「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・隼襲抄 2
麒麟を巡る話、第217話。
御託と本音。
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2.
トラス王国の西、カプリ王国。
こちらも先代トラス卿と同じく、中央政府の混乱と崩壊に乗じて独立した国家である。しかしトラス父子ほどの政治手腕は無かったらしく、建国から10年と経たぬうち、早々に財政破綻をきたした。
隣国と言う関係もあって、トラス王国は何度か資金援助を行ってはいたのだが、それも焼け石に水であったらしく、一向に再建の目途は立っていなかった。
《困窮するこの国に救いの手を差し伸べる。それが我々がこの国に対して施すことのできる、最高の善行だ。
しかしこれを妬み、我々の用意した義援金を奪おうとする悪徳の輩がおる。事実、我々は過去に二度その妨害を受けており、その被害は決して小さな額ではない。
ましてや今回用意した義援金は、約8億エル。これほどの富を心待ちにしているその国の皆に届かず、悪徳の輩の私腹に収まるとなれば、奪った彼らだけではなく、我々さえも、地獄へ落とされるに足りるほどの咎を背負うこととなるだろう。
我らが主神、ゼロは仰っている。『己や、己が守るものを脅かす者があった時、武器を取り彼らと戦うことは、決して悪い行いではない』と。まさに今、そのお言葉通りのことが起ころうとしているのだ。
我々は決して、悪徳の輩に打ち負かされるようなことがあってはならない。……では皆、どうか我々のため、そして困窮する人々のため、今回も奮闘してくれ》
そう締めくくられ、天帝教の大司教からの通信が切れる。
拡声用の魔法陣の前には大司祭と司祭数名、そして重武装した兵士が、ずらりと並んでいた。
「ファルコン」情報部の調べ通り、既に「天政会」は多額の金と、それを護るための兵士1中隊をカプリ王国に送り込んでいた。
今この時、彼らが滞在しているこの建物には8億エルと言う巨額の資金が収められており、そして建物の2つや3つ程度なら簡単に吹き飛ばせる量の――明らかに過剰な量の爆薬が、あちこちに積まれていた。
つい先程まで恭しい言葉を並べ立てて演説していた大司教だったが、その腹の内には怒りが煮えたぎっていた。
(忌々しい狗どもめ……! 今度こそ討ち取ってくれよう!
相当な無理を通して、これだけの武器を揃えたのだ。これだけあれば以前のような敗北を、三度も喫しはせん!
罠も仕掛けておるからな……ひひひ)
トラス王国での作戦会議から2日後、ミニーノ姉妹とC隊はカプリ王国に入った。
とは言え一度にぞろぞろと入ってきたわけでは無い。目立つのを避けるため、2人か3人ずつで、バラバラに入国していた。
「央北の内地には初めて入るけど……、トラス王国とあんまり変わんないわね。悪い意味で」
「そうね。悪い意味で」
二人の目の前には、ゴミだらけの路地が続いている。
「で、落ち合うのってどこだっけ?」
「えーと……、この先の……、あれかしら、あの茶色い建物の右手に、……で」
C隊の作戦会議の内容を思い出しつつ、二人は指定された場所へと向かう。
「ここ、かしら? ……あ、ここっぽいわね」
廃屋にしか見えない建物を訪ね、浮浪者風の偽装を施した隊員と合言葉を交わし、二人は中に入る。
「おう、来たか」
入ったところで、グレゴが出迎えた。
「どうも。……もう全員集まった?」
「いや、まだもう少しと言うところだ。夕方までに揃う予定だ。
ああ、そうそう。お前らの武器も届いてるぞ。あっちに置いてある」
「ありがと」
軽く会釈し、示された方へ向かおうとしたところで、グレゴが「フン」と鼻を鳴らした。
「ろくに敬語も使えんのか!? 上官だぞ、俺は!」
そう怒鳴られるが、プレタがさらりと返す。
「隊長が尊敬に値する人間なら使うわよ。そんなこと言うなら、きっちりいい仕事して見せてほしいわね」
「不遜な奴らめ!」
もう一度鼻を鳴らし、グレゴは大股でその場から離れた。
