黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・鬼謀録 1

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    晴奈の話、135話目。
    神算・鬼謀、併せて圧倒的な謀略のこと。

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    1.
     天玄の防衛戦から1年後の、518年早春。
     しばらく安定していた央南西部にふたたび、戦乱の気配が漂い始めていた。

     央南連合の介入によって黄海の軍備が拡充されたため、黒炎教団が直接攻め入ることは既に不可能となっていた。一方、これまで影から支配していた天玄においても、天原桂を介した傀儡政治が明らかになり、かつ、これが廃されたため、この地の支配権をも失っていた。
     この二都市における事実上の敗北・撤退により、黒炎教団の央南における支配圏、宗教圏は著しく後退した。そのため教団はこれらに代わる土地を求め、央南西部全域に向けて教団員を大量に派遣、派兵した。
     央南連合はこの行動を「央南の治安阻害、侵略行為」と見なし、彼らを駆逐することを決定。連合軍の兵力が西部全域に投入されることとなり、戦線は拡大されていった。

     こうして央南西部が騒がしくなり始めた頃、戦争地域内の町村ではしきりに、ある話し合いが行われるようになった。



     戦争地域内の、とある小さな村にて。
    「さて、どうするかな」
    「黒炎は大規模な顧客層だし、連合は関税免除の恩恵が大きいし」
    「それだけじゃない。黒炎と手を切れば、あいつらは報復に出ると言う噂がある」
    「かと言って連合と手を切れば、外国との輸出入に莫大な税金がかかる。おまけに連合の兵には、焔の者も多い」
    「なるほど、黒炎に加担したと見られて、眼の敵にされるのも……」
    「うーむ」
     村やその近隣の権力者たちは一様に頭を押さえ、今後の対応に悩んでいた。
     元々この辺りは央南の端であり、教団の本拠地である黒鳥宮のある屏風山脈にも近い。央南連合の発生から現在まで、両者の緩衝材として存在してきた町村である。
     その地理的特徴を活かし、これまで中立の立場を取って両者と取引してきたのだが、戦闘地域が拡大するまでは、両陣営に中立を咎められることは無かった。
     だが、教団が躍起になって布教活動を行い、連合がそれを実力行使により阻止しようとしている現在、下手にどっちつかずの立場を執っていると、両者からの攻撃を受けかねない。そのため早急にどちらの立場を執るべきか、検討せざるを得なくなったのだ。
     黒炎教団に付けば、彼らはそのまま大口の顧客になる。自分たちの生産物を大量に買ってくれるし、彼らが本拠地とする屏風山脈を通じて、央中との貿易も円滑になる。その反面、連合からは強制的に離脱、脱退させられることになり、北方や西方など、他の大陸との海路を経由する貿易においては、莫大な関税をかけられることになる。
     央南連合に付けば、その関税は大幅に減税、あるいは免除となる。また、連合軍の治安維持力も非常に強く、大規模な騒乱――まさに、今起こっている戦争がそれに当たるが――に見舞われても、概ね守ってもらえる。だがその分、連合の何十項に渡る条約、法律に縛られ、取引や貿易が制限される。当然、その条項の中には黒炎教団との取引を禁じる項目があり、大きな顧客を失うことになってしまう。
     不安定な戦況の中でどちらを選ぶべきであるか、彼らは困難な選択を迫られていた。

     と、そこへ――。
    「失礼します……」
     部屋の戸が開き、帽子を深く被った、黒い僧服の男たちが押し入ってきた。
    「誰だ?」
     村長が顔を上げ、いぶかしげに尋ねる。
    「私どもは黒炎教団の者です。大司教、ワルラス・ウィルソン台下より、伝言をことづかっております」
    「黒炎の司教だと?」
     村長をはじめ、その場にいた者たちは皆、教団員たちを注視する。
     司教と言えば教主に次ぐ高位の僧侶であり、教団内でも僧兵の管理や布教活動の総合計画などを司る、紛うことなき権力者からだ。
    「その司教が一体、我々に何の用だ?」
    「まずは、こちらをお目通しいただきたい」
     そう言って教団員は手紙を村長に差し出した。



    「央南西部、各町村の長へ。
     突然、このような申し出をお伝えすること、ご容赦いただきたい。
     私の名はワルラス・ウィルソン2世。あなた方に有益な判断をしていただきたく、今回このような手紙をお送りいたしました。
     現在、貴殿らは我々と央南連合、どちらに与すればいいのかと、悩んでいることと思われます。そこでもし、こちら側にご協力いただければ、次のような事柄をお約束いたします……」



    「……むう」
    「協力すれば央中との取引増加の手助け、教区となれば僧兵の派遣による防衛・治安維持を約束、そして西部海港都市の教化が成されれば、そこでの貿易を低関税、もしくは無税で許可、……か。
     この話が本当に実現するならば、連合に付く意味は無くなるな」
    「本当ですとも!」
     半信半疑の村長に、教団員は深々とうなずく。
    「台下の名にかけて、この提案は確実に履行されるものと確約いたします。どうぞ、ごゆっくりと熟考なさって下さい」
     そう言って教団員たちは、静かに会議の場から離れた。
    「……どうするかな」
     村長は手紙を見つめながら、小さくつぶやいた。

     この他にも、あちこちの村に同様の手紙がばら撒かれた。
     この状況、このタイミングで提案された黒炎の話に、耳を傾けない者は誰もいなかった。

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    2016.04.01 修正
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