「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・隼襲抄 4
麒麟を巡る話、第219話。
作戦遂行。
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4.
B隊の一人が物陰に隠れたまま、閃光手榴弾を投げ付ける。
「……?」
相手の兵士が地面に視線を落とした次の瞬間、ボン、と言うくぐもった音と共に、真っ暗な往来が一瞬、真っ白に染まる。
「うわ、うわーっ!?」
「み、耳っ、目がっ、うあっ」
強烈な音と光で、兵士たちは悶絶する。
同時にB隊が小銃を構えながら、建物前へと駆け出してきた。
「今だ、撃て、撃てッ!」
「了解!」
隊長の号令に従い、B隊全員が走りながら小銃を撃ち散らす。
「うあ……っ」「ぎゃっ!」
武器を落とし、半ばうずくまっていた兵士たちは、なす術も無く倒れていく。
入口の警備が全滅したところで、ジェラルドが短く叫ぶ。
「制圧完了! 中に進入する!」
B隊はそのまま、建物内へとなだれ込んでいった。
「出だしは上々だな」
離れた場所からこの様子を確認していたマルセロは、ほっとした顔で双眼鏡を下げつつ、煙草をくわえた。
「後は援軍を蹴散らしつつ、資金を奪って逃げるだけだな。
先発隊の動きはどうだ?」
この問いに、同じく監視を行っていたD隊員の一人が答える。
「手榴弾の音で襲撃には気付いたようですが……、そのまま進んでいます」
「そのまま?」
これを聞いて、マルセロは一旦、煙草を口から離す。
「てっきり引き返してくるもんだと思ってたが……、移送任務を優先させるつもりかな。
まあいい、来ないならそれはそれで楽だ。C隊に問題無しと伝えよう」
マルセロは煙草をくわえ直しつつ、「魔術頭巾」を頭に巻き付けた。
「司令、煙草……」
と、それを見た隊員が咎める。
「ん?」
「燃えますよ、『頭巾』」
「おっと、そうか」
まだ一吸いもしていない煙草をぐりぐりと踏みつつ、マルセロはつぶやく。
「もっと手軽に使えないもんかね、この『頭巾』ってのは。火気厳禁、一々頭に巻かなきゃ使えない、使う時は常に待機状態じゃなきゃならん……。
せめて片手でひょい、っと使えるようにならんもんかねぇ?」
「100年、200年こうだったんですから、この先もきっとこのままですよ」
「そんなもんかね……。っと、ダベってる場合じゃないな。
……ん、ん、『トランスワード:C』」
呪文を唱えてから一瞬間を置いて、C隊通信兵の返事が返ってきた。
《C隊。どうぞ》
「おう、俺だ。先発隊はそのまま目的地に向かうつもりらしい。C隊は現場付近で警戒態勢を続けてくれ」
《了解》
マルセロからの命令を受け、グレゴはC隊全員にそれを伝えた。
「先発隊は現場に戻ることなく、そのまま進んだそうだ。俺たちの側でやることは無くなった。念のため現場で待機し、B隊を補助だ」
「了解しました」
C隊のほぼ全員が敬礼し、その命令通りに動こうとする。
ところが――プレタとマロンは敬礼もせず、こう返した。
「変じゃない?」
「あ?」
グレゴは途端に苛立った顔を見せる。
「上官の命令が聞けんのか! つべこべ言わずさっさと……」
と、怒鳴りかけたグレゴを無視して、マロンは通信兵から「頭巾」を奪い取る。
「おい、何なんだお前ら!? さっさと返せ! 動け! 行けッ!」
怒鳴り散らすグレゴには構わず、マロンは「頭巾」を巻き付けた。
「マルセロ、聞いてる?」
《ん? お前……、プレタか?》
「マロンよ」
《どうした? つーかそれ、誰の『頭巾』だ?》
「いいから。おかしいと思わない?」
《何がだ? それはすぐ行けって言う俺の命令より優先されることか?》
背後で散々怒鳴り散らしているグレゴに対し、マルセロは静かに尋ねる。
「ええ。先発隊はそのまま向かったって言ったわよね?」
《そうだ。恐らく移送任務を優先したんだろう。それだけか?》
「それだけじゃないわ。B隊がすんなり入って行けたのよ?」
《綿密に突入を計画してたからな。そりゃ、うまく行かなきゃ困る》
「表には兵士が2人だけ。奥から出て来る様子も無し。
アンタの話じゃ、敵は重武装して構えてるはずじゃなかったの? 先発隊も軽装だったわよ?」
《……ん? ……む……》
一旦、マルセロの応答が止まり、そして怪訝そうな声が返って来る。
《なるほど。確かに容易過ぎる。つまり罠が仕掛けられていると?》
「多分ね。B隊に連絡して、すぐ引き返させて」
「いい加減にしろ、お前らあああッ!」
と、プレタに抑えられていたグレゴが激昂する。
「ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃと何を文句言ってるんだッ! 傭兵の癖に命令ひとつ聞けんのかッ! 俺がさっさと行けと言ったら、お前らは言われた通りにさっさと……」
「……じゃあ隊長。今、司令から連絡入ったわよ」
「ぬっ?」
「『B隊は撤収。C隊は先発隊を追え』とのことよ」
「はあ!?」
グレゴはこの伝言を伝えたマロンに、怒りに満ちた目を向けた。
「嘘をつけ! なんで司令がそんなことを……」
ふたたび怒鳴りかけた、その時だった。
つい先程B隊が進入した建物が、突然爆発した。
