「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・天謀抄 4
麒麟を巡る話、第226話。
敵の急所へ。
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4.
「ファルコン」部隊は通算8度目の出動を行うため、作戦会議を開いていた。
今回の任務は央北のまさに「中央」――ヘブン王国の隣にある小国、セブロ市国への潜入である。
「まだうわさの範疇(はんちゅう)だが……」
そう前置きし、マルセロは地図を指し示す。
「『天政会』がこの街に、今年第二四半期末に期限を迎える債務を返済するための準備金、200億エルを移送したとの情報が入った。
知っての通り、この国は『天政会』が央北内における為替・先物・金融、その他多数の商取引を行うために造られた街だ。それ故うわさと言えど、信憑性はかなり高いものと考えられる。
よしんば、うわさ自体がデマだったとしても、ここを荒らせば奴らの資金運用計画にとって重大な影響を及ぼすことができるのは確実。可能であれば時期を問わず攻め込んでおきたかった場所だった。
しかし……、今までそれは不可能だったわけだ。この国と我が国までの距離は遠く、さらに警備は厳重そのもの。ここへ飛び込もうものなら生きて帰ることなど、望むべくも無い。それほど困難かつ実現の可能性が希薄な計画だった」
そこで言葉を切り、マルセロはまるで自分の雇い主のように、ガラリと表情を変えて見せた。
「……だがッ! 我らが『ファルコン』の、結成以来2年間にわたる決死の工作活動によって、それがついに実現する時が来た!
ここへ侵入・脱出するまでの経路は完全に掌握されており、武器・弾薬、車輌、その他兵站確保の手段も整えられている! そして何より……」
マルセロは隊員たちを見据え、ニヤッと笑う。
「百戦錬磨の屈強な戦士がこれだけズラリと揃っている! 生半可な兵隊や戦術じゃ、俺たちを止めることはできやしない!
いよいよ『天政会』の屋台骨をがっちりと握り、揺さぶれる時が来たんだ……!」
「……」
顔を紅潮させる司令官に、隊員たちも喜色満面になっていく。
と、ここでマルセロは真顔に戻り、こう続けた。
「だが、実戦の際に何が起こるか分からないのは、いつものことだ。思いもよらない目に遭い、敗走することも、いつだって有り得ない話じゃ無い。
ここでそんなことになったら、今までの苦労と戦果は水の泡だ。それだけは避けたい。今度も十分に気を付けて、任務に当たってくれ。くれぐれも慢心、過信にかられた行動はしないよう、極めて冷静な行動を行うように。
以上だ。各自、計画を立ててくれ」
A~C隊が会議室を後にしたところで、マロンが口を開いた。
「『天政会』が造った街って言ってたけど……、何でわざわざ? すぐ近くに自分の配下でクラム管理国の、ヘブン王国があるのに」
「そりゃ、逆だな」
マルセロにそう返され、マロンはきょとんとする。
「逆って?」
「市国を作った後で、王国が下ったんだよ。その辺りの経緯を説明するとだ」
マルセロは作戦会議に使っていた地図を、まだ火を点けていない煙草で指し示す。
「確かに元々、セブロ市国はヘブン王国の一部だったんだ。
ヘブン王国が『天政会』の傘下に下る前の話になるが、まだその頃はヘブン王国も自力で経済再生をする気力と意欲はあったんだ。
しかし残念ながら、気力と意欲はあっても、実力と経験が無かった。7年前――先代女王が崩御し、現在の国王へ代替わりしてすぐの頃に、そのボンクラ国王が大規模な経費削減策を執ったんだ。『現在の国力で賄える程度に、国の規模を縮小する』ってな。
しかし結果と言えば、惨々たるもの。杜撰な算定の元、農地やら工場やら、生産能力のある州や街まで無計画に売り飛ばしちまったせいで、コストを下げる以上に、国全体の生産力を大きく落ち込ませちまったんだ」
「マルセロ、話ずれてるわよ」
プレタが肩をすくめ、質問を継ぐ。
「その国土売却計画の一環として売られた街が、現在のセブロ市国ってことね?」
「そう言うことだ。『天政会』にとっちゃ落とそうと思ってた城が、自分から門を開いたようなもんさ。
当然奴らはここを買い叩き、巨大な取引所を築き上げた。そしてその中で、目の前で発行されるクラムをことごとく為替市場から追い出すような、そんな取引を徹底的に続けた。
その結果、元々安かったクラムはさらに価値を落とし、さっき言ったヘブン王国自身の生産力激減との相乗効果により、ついにクラムの発行・管理国であるはずの強国・ヘブン王国は、経済破綻をきたした。
進退を極めたヘブン王国には最早、自分たちをへこました張本人である、『天政会』の誘いを受け入れる以外の方法は無かった、……ってわけさ」
