「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・隼襲抄 7
麒麟を巡る話、第222話。
二人の活躍。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
「その後の調べだとな」
強奪計画から1ヶ月後、貧乏神邸。
ミニーノ姉妹はマルセロから、「天政会」の執った悪評回避策を聞かされた。
「あの時俺が蹴っ飛ばした坊さん、ニセモノに仕立て上げられたんだとさ」
「ニセモノ?」
「ああ。『天政会』はそもそも、融資なんかしようとも思ってなかったんだと言ってのけやがった。全部その『ニセ大司祭』が盗み目的でカプリ王国に押し入る方便だった、ってな」
「呆れるわね……」
「とんでもない言い訳作ったわね」
「その通りだ、まったく!」
話に加わっていたトラス卿は、忌々しげに言い捨てた。
「つまり『融資云々の話は元から存在しないのだから、カプリ王国から不履行だのなんだの文句を言われるような筋合いは無い』って、強引にはねつけたと言うわけさ」
「ま、向こうにしてみりゃ、もう当分の間は自分らになびきそうにない国になったわけだから、冷たくしたって何の問題も無いってことだ。
現場主任だったあの坊さんも口封じに処刑されたらしいし、真実は既にうやむやになったってわけだ」
「……改めて、悪どい奴らね」
「まさに巨魁だ。一筋縄では行かんよ」
と、トラス卿はいつものようにころっと、表情を変えて見せる。
「しかぁし! 我々に注視して論じるに、今回の作戦は大成功と言う他無い!
文句無く金は奪い上げたわけだし、カプリ王国との交流も強まった。我々としては万々歳の結果だ」
「その通り。多少危うかったものの、我が『ファルコン』部隊も極めて満足行く仕事を成し遂げられた。
プレタ。マロン。偏(ひとえ)にお前らのおかげだ。ありがとう」
そう言ってマルセロは、二人に向かって深々と頭を下げた。
「いいわよ、そんなの」
いつものようにプレタはひらひらと手を振って返すが、マルセロは依然、頭を下げたままでいる。
「そうは行かない。これからのことを考えればな」
「……って言うと?」
マルセロは顔を挙げ、二人にこう願い出た。
「お前らの腕はすごい。兵士、傭兵として見るに、まさに超一流だ。申し分無い。
だがお前らをそのまま一兵卒で使っても、結局は一兵卒の効用しか成さない。もっと重職をあてがった方が、お前らの真価をより発揮できるはずだ。
そこで、どうだろう? D隊に転属して、俺の補佐をしてくれないか?」
「え……?」
「お前らの危険察知力。洞察力。そして行動力。どれを取ってもリーダー役に据えるのが適切であると、俺は思っている。
俺も人をまとめ上げるのには自信があるし、トラス卿の右腕として働いてるから、世情にも詳しいし知識も豊富だと自負はしてる。
だが『とっさの判断』ってのには、正直自信が無い。あの時だって、お前らがはっきり方向性を示してくれたから、俺は『戻れ』と命令できたんだ。
な、頼む! お前らが助けてくれれば『ファルコン』も、ひいては『新央北』も負けなしだ! 報酬だって最初に言ってたのより、たんまり弾む!」
「……うーん」
ミニーノ姉妹は一旦場を離れ、二人で相談する。
「どうする?」
「あたしは構わないわよ。行くあてなんて全く無いわけだし、どこかで重用してくれるって言うんなら、願っても無いことだと思ってるわ」
「そう、ね。……あたしもそう。どうせ他にやることなんて無いし、ね」
二人はマルセロたちに向き直り、快諾した。
「いいわ。その任、謹んで承るわ」
「同じく」
それを聞いて、マルセロと、そしてトラス卿は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「そうか、うん……、ありがとう。これからもよろしく頼む」
「うむ。私からも礼を言わせてもらおう。ありがとう、二人とも」
と、そのトラス卿に向かって、マロンがいたずらっぽくこう返した。
「これでしばらく可愛い子ちゃん二人と一緒に暮らせる、ってわけね」
「あぅ、……あ、い、いや、そんな、ゴホンゴホン、まさかまさか」
トラス卿はごにょごにょとつぶやきながら、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
この後――ミニーノ姉妹は「新央北」にとって強力な指揮官として、この地で権勢を奮うこととなる。
白猫夢・隼襲抄 終
