黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第5部

    白猫夢・死線抄 4

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    麒麟を巡る話、第232話。
    卑怯者の赤狐。

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    4.
    「言わないつもりね?」
    「誰が言うか、ボケ」
     虎獣人がそう返した瞬間、マロンは彼の右肩に刀をぶつっ、と突き入れた。
    「うっ、……ぐ、ぐく、っ」
    「『人質だから殺されはしない』と思ってる? それなら見当違いよ。
     きっと後30分もすれば、アセラたちは全員殺される。そうなればアンタの利用価値は無くなる。
     無くなった以上、生かす理由は無いし、怒り狂ってるあたしたちの憂さ晴らしに使われるだけよ」
     マロンは刀を持つ手をゆっくりと、時計回りにひねる。
     その瞬間、虎獣人は地の底から響いてくるかのようなうめき声を漏らした。
    「うお、おっ、あ、あうああああ……っ」
    「痛い? 痛いでしょうね。あなたの体が今まさに、ブチブチと千切られてるんですものね。
     でもあたしたちが仲間を失ったその時、その痛みはその百倍、いいえ、千倍としても釣り合わないほどになる。アンタを生きたまま細切れにしたとしても、その痛みは決して癒されないのよ。
     それともアンタは、自分の身が千切られる痛みの方が勝ると言うつもりかしら?」
     マロンは先程とは逆方向に、手首をゆっくりとひねって見せる。
    「はうっ、はう、あ、ひ、ひぎ、ひぎいいい……」
    「あたしたちの質問に素直に答えるなら、刀を抜いてあげるわ。でもあくまでも強情を張ると言うなら、今度は右腿に同じことをする。
     それでも言わないなら、今度は左肩。次は左腿。その次は右手の甲。その次は……」「わ、わ、わか、った、分かったから、やめ、やめて、やめてくれ……」
     虎獣人はボタボタと泣きながら、二人の要求を呑んだ。

     二人はまず――質問しづらいと言うことで――虎獣人の名前から聞き出した。
    「クイント・ロードセラー、……ね。央中南部の出身、と」
    「そうや」
     一応手当てはされたものの、クイントの顔色は土気色に近い。
    「聞いたことあるわね。頭は超絶に悪いけど、腕っ節だけで依頼を無理矢理こなす野蛮人、もとい、傭兵だって」
    「ほっとけ……」
    「で、クイント。さっさと教えてくれない?」
    「俺たちの拠点か? えーと……、どう言ったらええかなぁ、……て、そんな怖い目ぇしんといてえや。ちゃんと言うから。
     あの、ほら、あれや」
    「あれって何よ」
    「あのー、あれや。えーと、ほら、取引所の裏んとこに、あの、女神さんの像、あったやろ?」
    「聖クラム・タイムズ太后像?」
    「それや、それ。で、あの像の下にな、隠し扉みたいなんがあるねん」
    「そんなのが……?」
     話を聞いていたマルセロが、小さくうなずく。
    「この街は『天政会』が造ったんだ。奴ら専用の地下道の一本や二本、あっても不思議じゃない」
    「そこにアセラたちはいるのね?」
    「おる、……と思う」
    「思うって何よ?」
    「いや、俺はあんたら探してあちこち回っとっただけやし。作戦開始からずっと、拠点には戻ってへんねん」
    「でも、他に人を隠せる場所は無さそうね。取引所も爆破されたみたいだし。
     次の質問だけど、アンタたちの数は? 何人で襲ったの?」
    「俺を入れて6人や」
    「6人? たった6人で、50人近くいたあたしたちの部隊を全滅させたって言うの?」
    「俺はこんな体たらくやけど、他の5人は凄腕や。お前らなんか相手になるかいな、……あ、いや、……うそや、うそ」
     クイントをにらみつけたまま、プレタは質問を重ねる。
    「リーダーは誰?」
    「ロベルト・ブリッツェンっちゅう、赤毛の狐獣人や。ヘブン王国の元少尉やと聞いとる」
    「ブリッツェン? あの『裏切り者』ブリッツェンか?」
    「……かなぁ? いや、俺も雇われて1年くらいやし、うわさ程度にしか聞いてへんねんけど」
    「こいつはまずいな……」
     名前を聞いたマルセロは、苦い顔をする。
    「誰なの?」
    「お前らは知らんだろうが、7年か8年ほど前、ヘブン王国で内戦が勃発したんだ。
     クラムの価値を操作されないよう他国と距離を置き、独立性を維持しようとする女王・軍部派と、他国とより強い連携を取ってクラムの価値を投機的に高め、自国資産を殖やそうとした王子・内閣派に分かれてな。
     結果は王子派の勝利だったが、その後のことはこないだ話した通りだ。で、そのブリッツェンってのが、女王派の一人だったんだ。と言っても親の方だが」
    「どう言うこと?」
    「そのロベルトってのの親父がルドルフ・ブリッツェン少将って奴で、劣勢だった女王派、いや、女王を最期まで守り抜き、殉死したんだ。ヘブン王国では敗将ながら忠義に篤い男として尊敬を集め、死んだ後に二階級特進した。
     ところが息子のロベルトは開戦間も無く、女王派を裏切った。その一件が勝敗を決定付けたとも言われている。ちなみに終戦間際、親父を撃ったのも奴ってうわさだ。
     相当に頭の切れる男で、義理より人情より、何より利益を最優先する冷血漢だそうだ」
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