「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・天謀抄 6
麒麟を巡る話、第228話。
接触。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「頭巾」を被っていた通信兵が唐突に、大声を上げる。
「だ、……誰だ、お前は!?」
「どうした?」
マルセロが尋ねたが、通信兵は耳を押さえ、何かに聞き入っている。
「おい?」
「……し、司令官!」
通信兵は困惑した顔を、マルセロに向ける。
「その、……その、A隊と思われる『頭巾』からの、通信が」
妙な言い回しに、マルセロとミニーノ姉妹は揃って怪訝な表情を浮かべる。
「思われる? アセラかフレッコじゃないの?」
プレタはA隊の隊長とその通信兵の名前を出したが、相手は首を横に振る。
「貸しなさい」
プレタは通信兵から「頭巾」を受け取り、頭に巻いた。
「アンタ、誰?」
《俺かい?》
通信兵が困惑していた通り、確かにその声はプレタたちには聞き覚えのない声だった。
《さーて、誰だろうな?》
「ふざけないで。その頭巾、誰から奪ったの?」
《ちょっと考えりゃ分かるだろ?》
挑発するような男の声に、プレタは一瞬、押し黙る。
「……」
《お? 怒っちゃったか? くく……》
「あたしたちの部隊を襲ったのね?」
《ああ》
「隊員は無事?」
《今のところはな。とりあえず、縛ってあるだけさ》
「解放する気は?」
《あんたら次第さ》
横で別の「頭巾」を使い、話を聞いていたマルセロが、そこで割って入る。
「言ってみろ。何が望みだ?」
《あんた……、マルセロ・イッシオ司令官だな?》
「……そうだ」
《あんたの身柄さぁ。それとあんたのお付き二人もだ》
この要求を聞いたマルセロは一瞬、プレタたちの顔を見る。
「……」
それを受け、プレタが代わりに返答する。
「一つ、聞くわよ」
《どうぞ》
「アセラは、……隊長は無事なの?」
《……ひひ》
次の瞬間――プレタは部屋中がビリビリと震えるほどの怒声を放った。
「ふざけてんじゃないわよ、このクソ野郎おおおッ!」
《……っく、……なんだよ、いきなり》
「狙いは各隊隊長と司令官、そしてあたしたち二人ね? そしてもう既に、アセラは死んでいる。そうね!?」
《何でそう思うよ?》
「アンタの応答の、一瞬の間がそれを語ってるわ……! 違うと言うなら、アセラを出しなさいよ!」
《……まあ、……まあ、落ち着けよ。そりゃまあ、ちょっと痛めつけはしたが、……生きてるのは、生きてる。気、失ってはいるけど、まだ、生きてる、……と思うぜ》
「生きてる『と思う』?」
その回答に、プレタの語気がさらに荒くなる。
「アセラに何をしたかなんて聞かないわ。……アンタ」
《なんだ?》
「殺すわ」
そう返し、プレタは「頭巾」を頭から剥ぎ取り、地面に叩きつけた。
「お、おい、プレタ……」
マルセロは困惑した表情を浮かべ、恐る恐る声をかける。
しかし――プレタは唐突に、マルセロとマロンを引き寄せ、ひそ……、とつぶやいた。
「敵はここを狙ってくるわ」
「え?」
「あれだけ大声を出して、周囲に位置を報せたんだもの。相手は『怒りで我を忘れたバカ女なんか、余裕で狩り殺せる』と高をくくり、攻め込んでくるはずよ」
「お前、……じゃ、今のは演技だったのか?」
「そうよ」
プレタはニヤ……、と笑って見せる。
「あの状況じゃ、きっと敵はどこにいるか分からないまま。適当に身柄受け渡し場所を指示され、相手のペースで事を運ばされたでしょうね。
でも今、こうしてあたしたちが隙を見せてあげた。敵は『面倒な交渉や、その振りをするよりも、さっさと叩くチャンスだ』とにらんでるはずよ」
「そこまで読み当てられるのか?」
「読んだんじゃないわ。導いたのよ。そうなるようにね。これであたしたちのペースで事を運べるわ。
……ほら、来たみたいよ」
