あたしはプレタ・ミニーノ。こっちの茶色い耳の方がマロン・ミニーノ。二人とも刀と魔術を使うわ。よろしく」
と――紹介を終えた途端、隊員たちから手が挙がる。
「はい、はいはい! 歳はいくつ?」「好きな食べ物は?」「好みのタイプ教えて!」
浮足立った隊員たちを、マルセロが一喝する。
「朝から寝ぼけてんのか、アホ共っ! お前らのデート相手に連れて来たんじゃないぞ!」
その一声で、隊員たちはピタ、と騒ぐのをやめた。
「……コホン。では早速、今回の仕事について説明する」
マルセロは背後に置いてあった黒板に、簡単な地図を描く。
「今回は隣国、カプリ王国へ向かう。ここ数週間で『天政会』の人間が多数目撃されており、情報部の調べでは同国内において商会や市町村の買収を行っているとのことだ。
同国は近年の不況に抗えず、商会および市政当局の半数が財政破綻ないし破産している。恐らく『天政会』はそれらを二束三文で買い叩き、央北東部進攻への足掛かりとしようとしているのだろう。
勿論、このまま買い叩かれていくのを看過する我々では無い。しかし一方で、同国の各組織が金を受け取れずに破産していくのをただ眺めると言うのも忍びない。
と言うわけで今回の作戦は、こうだ。買収を行うため、『天政会』は多額の資金を同国内に持ち込んでいる。と言っても現在、国際競争力の無いヘブンズ・クラムでは無い。調べによれば央中のエル通貨だ。およそ7億5千万、カプリ王国政府の歳入の3割強と言う、相当の金額だ。
我々はこれを奪い本国に移送した後にロンダリング(不正行為によって得た金を、正当な方法で手に入れたように偽装・隠蔽すること)を行い、改めて『新央北』からの融資として同国に送る。
作戦が成功すれば『天政会』は巨額の損失を被ると同時に、同国の我々に対する信用度は大きく増し、『新央北』の勢力拡大につながるだろう」
説明を聞き、マロンがプレタに耳打ちする。
(もっともらしいこと言ってるけど、強盗よね)
(そう言えるわね)
それを横目で見ていたマルセロがにらむ。
「私語は慎んでもらおう。まだ説明の途中だ」
「あ、ごめんなさい」
「コホン。……で、我々の作戦だ。
A隊は先に現地入りし、資金奪取後の逃走経路の確保を行ってくれ。
B隊とC隊は実際に攻撃を加えてくれ。D隊はそれを遠隔から支援だ。
いつものように奴らは魔術と銃器を主体とした布陣を敷き、拠点防衛を行っているはずだ。周囲の建物上部からD隊が監視を行い、敵兵の位置を確認。そこでB・C隊は攻撃を開始。D隊は戦闘中も、B・C隊に逐次状況を知らせてくれ。
そして敵を一掃し、拠点制圧に成功し資金を奪い次第、全隊速やかに現場から離脱しろ。
で……」
マルセロは二人にもう一度目を向け、こう命じた。
「二人はC隊に入ってくれ。B隊が奇襲した後、増援を防ぐ形で臨場だ」
「分かったわ」
「説明は以上だ。A隊は本日中に、残りは3日以内に現地入りし、準備を整えるように。では各隊、綿密に作戦を練ってくれ」
そう締めくくり、マルセロは壇から降りる。そこでマロンが尋ねた。
「ねえ?」
「うん?」
「アンタは参加するの?」
「無論だ。俺は後方支援のD隊隊長として参加する。戦闘中何かあれば、C隊の隊長と俺が聞くからな」
「分かったわ」
マルセロが会議室を後にしたところで、坊主頭で頬と顎全面に濃いひげを生やした、色黒の熊獣人が声をかけてきた。
「お前ら、C隊に配属だったな? 俺がC隊隊長のグレゴ・マーキーだ。
早速会議を始める。付いて来い」
グレゴの言葉に、マロンがげんなりした顔になる。
「また会議? ……当たり前って言えばそうなんだけど」
「いきなり敵陣に飛び込むバカがいるかよ。つべこべ言うな」
グレゴはむすっとした顔で、二人と隊員たちに付いて来るよう促した。
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「ファルコン」部隊。
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トラス卿の傭兵となったプレタとマロンは、早速マルセロ率いる遊撃隊――通称「ファルコン」部隊の本営に案内された。
「諸君、今日は新しく我々の仲間となった人間を2名、紹介しよう」