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B隊の一人が物陰に隠れたまま、閃光手榴弾を投げ付ける。
「……?」
相手の兵士が地面に視線を落とした次の瞬間、ボン、と言うくぐもった音と共に、真っ暗な往来が一瞬、真っ白に染まる。
「うわ、うわーっ!?」
「み、耳っ、目がっ、うあっ」
強烈な音と光で、兵士たちは悶絶する。
同時にB隊が小銃を構えながら、建物前へと駆け出してきた。
「今だ、撃て、撃てッ!」
「了解!」
隊長の号令に従い、B隊全員が走りながら小銃を撃ち散らす。
「うあ……っ」「ぎゃっ!」
武器を落とし、半ばうずくまっていた兵士たちは、なす術も無く倒れていく。
入口の警備が全滅したところで、ジェラルドが短く叫ぶ。
「制圧完了! 中に進入する!」
B隊はそのまま、建物内へとなだれ込んでいった。
「出だしは上々だな」
離れた場所からこの様子を確認していたマルセロは、ほっとした顔で双眼鏡を下げつつ、煙草をくわえた。
「後は援軍を蹴散らしつつ、資金を奪って逃げるだけだな。
先発隊の動きはどうだ?」
この問いに、同じく監視を行っていたD隊員の一人が答える。
「手榴弾の音で襲撃には気付いたようですが……、そのまま進んでいます」
「そのまま?」
これを聞いて、マルセロは一旦、煙草を口から離す。
「てっきり引き返してくるもんだと思ってたが……、移送任務を優先させるつもりかな。
まあいい、来ないならそれはそれで楽だ。C隊に問題無しと伝えよう」
マルセロは煙草をくわえ直しつつ、「魔術頭巾」を頭に巻き付けた。
「司令、煙草……」
と、それを見た隊員が咎める。
「ん?」
「燃えますよ、『頭巾』」
「おっと、そうか」
まだ一吸いもしていない煙草をぐりぐりと踏みつつ、マルセロはつぶやく。
「もっと手軽に使えないもんかね、この『頭巾』ってのは。火気厳禁、一々頭に巻かなきゃ使えない、使う時は常に待機状態じゃなきゃならん……。
せめて片手でひょい、っと使えるようにならんもんかねぇ?」
「100年、200年こうだったんですから、この先もきっとこのままですよ」
「そんなもんかね……。っと、ダベってる場合じゃないな。
……ん、ん、『トランスワード:C』」
呪文を唱えてから一瞬間を置いて、C隊通信兵の返事が返ってきた。
《C隊。どうぞ》
「おう、俺だ。先発隊はそのまま目的地に向かうつもりらしい。C隊は現場付近で警戒態勢を続けてくれ」
《了解》
マルセロからの命令を受け、グレゴはC隊全員にそれを伝えた。
「先発隊は現場に戻ることなく、そのまま進んだそうだ。俺たちの側でやることは無くなった。念のため現場で待機し、B隊を補助だ」
「了解しました」
C隊のほぼ全員が敬礼し、その命令通りに動こうとする。
ところが――プレタとマロンは敬礼もせず、こう返した。
「変じゃない?」
「あ?」
グレゴは途端に苛立った顔を見せる。
「上官の命令が聞けんのか! つべこべ言わずさっさと……」
と、怒鳴りかけたグレゴを無視して、マロンは通信兵から「頭巾」を奪い取る。
「おい、何なんだお前ら!? さっさと返せ! 動け! 行けッ!」
怒鳴り散らすグレゴには構わず、マロンは「頭巾」を巻き付けた。
「マルセロ、聞いてる?」
《ん? お前……、プレタか?》
「マロンよ」
《どうした? つーかそれ、誰の『頭巾』だ?》
「いいから。おかしいと思わない?」
《何がだ? それはすぐ行けって言う俺の命令より優先されることか?》
背後で散々怒鳴り散らしているグレゴに対し、マルセロは静かに尋ねる。
「ええ。先発隊はそのまま向かったって言ったわよね?」
《そうだ。恐らく移送任務を優先したんだろう。それだけか?》
「それだけじゃないわ。B隊がすんなり入って行けたのよ?」
《綿密に突入を計画してたからな。そりゃ、うまく行かなきゃ困る》
「表には兵士が2人だけ。奥から出て来る様子も無し。
アンタの話じゃ、敵は重武装して構えてるはずじゃなかったの? 先発隊も軽装だったわよ?」
《……ん? ……む……》
一旦、マルセロの応答が止まり、そして怪訝そうな声が返って来る。
《なるほど。確かに容易過ぎる。つまり罠が仕掛けられていると?》
「多分ね。B隊に連絡して、すぐ引き返させて」
「いい加減にしろ、お前らあああッ!」
と、プレタに抑えられていたグレゴが激昂する。
「ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃと何を文句言ってるんだッ! 傭兵の癖に命令ひとつ聞けんのかッ! 俺がさっさと行けと言ったら、お前らは言われた通りにさっさと……」
「……じゃあ隊長。今、司令から連絡入ったわよ」
「ぬっ?」
「『B隊は撤収。C隊は先発隊を追え』とのことよ」
「はあ!?」
グレゴはこの伝言を伝えたマロンに、怒りに満ちた目を向けた。
「嘘をつけ! なんで司令がそんなことを……」
ふたたび怒鳴りかけた、その時だった。
つい先程B隊が進入した建物が、突然爆発した。
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2015.09.28 修正
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