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御託と本音。
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トラス王国の西、カプリ王国。
こちらも先代トラス卿と同じく、中央政府の混乱と崩壊に乗じて独立した国家である。しかしトラス父子ほどの政治手腕は無かったらしく、建国から10年と経たぬうち、早々に財政破綻をきたした。
隣国と言う関係もあって、トラス王国は何度か資金援助を行ってはいたのだが、それも焼け石に水であったらしく、一向に再建の目途は立っていなかった。
《困窮するこの国に救いの手を差し伸べる。それが我々がこの国に対して施すことのできる、最高の善行だ。
しかしこれを妬み、我々の用意した義援金を奪おうとする悪徳の輩がおる。事実、我々は過去に二度その妨害を受けており、その被害は決して小さな額ではない。
ましてや今回用意した義援金は、約8億エル。これほどの富を心待ちにしているその国の皆に届かず、悪徳の輩の私腹に収まるとなれば、奪った彼らだけではなく、我々さえも、地獄へ落とされるに足りるほどの咎を背負うこととなるだろう。
我らが主神、ゼロは仰っている。『己や、己が守るものを脅かす者があった時、武器を取り彼らと戦うことは、決して悪い行いではない』と。まさに今、そのお言葉通りのことが起ころうとしているのだ。
我々は決して、悪徳の輩に打ち負かされるようなことがあってはならない。……では皆、どうか我々のため、そして困窮する人々のため、今回も奮闘してくれ》
そう締めくくられ、天帝教の大司教からの通信が切れる。
拡声用の魔法陣の前には大司祭と司祭数名、そして重武装した兵士が、ずらりと並んでいた。
「ファルコン」情報部の調べ通り、既に「天政会」は多額の金と、それを護るための兵士1中隊をカプリ王国に送り込んでいた。
今この時、彼らが滞在しているこの建物には8億エルと言う巨額の資金が収められており、そして建物の2つや3つ程度なら簡単に吹き飛ばせる量の――明らかに過剰な量の爆薬が、あちこちに積まれていた。
つい先程まで恭しい言葉を並べ立てて演説していた大司教だったが、その腹の内には怒りが煮えたぎっていた。
(忌々しい狗どもめ……! 今度こそ討ち取ってくれよう!
相当な無理を通して、これだけの武器を揃えたのだ。これだけあれば以前のような敗北を、三度も喫しはせん!
罠も仕掛けておるからな……ひひひ)
トラス王国での作戦会議から2日後、ミニーノ姉妹とC隊はカプリ王国に入った。
とは言え一度にぞろぞろと入ってきたわけでは無い。目立つのを避けるため、2人か3人ずつで、バラバラに入国していた。
「央北の内地には初めて入るけど……、トラス王国とあんまり変わんないわね。悪い意味で」
「そうね。悪い意味で」
二人の目の前には、ゴミだらけの路地が続いている。
「で、落ち合うのってどこだっけ?」
「えーと……、この先の……、あれかしら、あの茶色い建物の右手に、……で」
C隊の作戦会議の内容を思い出しつつ、二人は指定された場所へと向かう。
「ここ、かしら? ……あ、ここっぽいわね」
廃屋にしか見えない建物を訪ね、浮浪者風の偽装を施した隊員と合言葉を交わし、二人は中に入る。
「おう、来たか」
入ったところで、グレゴが出迎えた。
「どうも。……もう全員集まった?」
「いや、まだもう少しと言うところだ。夕方までに揃う予定だ。
ああ、そうそう。お前らの武器も届いてるぞ。あっちに置いてある」
「ありがと」
軽く会釈し、示された方へ向かおうとしたところで、グレゴが「フン」と鼻を鳴らした。
「ろくに敬語も使えんのか!? 上官だぞ、俺は!」
そう怒鳴られるが、プレタがさらりと返す。
「隊長が尊敬に値する人間なら使うわよ。そんなこと言うなら、きっちりいい仕事して見せてほしいわね」
「不遜な奴らめ!」
もう一度鼻を鳴らし、グレゴは大股でその場から離れた。
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