この部隊の司令であるマルセロが壇上に立ち、そう前置きしたところで、彼の前に並ぶ隊員たちがざわ……、とどよめいた。
それを受けて、マルセロが苦笑する。
「なかなかの美人だが、それで採ったわけじゃない。抜群の腕利きなんだ。非常に有力な戦力であると、大いに期待していい。
では簡単に、自己紹介してもらおうか」
マルセロに促され、「姉」のプレタが応じた。
「どうも。あたしはプレタ・ミニーノ。こっちの茶色い耳の方がマロン・ミニーノ。二人とも刀と魔術を使うわ。よろしく」
と――紹介を終えた途端、隊員たちから手が挙がる。
「はい、はいはい! 歳はいくつ?」「好きな食べ物は?」「好みのタイプ教えて!」
浮足立った隊員たちを、マルセロが一喝する。
「朝から寝ぼけてんのか、アホ共っ! お前らのデート相手に連れて来たんじゃないぞ!」
その一声で、隊員たちはピタ、と騒ぐのをやめた。
「……コホン。では早速、今回の仕事について説明する」
マルセロは背後に置いてあった黒板に、簡単な地図を描く。
「今回は隣国、カプリ王国へ向かう。ここ数週間で『天政会』の人間が多数目撃されており、情報部の調べでは同国内において商会や市町村の買収を行っているとのことだ。
同国は近年の不況に抗えず、商会および市政当局の半数が財政破綻ないし破産している。恐らく『天政会』はそれらを二束三文で買い叩き、央北東部進攻への足掛かりとしようとしているのだろう。
勿論、このまま買い叩かれていくのを看過する我々では無い。しかし一方で、同国の各組織が金を受け取れずに破産していくのをただ眺めると言うのも忍びない。
と言うわけで今回の作戦は、こうだ。買収を行うため、『天政会』は多額の資金を同国内に持ち込んでいる。と言っても現在、国際競争力の無いヘブンズ・クラムでは無い。調べによれば央中のエル通貨だ。およそ7億5千万、カプリ王国政府の歳入の3割強と言う、相当の金額だ。
我々はこれを奪い本国に移送した後にロンダリング(不正行為によって得た金を、正当な方法で手に入れたように偽装・隠蔽すること)を行い、改めて『新央北』からの融資として同国に送る。
作戦が成功すれば『天政会』は巨額の損失を被ると同時に、同国の我々に対する信用度は大きく増し、『新央北』の勢力拡大につながるだろう」
説明を聞き、マロンがプレタに耳打ちする。
(もっともらしいこと言ってるけど、強盗よね)
(そう言えるわね)
それを横目で見ていたマルセロがにらむ。
「私語は慎んでもらおう。まだ説明の途中だ」
「あ、ごめんなさい」
「コホン。……で、我々の作戦だ。
A隊は先に現地入りし、資金奪取後の逃走経路の確保を行ってくれ。
B隊とC隊は実際に攻撃を加えてくれ。D隊はそれを遠隔から支援だ。
いつものように奴らは魔術と銃器を主体とした布陣を敷き、拠点防衛を行っているはずだ。周囲の建物上部からD隊が監視を行い、敵兵の位置を確認。そこでB・C隊は攻撃を開始。D隊は戦闘中も、B・C隊に逐次状況を知らせてくれ。
そして敵を一掃し、拠点制圧に成功し資金を奪い次第、全隊速やかに現場から離脱しろ。
で……」
マルセロは二人にもう一度目を向け、こう命じた。
「二人はC隊に入ってくれ。B隊が奇襲した後、増援を防ぐ形で臨場だ」
「分かったわ」
「説明は以上だ。A隊は本日中に、残りは3日以内に現地入りし、準備を整えるように。では各隊、綿密に作戦を練ってくれ」
そう締めくくり、マルセロは壇から降りる。そこでマロンが尋ねた。
「ねえ?」
「うん?」
「アンタは参加するの?」
「無論だ。俺は後方支援のD隊隊長として参加する。戦闘中何かあれば、C隊の隊長と俺が聞くからな」
「分かったわ」
マルセロが会議室を後にしたところで、坊主頭で頬と顎全面に濃いひげを生やした、色黒の熊獣人が声をかけてきた。
「お前ら、C隊に配属だったな? 俺がC隊隊長のグレゴ・マーキーだ。
早速会議を始める。付いて来い」
グレゴの言葉に、マロンがげんなりした顔になる。
「また会議? ……当たり前って言えばそうなんだけど」
「いきなり敵陣に飛び込むバカがいるかよ。つべこべ言うな」
グレゴはむすっとした顔で、二人と隊員たちに付いて来るよう促した。
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