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敵の急所へ。
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「ファルコン」部隊は通算8度目の出動を行うため、作戦会議を開いていた。
今回の任務は央北のまさに「中央」――ヘブン王国の隣にある小国、セブロ市国への潜入である。
「まだうわさの範疇(はんちゅう)だが……」
そう前置きし、マルセロは地図を指し示す。
「『天政会』がこの街に、今年第二四半期末に期限を迎える債務を返済するための準備金、200億エルを移送したとの情報が入った。
知っての通り、この国は『天政会』が央北内における為替・先物・金融、その他多数の商取引を行うために造られた街だ。それ故うわさと言えど、信憑性はかなり高いものと考えられる。
よしんば、うわさ自体がデマだったとしても、ここを荒らせば奴らの資金運用計画にとって重大な影響を及ぼすことができるのは確実。可能であれば時期を問わず攻め込んでおきたかった場所だった。
しかし……、今までそれは不可能だったわけだ。この国と我が国までの距離は遠く、さらに警備は厳重そのもの。ここへ飛び込もうものなら生きて帰ることなど、望むべくも無い。それほど困難かつ実現の可能性が希薄な計画だった」
そこで言葉を切り、マルセロはまるで自分の雇い主のように、ガラリと表情を変えて見せた。
「……だがッ! 我らが『ファルコン』の、結成以来2年間にわたる決死の工作活動によって、それがついに実現する時が来た!
ここへ侵入・脱出するまでの経路は完全に掌握されており、武器・弾薬、車輌、その他兵站確保の手段も整えられている! そして何より……」
マルセロは隊員たちを見据え、ニヤッと笑う。
「百戦錬磨の屈強な戦士がこれだけズラリと揃っている! 生半可な兵隊や戦術じゃ、俺たちを止めることはできやしない!
いよいよ『天政会』の屋台骨をがっちりと握り、揺さぶれる時が来たんだ……!」
「……」
顔を紅潮させる司令官に、隊員たちも喜色満面になっていく。
と、ここでマルセロは真顔に戻り、こう続けた。
「だが、実戦の際に何が起こるか分からないのは、いつものことだ。思いもよらない目に遭い、敗走することも、いつだって有り得ない話じゃ無い。
ここでそんなことになったら、今までの苦労と戦果は水の泡だ。それだけは避けたい。今度も十分に気を付けて、任務に当たってくれ。くれぐれも慢心、過信にかられた行動はしないよう、極めて冷静な行動を行うように。
以上だ。各自、計画を立ててくれ」
A~C隊が会議室を後にしたところで、マロンが口を開いた。
「『天政会』が造った街って言ってたけど……、何でわざわざ? すぐ近くに自分の配下でクラム管理国の、ヘブン王国があるのに」
「そりゃ、逆だな」
マルセロにそう返され、マロンはきょとんとする。
「逆って?」
「市国を作った後で、王国が下ったんだよ。その辺りの経緯を説明するとだ」
マルセロは作戦会議に使っていた地図を、まだ火を点けていない煙草で指し示す。
「確かに元々、セブロ市国はヘブン王国の一部だったんだ。
ヘブン王国が『天政会』の傘下に下る前の話になるが、まだその頃はヘブン王国も自力で経済再生をする気力と意欲はあったんだ。
しかし残念ながら、気力と意欲はあっても、実力と経験が無かった。7年前――先代女王が崩御し、現在の国王へ代替わりしてすぐの頃に、そのボンクラ国王が大規模な経費削減策を執ったんだ。『現在の国力で賄える程度に、国の規模を縮小する』ってな。
しかし結果と言えば、惨々たるもの。杜撰な算定の元、農地やら工場やら、生産能力のある州や街まで無計画に売り飛ばしちまったせいで、コストを下げる以上に、国全体の生産力を大きく落ち込ませちまったんだ」
「マルセロ、話ずれてるわよ」
プレタが肩をすくめ、質問を継ぐ。
「その国土売却計画の一環として売られた街が、現在のセブロ市国ってことね?」
「そう言うことだ。『天政会』にとっちゃ落とそうと思ってた城が、自分から門を開いたようなもんさ。
当然奴らはここを買い叩き、巨大な取引所を築き上げた。そしてその中で、目の前で発行されるクラムをことごとく為替市場から追い出すような、そんな取引を徹底的に続けた。
その結果、元々安かったクラムはさらに価値を落とし、さっき言ったヘブン王国自身の生産力激減との相乗効果により、ついにクラムの発行・管理国であるはずの強国・ヘブン王国は、経済破綻をきたした。
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