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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第5部

    白猫夢・天謀抄 2

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    麒麟を巡る話、第224話。
    興隆する「新央北」。

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    2.
    「グッドニュースだ、皆!」
     喜色満面で遊戯室に飛び込んできたトラス卿に、ミニーノ姉妹とマルセロは、ビリヤード台から顔を挙げた。
    「どうしたんですか、卿?」
    「ふっふっふ……、これを見てくれ」
     トラス卿はビリヤード台に新聞を広げ、経済欄を指差した。
    「半年前に為替取引を解禁して以降、我らがコノンは順調に最高値を更新していた! そして今日、ついに1エル300コノンを切ったのだ!
     一方のクラムと言えばだ、昨年までアナリストたちの多くが1エル200クラムを切ると予想していたにもかかわらず、いまだ230クラム台で停滞している状態だ。
     この状況が続けばより投機的価値の高いコノンへと、世界各地域の資金が流れてくることは明白! それによってさらにコノン高が起こり、我々は世界一の大金持ちに、また一歩近付くこととなるのだ! うはははははっ……」
    「喜ばしいことです」
     そう返したマルセロに対し、プレタは懐疑的になる。
    「でもその反面、コノン圏内ではデフレが起こってるらしいじゃない」
    「う」
     痛いところを突かれ、トラス卿の笑顔が凍る。
    「まだ十分に、央北圏内にさえ流通しきってないのにじゃんじゃんコノン高が続くもんだから、為替市場じゃ数少ないコノンを片っ端から買い漁られて、肝心の『新央北』では不足してきてるって聞いたわよ。
    『新央北』全体で自分たちの手持ちが無くなっていくんだから、そりゃ買い物しようにもできなくなるのは当たり前じゃない」
    「まあ、その、あれは紙だから、刷ろうと思えばいくらでも……」
    「意匠が複雑なのと魔法陣描くのに手間がかかるせいで、一日の発行量はせいぜい10万から20万くらいでしょ? 為替市場の需要を全然満たしきれてないじゃない。
     発行する端から国外に流出していくわよ、そんなペースじゃ」
    「し、しかしまあ、高く値が付いてくれるのだから、結局は我々の……」
    「その『我々』の大半、実際に使う奴らに『手に入らなくて使えない』って嘆かれてんじゃない。
     使いどころのないお金なんか、それこそ紙切れ同然よ? 呑気してたら市場から『使用価値の無い貨幣だ』って見放されて、『天政会』と戦うどころの話じゃ無くなるわ」
    「……ぜ、善処するよ」
     トラス卿が経済談義でやり込められ、しょんぼりするのを見て、マロンとマルセロは同時に噴き出した。



     プレタの指摘があった通り、コノンの需要が発行量を著しく上回っており、発行・管理元であるこのトラス王国においても、コノン紙幣は満足に、街中に出回っていなかった。
     しかしそれでも、央北の覇権を争っている当事国である。この1年半で――極めてグレーな方法によるものではあるが――各方面での信用は篤くなりつつあり、その影響で経済は急激に回復し、街は活気を取り戻しつつあった。
    「あ、ここも舗装されたのね」
    「ゴミも消えてるわ。……あ、ここ」
     街に出たプレタたち二人は、街道の整備後も唯一残された街路樹の前で立ち止まる。
    「懐かしいわね」
    「え?」
    「あら、覚えてない? ここでアンタとあたし、初めて会ったのよ」
    「そうだった? ……そうだったかも」
     プレタは街路樹にもたれ、通りを眺める。
    「不思議ね」
    「え?」
    「偶然アンタがここにいなきゃ、あたしとアンタは知り合うことなんか、絶対無かったはずだし。
     そう考えれば、今の生活なんか、幻みたいなもんよね」
    「……いいえ、幻とはあたし、思わない」
     マロンはぎゅっと、プレタの手を握る。
    「きっと運命だったんだと思う。アンタと会ったことも、マルセロと知り合ったことも、『ファルコン』に入って戦ってきたことも。
     ……あたしが、故郷から、逃げてきたことも」
    「マロン?」
    「……そう考えないと、あたし、頭の中で、過去をきちんと清算しきれない」
     複雑な表情を浮かべたマロンに、プレタは笑いかける。
    「過去は過去。今と過去は、別のものよ。あたしの考えは、そう。アンタは、違うの?」
    「……あたしたちは、似てる。似てるけれど、やっぱり心の底の、底の方では、ほんのちょっとだけ違うのよ」
    「そりゃそうよ。全部一緒なら、アンタはあたしそのものになっちゃうもの。
     でもこうして別の人間として、存在してる。どこまで似ても、どこまで近くても、こうしてはっきり分かれてるし、それだからこそ、こうして……」
     プレタはぎゅっと、マロンを抱きしめた。
    「こうして、アンタを包み、支えられる」
    「……プレタ」
    「いつまでも一緒にいてほしい。あたしがどうなっても、アンタがどうなっても。
     あたしもアンタと出会ったことだけは、間違いなく運命だと思うから」
    「……ええ」
     マロンは顔を真っ赤にして、こくっとうなずいた。
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