「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・天謀抄 3
麒麟を巡る話、第225話。
大司教の陰謀。
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3.
「早速、仕事の話をさせてもらおう」
黒い頭巾で顔を隠した男の前に、6人の男女が並んで立っていた。
「まず、トラス王国大蔵大臣、ショウ・トラス侯爵についてだが、彼は秘密裏に非合法行為を請け負う私設軍隊を有しており、その蛮行は目に余るものがある。これを看過すれば、央北全体にとって好ましくない結果を及ぼすことになるだろう
よって、その司令官および幹部の殺害を依頼したい。ターゲットは6名だ。まず、マルセロ・イッシオ司令官。そのイッシオ司令官の補佐官2名。そしてイッシオ司令官直属の指揮官3名。
以上の6名だ。方法は問わない」
と――並んでいた6人のうち、赤地に先端が黒い狐耳の、茶髪の男性が手を挙げる。
「つまるところ、にっくき商売敵の小うるさい手先を亡き者にして『新央北』に非合法手段を使えなくさせ、クラム全面勝利の足掛けにしたいと言うわけですな、セドリック・アストン大司教」
「な、何故私の名前を、……い、いや」
黒頭巾がうろたえたところで、狐獣人は歯を見せて笑う。
「我々もこう言う稼業を長く続けるとなると、依頼人の素性くらい洗うのは必須でしてね。
いつ何時手のひらを返されて、あなたの直属だった大司祭殿のように切り捨てられるか、と言う懸念があれば、このくらいするのは当然でしょう?」
「う……ぐ」
アストン大司教は黒頭巾を脱ぎ、苦々しげな顔をあらわにして見せた。
「まあ、そもそも我々のような下賤の者たちと密会していたとバレれば、立場も危ういでしょう。勿論何かしらの不都合が発生しない限りは公表なぞしやしませんし、これでひとまずの安全が確保されたとしておきましょう。
で、報酬はいかほどで?」
「司令補佐官と指揮官にはそれぞれ5000万クラム。司令官には8500万クラムを出そう」
「ざけんな、安いぞ」
派手なジャケットを羽織った、いかにもチンピラ然とした虎獣人の男が異議を唱える。
「向こうさんの大臣やら司令官やらっちゅう重要人物を俺らに襲わせといて、その報酬が20万から30万エルか?
人のことを下に下に見るんは勝手やけど、相場に合わんやろが」
「その通り」
と、「狐」も同意する。
「死亡後の影響が半端なくデカい、央北の運命を左右するくらいの人間を殺すってのに、そんな大仕事をたった20万で請け負えってのはケチに過ぎますぜ。
これが全部成功し、敵方がガタガタになりゃ、あんたらが手にする利益は誰も想像できないレベルの、とんでもない額に上るはずでしょう?」
「な、ならば成功させればいい話だ!」
大司教は軽く狼狽しつつも、こう反論する。
「クラムで払うと言ったはずだ! 暗殺成功後、クラム高は絶対に起こる! ならば支払ったそのクラムも、エルに換算して50万、100万、いいや200万にだって……!」
「わたくしたちは不確実を嫌うものですから」
この反論にも、青と緑の派手な帽子とコートを着た、種族不明の女が応じる。
「あなたの仰るクラム高が現実に起こると言う保証は、ご用意できませんでしょう」
「う……」
「そう言うわけです、聖下。現在価値で、少なくとも最低500万エルからでなきゃ、この依頼は受けられませんぜ?」
「その……、我々のことを調べているのなら、その、実情は分かっていることと思うが……」
大司教は歯切れ悪く、その要求を呑むことが難しいと暗に返す。しかし「狐」はにべもなく、さらにこう返す。