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二人の活躍。
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「その後の調べだとな」
強奪計画から1ヶ月後、貧乏神邸。
ミニーノ姉妹はマルセロから、「天政会」の執った悪評回避策を聞かされた。
「あの時俺が蹴っ飛ばした坊さん、ニセモノに仕立て上げられたんだとさ」
「ニセモノ?」
「ああ。『天政会』はそもそも、融資なんかしようとも思ってなかったんだと言ってのけやがった。全部その『ニセ大司祭』が盗み目的でカプリ王国に押し入る方便だった、ってな」
「呆れるわね……」
「とんでもない言い訳作ったわね」
「その通りだ、まったく!」
話に加わっていたトラス卿は、忌々しげに言い捨てた。
「つまり『融資云々の話は元から存在しないのだから、カプリ王国から不履行だのなんだの文句を言われるような筋合いは無い』って、強引にはねつけたと言うわけさ」
「ま、向こうにしてみりゃ、もう当分の間は自分らになびきそうにない国になったわけだから、冷たくしたって何の問題も無いってことだ。
現場主任だったあの坊さんも口封じに処刑されたらしいし、真実は既にうやむやになったってわけだ」
「……改めて、悪どい奴らね」
「まさに巨魁だ。一筋縄では行かんよ」
と、トラス卿はいつものようにころっと、表情を変えて見せる。
「しかぁし! 我々に注視して論じるに、今回の作戦は大成功と言う他無い!
文句無く金は奪い上げたわけだし、カプリ王国との交流も強まった。我々としては万々歳の結果だ」
「その通り。多少危うかったものの、我が『ファルコン』部隊も極めて満足行く仕事を成し遂げられた。
プレタ。マロン。偏(ひとえ)にお前らのおかげだ。ありがとう」
そう言ってマルセロは、二人に向かって深々と頭を下げた。
「いいわよ、そんなの」
いつものようにプレタはひらひらと手を振って返すが、マルセロは依然、頭を下げたままでいる。
「そうは行かない。これからのことを考えればな」
「……って言うと?」
マルセロは顔を挙げ、二人にこう願い出た。
「お前らの腕はすごい。兵士、傭兵として見るに、まさに超一流だ。申し分無い。
だがお前らをそのまま一兵卒で使っても、結局は一兵卒の効用しか成さない。もっと重職をあてがった方が、お前らの真価をより発揮できるはずだ。
そこで、どうだろう? D隊に転属して、俺の補佐をしてくれないか?」
「え……?」
「お前らの危険察知力。洞察力。そして行動力。どれを取ってもリーダー役に据えるのが適切であると、俺は思っている。
俺も人をまとめ上げるのには自信があるし、トラス卿の右腕として働いてるから、世情にも詳しいし知識も豊富だと自負はしてる。
だが『とっさの判断』ってのには、正直自信が無い。あの時だって、お前らがはっきり方向性を示してくれたから、俺は『戻れ』と命令できたんだ。
な、頼む! お前らが助けてくれれば『ファルコン』も、ひいては『新央北』も負けなしだ! 報酬だって最初に言ってたのより、たんまり弾む!」
「……うーん」
ミニーノ姉妹は一旦場を離れ、二人で相談する。
「どうする?」
「あたしは構わないわよ。行くあてなんて全く無いわけだし、どこかで重用してくれるって言うんなら、願っても無いことだと思ってるわ」
「そう、ね。……あたしもそう。どうせ他にやることなんて無いし、ね」
二人はマルセロたちに向き直り、快諾した。
「いいわ。その任、謹んで承るわ」
「同じく」
それを聞いて、マルセロと、そしてトラス卿は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「そうか、うん……、ありがとう。これからもよろしく頼む」
「うむ。私からも礼を言わせてもらおう。ありがとう、二人とも」
と、そのトラス卿に向かって、マロンがいたずらっぽくこう返した。
「これでしばらく可愛い子ちゃん二人と一緒に暮らせる、ってわけね」
「あぅ、……あ、い、いや、そんな、ゴホンゴホン、まさかまさか」
トラス卿はごにょごにょとつぶやきながら、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
この後――ミニーノ姉妹は「新央北」にとって強力な指揮官として、この地で権勢を奮うこととなる。
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