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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第5部

    白猫夢・天謀抄 5

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    麒麟を巡る話、第227話。
    マルセロの策。

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    5.
     作戦会議から2週間後――ミニーノ姉妹、および「ファルコン」部隊の全員が、セブロ市国に潜入した。
    「央北で見てきた中で、一番活気のある街ね」
    「ああ。金の集まり方が半端じゃないからな。『天政会』の金庫と言っても過言じゃない」
    「でも、『天政会』の幹部連中はここじゃなく、マーソルにいるんでしょ? なんでそんな、面倒なことしてるのかしらね」
     マーソルとは、旧名を天帝廟と言い、元々は歴代天帝の墓所が併設されていた小さな港である。黒白戦争で天帝一族がこの地に追いやられて以降は、天帝教の総本山としての機能を有するようになった。
    「ま、色々理由はあるだろうが、一番の理由は『天政会』の上役である天帝教教皇庁の、監視の目が届かないところで金儲けしたいってことだろうな。
     流石にお坊さんが銭金集めに躍起になってるなんて、あんまり面白いもんでも無いし」
    「そりゃそうね」

     三人は早々と拠点へ籠り、今回の作戦を確認することにした。
    「手筈はこうだ。
     まず標的だが、『天政会』はこの市国において金融取引を主とする商会を作り、証券・為替取引所を運営させている。
     通常時においても数億から数十億エルの準備金・運用資金がここには収められているが、近々償還間近の債務があり、その支払いのために約200億エルが集められているそうだ。
     そこで俺たちはこの証券取引所を襲撃し、その200億エルを奪う」
    「成功すれば『天政会』はデフォルト(債務不履行)を起こす。そうなれば一気に信用を失い、市場から締め出されるでしょうね」
    「うまく行けばな。ま、そうでなくても、200億エルを失うってだけで致命的だ。奴らの計画が軒並み頓挫するのは確実。奴らが足を止めたその隙に、一気に俺たちが先を行く。
     それもうまく行ってくれれば……」
    「『新央北』と『天政会』の差は決定的なものになる。央北の覇権は『新央北』のものになる。……ってことね」
    「そう言うことだ」
     マルセロは一枚の地図を机に広げ、中心を指し示す。
    「ここが目標地点、取引所の金庫室だ。
     準備金が蓄えられていると言うこともあって、現在、取引所の警備は厳重になっている。ヘブン王国から多数の兵士を借り、護りに当たらせているとのことだ。
     しかし一方、ヘブン王国側としては、己の国を貶めた張本人らである『天政会』に対して嫌悪感を持っている国民が少なからず存在しているのも事実だし、当然その中には兵士も含まれている。
     恐らく未必の範疇ながらも、『天政会』に何らかの打撃が加えられても構わないと考える者もいるだろう。
     俺たちはそれを突く形で、ここを襲撃する」

     日が沈み、街の灯も落ちた頃になって、「ファルコン」部隊は動き出した。
    「ま、実を言えばもう既に、作戦の半分は終了してるも同然なんだ」
     D隊の拠点にて、マルセロはくわえ煙草で笑みを浮かべている。
    「この半月のうちに、取引所を警備する奴らの素性は粗方洗っている。
     で、その中で『天政会』の施設警備をすることに対し、多かれ少なかれ不満を持っている奴に対し、密かに金を渡している。『俺たちが襲撃する時、ほんのちょっとでいいから隙を見せて侵入させてくれればいい』って伝えつつな。
     言い換えれば、真剣に警備させないってことだ。勿論、職務責任上は真面目に仕事しなきゃならないが、もし警備に失敗したとしても、罰するのは『天政会』じゃない。『天政会』から命令された、王国だ。
     王国自体、『天政会』に対して悪感情を持ってるわけだし、失敗したって大して咎められないのは目に見えてる。だから『ちょっとくらい怠けたっていいさ』って気分は、元からあるんだ。
     ましてやこの仕事を誰のためにするかって言えば、にっくき『天政会』のためだ。元から本腰なんか入れたくないような仕事を命じられたところに、俺たちの懐柔だ。
    『ほんのちょっと手を抜くくらいならいいかも』と思って不思議はないし、そもそも戦ったら被害を被る危険もある。誰だって危険な目には遭いたくないし、じゃあ言うこと聞いておこうかとなる。
     結果、厳重なはずの警備には、あちこちに隙ができる。俺たちはそれをすり抜け、そのまま金を強奪していくってわけさ」
    「ま、悪くない作戦ではあるわね。被害は少ない方がいいわ」
     プレタから及第点を与えられ、マルセロはニヤ、と笑って返す。
    「だろ?」
    「でももし、クソ真面目に応戦する奴が大勢いたら?」
    「その点も抜かりない。
     さっき言った調査で、警備の穴はある程度把握できている。そこを縫うような形で侵入すれば、もし応戦する奴が大勢いたとしても、相手する回数はかなり少なくできる。
     こちらの戦闘力の高さを考えれば、特に支障なく進めるはずだ」
    「じゃ、後は臨機応変に指示を送るくらいね」
    「ああ。……ま、1時間もあれば片が付くだろうさ」
     マルセロはニヤニヤと笑いながら、煙草に火を点けた。

     その安堵感を打ち破ったのは――突然立ち上がって叫んだ、通信兵だった。
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