「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・隼襲抄 3
麒麟を巡る話、第218話。
夜に紛れて。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
現地入りから2日後、マルセロから全隊に連絡が入った。
《敵のアジトに動きがあった。どうやら今夜のうちに資金を運び出すようだ。
運び出す金は全部じゃないだろうが、それでも二手に分かれる分、警備は手薄になる。運び出された方は放っておいて、残りを奪いに行くぞ》
「了解!」
通信を終えるなり、グレゴは拳を振り上げて怒鳴る。
「準備はいいか、お前らッ! ブッ込んでいくぞッ!」
「おうッ!」
隊員たちは武器を振り上げ、これに応じた。
プレタたちも一応拳を上げて応じる。が、グレゴが苦い顔を向けて来た。
「声が小さい! もう一回! 行くぞーッ!」
「……おー」
窓を閉め切った、小ぢんまりとした建物から司祭と、彼を囲む形で兵士が現れる。
その司祭の背後には、同様に兵士が2名と、エル貨幣を大量に積んだ木箱が続く。
「お、お願いしますね、みなさん」
「……」
司祭はおどおどとした物腰で、兵士や、背後の木箱をきょろきょろと落ち着きなく確認するが、兵士たちは黙々と歩を進める。
「本当にその、大変な任務ですよね、ね、本当」
「……」
「いや、私もまさかこんな危険な役目を任されるなんて、本当、思いもしなくてですね」
「……司祭殿」
と、前を歩いていた兵士が、司祭に顔を向けず応える。
「お静かに願います」
「あ、は、はい、どうもすみません、本当。いや、いつもは物静かなんですよ、私。でも緊張すると、何かしゃべらないと間が持たないって言うか……」
「司祭殿」
「……あ、すみません」
ようやく司祭が黙り込んだところで、その兵士が立ち止まった。
「ど、どうしました?」
「いや……、何か物音がしたような、と」
兵士たちは小銃を構え、辺りを警戒する。
と、路地裏からひょこ、と猫が姿を見せた。
「な、なんだ、猫じゃないですか」
「そのようですな」
兵士はそう返し、猫に向けて小銃を撃った。
「なっ……!」
当たりこそしなかったものの、猫は相当驚いたらしく、悲鳴のような鳴き声を上げて走り去っていった。
「なっ、何をなさるのですか!」
「作戦の邪魔ですから」
「無益な殺生はいけません!」
「……あなたの上司の、大司祭殿も仰っていたではないですか。『自分を脅かす者があった場合には攻撃して構わない』と」
「あなたは猫に襲われて死ぬような人ではないでしょう!? どこが脅威ですかっ!
まったく、不信心な! いいですか、聖書の『大卿行北記』第6章第3節には……」「ええ、ええ、分かりました。行きましょう、司祭様」
司祭がわめきたてるまま、一行はその場から去って行った。
「……あ、あっぶねぇ」
物陰に潜んでいたB隊隊員の一人は、すぐ目の前に空いた壁の穴を見て、冷や汗をかいていた。
「運が良かったな。もう少し前にいたら、作戦開始前に殉死してたぞ」
「良いのか悪いのか分からんよ……」
隊員たちは恐る恐る往来を確かめ、人の姿が無いことを確認する。
「よし、進むぞ」
B隊は往来に移り、「天政会」の人間が来た方へと駆け出した。
間もなく先程の、小ぢんまりとした建物に到着し、そこでまた物陰に隠れる。そこでB隊隊長、ジェラルドが作戦の再確認を行った。
「攻撃の手筈は分かっているな?
まず閃光手榴弾を投げ込み、入口付近の兵士を行動不能にする。そこで第一班が乗り込み、外から手榴弾と小銃を使用し内部を攻撃。
この際に内部からの攻撃があることが予想されるが、それを想定して第二班が魔術封じと煙幕を使い、敵の魔術と銃火器とを無力化させる。
内部の敵が全滅、あるいは戦闘不能となったところで内部へ潜入。この辺りで既に出発していた敵兵が戻ってくる可能性があるが、それはC隊が処理することになっているため、我々は資金の回収に徹すること。
資金を回収し次第イッシオ司令に連絡し、A隊をよこしてもらって離脱。……全員、大丈夫だな?」
無言でうなずく隊員たちを確認し、ジェラルドは命令を下した。
「作戦開始だ」
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夜に紛れて。
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3.