プレタの言った通り――拠点の外から、ぱき……、と煉瓦の欠片を踏む音が響いた。
白猫夢・天謀抄 終
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「頭巾」を被っていた通信兵が唐突に、大声を上げる。
「だ、……誰だ、お前は!?」
「どうした?」
マルセロが尋ねたが、通信兵は耳を押さえ、何かに聞き入っている。
「おい?」
「……し、司令官!」
通信兵は困惑した顔を、マルセロに向ける。
「その、……その、A隊と思われる『頭巾』からの、通信が」
妙な言い回しに、マルセロとミニーノ姉妹は揃って怪訝な表情を浮かべる。
「思われる? アセラかフレッコじゃないの?」
プレタはA隊の隊長とその通信兵の名前を出したが、相手は首を横に振る。
「貸しなさい」
プレタは通信兵から「頭巾」を受け取り、頭に巻いた。
「アンタ、誰?」
《俺かい?》
通信兵が困惑していた通り、確かにその声はプレタたちには聞き覚えのない声だった。
《さーて、誰だろうな?》
「ふざけないで。その頭巾、誰から奪ったの?」
《ちょっと考えりゃ分かるだろ?》
挑発するような男の声に、プレタは一瞬、押し黙る。
「……」
《お? 怒っちゃったか? くく……》
「あたしたちの部隊を襲ったのね?」
《ああ》
「隊員は無事?」
《今のところはな。とりあえず、縛ってあるだけさ》
「解放する気は?」
《あんたら次第さ》
横で別の「頭巾」を使い、話を聞いていたマルセロが、そこで割って入る。
「言ってみろ。何が望みだ?」
《あんた……、マルセロ・イッシオ司令官だな?》
「……そうだ」
《あんたの身柄さぁ。それとあんたのお付き二人もだ》
この要求を聞いたマルセロは一瞬、プレタたちの顔を見る。
「……」
それを受け、プレタが代わりに返答する。
「一つ、聞くわよ」
《どうぞ》
「アセラは、……隊長は無事なの?」
《……ひひ》
次の瞬間――プレタは部屋中がビリビリと震えるほどの怒声を放った。
「ふざけてんじゃないわよ、このクソ野郎おおおッ!」
《……っく、……なんだよ、いきなり》
「狙いは各隊隊長と司令官、そしてあたしたち二人ね? そしてもう既に、アセラは死んでいる。そうね!?」
《何でそう思うよ?》
「アンタの応答の、一瞬の間がそれを語ってるわ……! 違うと言うなら、アセラを出しなさいよ!」
《……まあ、……まあ、落ち着けよ。そりゃまあ、ちょっと痛めつけはしたが、……生きてるのは、生きてる。気、失ってはいるけど、まだ、生きてる、……と思うぜ》
「生きてる『と思う』?」
その回答に、プレタの語気がさらに荒くなる。
「アセラに何をしたかなんて聞かないわ。……アンタ」
《なんだ?》
「殺すわ」
そう返し、プレタは「頭巾」を頭から剥ぎ取り、地面に叩きつけた。
「お、おい、プレタ……」
マルセロは困惑した表情を浮かべ、恐る恐る声をかける。
しかし――プレタは唐突に、マルセロとマロンを引き寄せ、ひそ……、とつぶやいた。
「敵はここを狙ってくるわ」
「え?」
「あれだけ大声を出して、周囲に位置を報せたんだもの。相手は『怒りで我を忘れたバカ女なんか、余裕で狩り殺せる』と高をくくり、攻め込んでくるはずよ」
「お前、……じゃ、今のは演技だったのか?」
「そうよ」
プレタはニヤ……、と笑って見せる。
「あの状況じゃ、きっと敵はどこにいるか分からないまま。適当に身柄受け渡し場所を指示され、相手のペースで事を運ばされたでしょうね。
でも今、こうしてあたしたちが隙を見せてあげた。敵は『面倒な交渉や、その振りをするよりも、さっさと叩くチャンスだ』とにらんでるはずよ」
「そこまで読み当てられるのか?」
「読んだんじゃないわ。導いたのよ。そうなるようにね。これであたしたちのペースで事を運べるわ。
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