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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第5部

    白猫夢・死線抄 3

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    麒麟を巡る話、第231話。
    肉弾戦。

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    3.
     建物内に戻ったマロンは、顔を真っ青にして倒れたマルセロを発見した。
    「マルセロ、大丈夫!?」
    「……だい……じょうぶ……と言いたいが」
     マルセロは倒れ込んだまま、弱々しい声で答える。
    「爆発で……色々飛んできた……あちこち……ぶつけたらしい」
    「……あんまり得意じゃないけど、一応、治療術は使えるから。じっとしてなさい」
     そう前置きし、マロンは屈み込んで治療術をかける。
    「『キュア』。……応急処置にもならないかも知れないけど、我慢して」
    「……いや……わりと……痛みがひいてきた」
     まだ横になったままではあるが、マルセロの顔に赤みが戻って来る。
    「他の……奴は?」
    「見てくる」
     マロンは立ち上がり、周囲を見渡す。
    「うう……」「いたい……」
     あちこちからうめき声が聞こえてはいるが、どうやら死んだ者はいないようだった。
    「誰か、動ける?」
    「あ……はい……」
     比較的軽傷の者、無傷の者と協力し、マロンは仲間の手当てを行った。
    「マロン副官、いいんですか?」
     と、マロンに包帯を巻いてもらっていた者が尋ねてくる。
    「何が?」
    「今、外には刺客がいるんじゃ」
    「ああ……。大丈夫よ、プレタがいるし」
    「助けに行ってあげた方が……」
     心配そうにする隊員に、マロンはくすっと笑って返した。
    「必要ないわ。プレタはすごく強いから」



     己の繰り出す技をことごとく避けられ、刺客の虎獣人は目に見えて苛立っていた。
    「ちょろちょろしてんなや、このアマあぁ……!」
    「お断りよ。殴られたくないし」
     一方のプレタは、口ではからかい、嘲り、罵っていたが、その実――内心は冷静なままだった。
    (勝つこと自体は簡単。この手のタイプは怒らせれば怒らせるほど、動きが大味で乱暴になっていく。大きな隙を見せたところで急所を突けば、それで仕留められるわ。
     でも、ただ殺したり、口も利けない程に痛めつけたりするのは駄目。こいつから情報を得なければ、あたしたちは次の手を見失ってしまう。そうなれば、アセラたちを助けることができなくなる。
     となれば……、動けなくするだけに留めなきゃいけない。なら、……こう行くとしましょうか)
     プレタはニヤ、と笑みを浮かべて見せ、さらに挑発を重ねた。
    「どうしたの? あなたが動くなって言ったのに、攻撃してこないのかしら? こんなにじっとしていてあげたのに、何をぼんやりしてるのよ」
     そう言った後、プレタはさらに人差し指をくいくいと曲げ、来るように促してみる。
    「うっ……、んな、……なめんなああああッ!」
     これを受け、虎獣人はいよいよ激昂した。
    「やったらあッ!」
     この戦闘で何度目かになるタックルを、プレタは後ろに退きつつ受ける。
    「お、わ……っ!?」
     勢いを削がれ、虎獣人は前につんのめる。
     その瞬間――プレタは虎獣人の太い首に、右腕を這うように回して締め上げ、さらに左腕を添えて上から抑え込み、裸絞めの姿勢を取る。
    「ぐげっ……、げ、げ……っ、な、なめっ、な……」
     虎獣人は悶絶しつつも、プレタの腕を外そうともがくが、それより先にプレタが腰を落とし、虎獣人の体全体を地面に押し付ける。
    「くっ、がっ、か……、ご……、っ……」
     5秒としないうちに、虎獣人は口から泡を吐いて気絶した。

     気を失ったままの虎獣人を縛り上げたところで、ミニーノ姉妹は救急用アルコールを染み込ませた布を、気付け薬代わりに彼の鼻に近付ける。
    「……ふあっ、な、何や!? ……あ」
     目を覚ました虎獣人と、プレタの視線が合う。
    「時間が無いわ。さっさと教えなさい」
    「あ……?」
    「アンタたちの拠点はどこ? 指揮してるのは誰?」
    「……ああ、そう言うことか」
     虎獣人はぷい、とそっぽを向こうとしたが、その顔をマロンが刀の柄でひっぱたく。
    「いで……っ」
    「二度も言わせないで。時間が無いのよ。
     拠点はどこか、言いなさい」
    「言うてどうなんねん。言っても言わんでも俺、殺されるんやろ?」
    「素直に言えば命は助けてあげるわ。でもいつまでも言わないままなら……」
     マロンが刀を抜き、虎獣人に突きつける。
    「目一杯痛めつけてやる。覚悟しなさいよ」
    「あ、そうでっか、ふーん、そら怖いなぁ」
    「……」
     馬鹿にしたような態度を執る虎獣人に、二人は静かに激怒した。
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