現地入りから2日後、マルセロから全隊に連絡が入った。
《敵のアジトに動きがあった。どうやら今夜のうちに資金を運び出すようだ。
運び出す金は全部じゃないだろうが、それでも二手に分かれる分、警備は手薄になる。運び出された方は放っておいて、残りを奪いに行くぞ》
「了解!」
通信を終えるなり、グレゴは拳を振り上げて怒鳴る。
「準備はいいか、お前らッ! ブッ込んでいくぞッ!」
「おうッ!」
隊員たちは武器を振り上げ、これに応じた。
プレタたちも一応拳を上げて応じる。が、グレゴが苦い顔を向けて来た。
「声が小さい! もう一回! 行くぞーッ!」
「……おー」
窓を閉め切った、小ぢんまりとした建物から司祭と、彼を囲む形で兵士が現れる。
その司祭の背後には、同様に兵士が2名と、エル貨幣を大量に積んだ木箱が続く。
「お、お願いしますね、みなさん」
「……」
司祭はおどおどとした物腰で、兵士や、背後の木箱をきょろきょろと落ち着きなく確認するが、兵士たちは黙々と歩を進める。
「本当にその、大変な任務ですよね、ね、本当」
「……」
「いや、私もまさかこんな危険な役目を任されるなんて、本当、思いもしなくてですね」
「……司祭殿」
と、前を歩いていた兵士が、司祭に顔を向けず応える。
「お静かに願います」
「あ、は、はい、どうもすみません、本当。いや、いつもは物静かなんですよ、私。でも緊張すると、何かしゃべらないと間が持たないって言うか……」
「司祭殿」
「……あ、すみません」
ようやく司祭が黙り込んだところで、その兵士が立ち止まった。
「ど、どうしました?」
「いや……、何か物音がしたような、と」
兵士たちは小銃を構え、辺りを警戒する。
と、路地裏からひょこ、と猫が姿を見せた。
「な、なんだ、猫じゃないですか」
「そのようですな」
兵士はそう返し、猫に向けて小銃を撃った。
「なっ……!」
当たりこそしなかったものの、猫は相当驚いたらしく、悲鳴のような鳴き声を上げて走り去っていった。
「なっ、何をなさるのですか!」
「作戦の邪魔ですから」
「無益な殺生はいけません!」
「……あなたの上司の、大司祭殿も仰っていたではないですか。『自分を脅かす者があった場合には攻撃して構わない』と」
「あなたは猫に襲われて死ぬような人ではないでしょう!? どこが脅威ですかっ!
まったく、不信心な! いいですか、聖書の『大卿行北記』第6章第3節には……」「ええ、ええ、分かりました。行きましょう、司祭様」
司祭がわめきたてるまま、一行はその場から去って行った。
「……あ、あっぶねぇ」
物陰に潜んでいたB隊隊員の一人は、すぐ目の前に空いた壁の穴を見て、冷や汗をかいていた。
「運が良かったな。もう少し前にいたら、作戦開始前に殉死してたぞ」
「良いのか悪いのか分からんよ……」
隊員たちは恐る恐る往来を確かめ、人の姿が無いことを確認する。
「よし、進むぞ」
B隊は往来に移り、「天政会」の人間が来た方へと駆け出した。
間もなく先程の、小ぢんまりとした建物に到着し、そこでまた物陰に隠れる。そこでB隊隊長、ジェラルドが作戦の再確認を行った。
「攻撃の手筈は分かっているな?
まず閃光手榴弾を投げ込み、入口付近の兵士を行動不能にする。そこで第一班が乗り込み、外から手榴弾と小銃を使用し内部を攻撃。
この際に内部からの攻撃があることが予想されるが、それを想定して第二班が魔術封じと煙幕を使い、敵の魔術と銃火器とを無力化させる。
内部の敵が全滅、あるいは戦闘不能となったところで内部へ潜入。この辺りで既に出発していた敵兵が戻ってくる可能性があるが、それはC隊が処理することになっているため、我々は資金の回収に徹すること。
資金を回収し次第イッシオ司令に連絡し、A隊をよこしてもらって離脱。……全員、大丈夫だな?」
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