「存じちゃいますがね、相場は相場だ。我々のような腕利きを雇おうって言うんなら、それくらいは出してくれなきゃ困りますぜ。
それにだ、確かにあんた方『天政会』の台所事情が若干焦げ臭いってことは存じておりますが、こう言う時のために金を出してくれるパトロンが聖下個人に付いている、ってこともまた、存じておるわけですよ。
ねえそうでしょ、カーウィン・ゴールドマンさん?」
「……!」
この言葉に、大司教と――そして壁を覆っていたカーテンの裏側に潜んでいた男がたじろいだ。
「……君の調査力と洞察力は凄まじいな。私のことを調べたばかりか、ここにいることまで見抜くとは」
「『仕事を完璧にこなすためにはいい目、いい鼻、そしていい頭が必須だ』、と言うのが親父の遺言でしてね。
聖下が大金をバラ撒くような、しかも他人においそれと聞かせられないような話をするのに、聖下と一蓮托生のあなたがこの場にいないわけが無い。そう踏んだわけです」
「なるほど」
カーテンを翻し、金地に先端の赤い耳と尻尾を有した、身なりのいい狐獣人の男が現れた。
「なかなか含蓄のある言葉だ。参考にさせてもらおう。
君の名も聞いておきたい。何と言うのかな?」
「ロベルト・ブリッツェンと申します。よろしくお見知り置きを」
ロベルトはニヤ、と笑い、恭しくお辞儀をして見せた。
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大司教の陰謀。
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3.
「早速、仕事の話をさせてもらおう」
黒い頭巾で顔を隠した男の前に、6人の男女が並んで立っていた。
「まず、トラス王国大蔵大臣、ショウ・トラス侯爵についてだが、彼は秘密裏に非合法行為を請け負う私設軍隊を有しており、その蛮行は目に余るものがある。これを看過すれば、央北全体にとって好ましくない結果を及ぼすことになるだろう
よって、その司令官および幹部の殺害を依頼したい。ターゲットは6名だ。まず、マルセロ・イッシオ司令官。そのイッシオ司令官の補佐官2名。そしてイッシオ司令官直属の指揮官3名。
以上の6名だ。方法は問わない」
と――並んでいた6人のうち、赤地に先端が黒い狐耳の、茶髪の男性が手を挙げる。
「つまるところ、にっくき商売敵の小うるさい手先を亡き者にして『新央北』に非合法手段を使えなくさせ、クラム全面勝利の足掛けにしたいと言うわけですな、セドリック・アストン大司教」
「な、何故私の名前を、……い、いや」
黒頭巾がうろたえたところで、狐獣人は歯を見せて笑う。
「我々もこう言う稼業を長く続けるとなると、依頼人の素性くらい洗うのは必須でしてね。
いつ何時手のひらを返されて、あなたの直属だった大司祭殿のように切り捨てられるか、と言う懸念があれば、このくらいするのは当然でしょう?」
「う……ぐ」
アストン大司教は黒頭巾を脱ぎ、苦々しげな顔をあらわにして見せた。
「まあ、そもそも我々のような下賤の者たちと密会していたとバレれば、立場も危ういでしょう。勿論何かしらの不都合が発生しない限りは公表なぞしやしませんし、これでひとまずの安全が確保されたとしておきましょう。
で、報酬はいかほどで?」
「司令補佐官と指揮官にはそれぞれ5000万クラム。司令官には8500万クラムを出そう」
「ざけんな、安いぞ」
派手なジャケットを羽織った、いかにもチンピラ然とした虎獣人の男が異議を唱える。
「向こうさんの大臣やら司令官やらっちゅう重要人物を俺らに襲わせといて、その報酬が20万から30万エルか?
人のことを下に下に見るんは勝手やけど、相場に合わんやろが」
「その通り」
と、「狐」も同意する。
「死亡後の影響が半端なくデカい、央北の運命を左右するくらいの人間を殺すってのに、そんな大仕事をたった20万で請け負えってのはケチに過ぎますぜ。
これが全部成功し、敵方がガタガタになりゃ、あんたらが手にする利益は誰も想像できないレベルの、とんでもない額に上るはずでしょう?」
「な、ならば成功させればいい話だ!」
大司教は軽く狼狽しつつも、こう反論する。
「クラムで払うと言ったはずだ! 暗殺成功後、クラム高は絶対に起こる! ならば支払ったそのクラムも、エルに換算して50万、100万、いいや200万にだって……!」
「わたくしたちは不確実を嫌うものですから」
この反論にも、青と緑の派手な帽子とコートを着た、種族不明の女が応じる。
「あなたの仰るクラム高が現実に起こると言う保証は、ご用意できませんでしょう」
「う……」
「そう言うわけです、聖下。現在価値で、少なくとも最低500万エルからでなきゃ、この依頼は受けられませんぜ?」
「その……、我々のことを調べているのなら、その、実情は分かっていることと思うが……」
大司教は歯切れ悪く、その要求を呑むことが難しいと暗に返す。しかし「狐」はにべもなく、さらにこう返す。
「存じちゃいますがね、相場は相場だ。我々のような腕利きを雇おうって言うんなら、それくらいは出してくれなきゃ困りますぜ。
それにだ、確かにあんた方『天政会』の台所事情が若干焦げ臭いってことは存じておりますが、こう言う時のために金を出してくれるパトロンが聖下個人に付いている、ってこともまた、存じておるわけですよ。
ねえそうでしょ、カーウィン・ゴールドマンさん?」
「……!」
この言葉に、大司教と――そして壁を覆っていたカーテンの裏側に潜んでいた男がたじろいだ。
「……君の調査力と洞察力は凄まじいな。私のことを調べたばかりか、ここにいることまで見抜くとは」
「『仕事を完璧にこなすためにはいい目、いい鼻、そしていい頭が必須だ』、と言うのが親父の遺言でしてね。
聖下が大金をバラ撒くような、しかも他人においそれと聞かせられないような話をするのに、聖下と一蓮托生のあなたがこの場にいないわけが無い。そう踏んだわけです」
「なるほど」
カーテンを翻し、金地に先端の赤い耳と尻尾を有した、身なりのいい狐獣人の男が現れた。
「なかなか含蓄のある言葉だ。参考にさせてもらおう。
君の名も聞いておきたい。何と言うのかな?」
「ロベルト・ブリッツェンと申します。よろしくお見知り置きを」
ロベルトはニヤ、と笑い、恭しくお辞儀をして見せた。
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為替関係がややこしくなってきたので、ここで注釈。
「白猫夢 第5部」に登場する貨幣の価値は、
日本円(2013年5月現在)と比較して次の通りです。
1エル≒19.725円
1クラム≒0.087円
1コノン≒0.067円
隊長暗殺の報酬として大司教が提示した額は400万円くらい。
ロベルトが要求した最低価格は960万円9600万円くらいです。
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上記注釈に対しコメントをいただきましたので、
「白猫夢 目次 / 拍手コメントへのお返事」にて回答を掲載しました。
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2013.6.12 加筆修正
詳しくは「考察;暗殺の報酬について」をご覧ください。
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なお、ご意見やご質問など、コメントが長文になる場合は、
拍手コメントからではなく、各記事に備え付けのコメント欄から記入・送信していただけると、
非常にお答えしやすいです。
できればそちらの方に、記入をお願いいたします。
為替関係がややこしくなってきたので、ここで注釈。
「白猫夢 第5部」に登場する貨幣の価値は、
日本円(2013年5月現在)と比較して次の通りです。
1エル≒19.725円
1クラム≒0.087円
1コノン≒0.067円
隊長暗殺の報酬として大司教が提示した額は400万円くらい。
ロベルトが要求した最低価格は
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上記注釈に対しコメントをいただきましたので、
「白猫夢 目次 / 拍手コメントへのお返事」にて回答を掲載しました。
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2013.6.12 加筆修正
詳しくは「考察;暗殺の報酬について」をご覧ください。
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