「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・卑狐抄 1
麒麟を巡る話、第237話。
幸不幸のコントラスト。
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1.
プレタの突然の告白に、マロンは目を丸くした。
「へえー……」
敵と戦い、死線を潜った直後にするような話では無かったが、それでもマロンはその話を聞き、とても喜んだ。
「良かったじゃない、プレタ! ……良かったのよね?」
「勿論よ。……でも最初は、断ったの。あんな優れた人とあたしじゃ吊り合わないし、あたしは色々やましいことしてるし。そう言って、断ったんだけど」
プレタは顔を赤くし、こう続けた。
「彼はこう言ってくれたの。『過去のことは過去のことだよ。君の過去がどうだろうと、今は私の目の前にいる君がすべてなんだ。だからどうか君も、過去の自分を見つめるだけじゃなく、現在、君の目の前にいる、この私を見てくれないだろうか』って」
「……ん?」
その台詞に、マロンは聞き覚えがあった。
「それ、今回の作戦前にあたしに言ってくれたのと同じじゃない?」
「そう、同じこと言ったわ。
本当にね、あたし、『ああ、これでようやく過去から決別できるんだ』って。ショウがあたしの嫌な過去、全部覆い隠してくれるんだって。舞い上がってた。
……でも、どうしてもこの身に刻まれた技術は、体が覚えてしまってるのよ」
プレタは冗談めかした口調で、こう言った。
「だから腕の一つくらい、目の一つくらい潰さなきゃ、あたしは過去から逃れられない。潰れて使えなくなれば、戦えなくなれば、……もうあたしは『ナミ・サクラ』じゃなくなるはず、って」
「馬鹿言わないでよ」
マロンはプレタの手を振り払い、強引にプレタを治療した。
「あたしの考えは違う。過去は今につながってる。過去を捨てたら、今の自分も保てないわ」
「……やっぱり、違うわね。似てるけれど、やっぱり心の底は、ほんのちょっとだけ違う」
「全部同じだったら、トラス卿の奥さんは2人になっちゃうわ」
「そうね。……ふふ」
「あは……」
二人して笑ったところで、これまで硬直していたマルセロが恐る恐る近付いてくる。
「大丈夫……、じゃないよな」
「そうね。失明したかも。もう真っ向から戦うのは無理ね」
「そんなこと言うなよ……」
どうやらマルセロには、先程の話は聞かれていないらしい。
「いいのよ、もう! こうなっても色々、イイコトあるのよ」
マロンは冗談交じりにトン、とマルセロを押した。
そのほんのわずかの動作が、明暗を分けた。
マロンの目には、プレタが突然ポン、と飛んだように見えた。
「プレタ?」
そして――そのまま倒れ伏し、頭から血が広がっていくのを見て、マロンの頭の中は一瞬、真っ白になった。
「……え? ……えっ、……な、に? どう言う……」
「……う……」
プレタのうめき声が耳に入り、マロンはそこでようやく、状況を理解した。
「……撃たれた!? 一体どこ、……ッ」
辺りを見回し、聖クラム太后像の前に、小銃を構えた狐獣人の男が立っているのに気付く。
「……お前か……!」
男は悪びれる様子を微塵も見せず、「チッ」と舌打ちする。
「お前、避けてんじゃねーよ。まだそっちの黒耳は狙ってねーんだっつーの」
「てめえ……、ブリッツェンか!」
マルセロは顔を真っ蒼にし、男をにらみつける。
「ん? ああ、そうとも。あんたらの暗殺を依頼された傭兵チームの頭さぁ」
ロベルトは煙草をくわえながら、ゆらゆらとした足取りで近付いてくる。
「まったく、どいつもこいつも! 揃いも揃ってアホばっかりか! 真正面から攻め込むなんざ、ろくに学も頭も無い一兵卒のやるこった!
もっと楽で一方的で、ちょっとばかしもダメージを受けなくて済む方法がいくらでもあるだろうが! なぁ、イッシオ司令官殿?」
「……~ッ」
ロベルトの態度に、マロンは深い嫌悪感を抱く。そしてそれは、マルセロも同様だったのだろう。
いつも温厚なマルセロが、鬼のような形相でロベルトをにらみつけていた。
「おや、応じていただけない。まあそうか、そりゃそうだ。たった今、仲間を仕留めた奴だもんなぁ」
「てめえ、いい加減にしやがれ……ッ」
マルセロが拳銃を構えたが、ロベルトは意に介していないらしい。
「へっへへ……、そう怒りなさんな。どの道あんたらは、ここで一緒に死ぬ運命だ。どうせ死ぬなら笑って死んだ方が幸せじゃ……」「だまれ」
無意識のうちに、マロンは前に出ていた。
それを見たロベルトが、嘲った笑みを漏らす。
「……はーぁ、つくづくバカだらけでいやがる。たった今言ったばっかりだぜ、真正面から攻め込むなんざ、ってな」
ロベルトは小銃を捨て、背負っていた銃を構えた。
「来いや、茶耳。姉ちゃんの仇、取ってみろや!」
マロンもいつの間にか、ロベルトに向かって駆け出していた。
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幸不幸のコントラスト。
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プレタの突然の告白に、マロンは目を丸くした。
「へえー……」
敵と戦い、死線を潜った直後にするような話では無かったが、それでもマロンはその話を聞き、とても喜んだ。
「良かったじゃない、プレタ! ……良かったのよね?」
「勿論よ。……でも最初は、断ったの。あんな優れた人とあたしじゃ吊り合わないし、あたしは色々やましいことしてるし。そう言って、断ったんだけど」
プレタは顔を赤くし、こう続けた。
「彼はこう言ってくれたの。『過去のことは過去のことだよ。君の過去がどうだろうと、今は私の目の前にいる君がすべてなんだ。だからどうか君も、過去の自分を見つめるだけじゃなく、現在、君の目の前にいる、この私を見てくれないだろうか』って」
「……ん?」
その台詞に、マロンは聞き覚えがあった。
「それ、今回の作戦前にあたしに言ってくれたのと同じじゃない?」
「そう、同じこと言ったわ。
本当にね、あたし、『ああ、これでようやく過去から決別できるんだ』って。ショウがあたしの嫌な過去、全部覆い隠してくれるんだって。舞い上がってた。
……でも、どうしてもこの身に刻まれた技術は、体が覚えてしまってるのよ」
プレタは冗談めかした口調で、こう言った。
「だから腕の一つくらい、目の一つくらい潰さなきゃ、あたしは過去から逃れられない。潰れて使えなくなれば、戦えなくなれば、……もうあたしは『ナミ・サクラ』じゃなくなるはず、って」
「馬鹿言わないでよ」
マロンはプレタの手を振り払い、強引にプレタを治療した。
「あたしの考えは違う。過去は今につながってる。過去を捨てたら、今の自分も保てないわ」
「……やっぱり、違うわね。似てるけれど、やっぱり心の底は、ほんのちょっとだけ違う」
「全部同じだったら、トラス卿の奥さんは2人になっちゃうわ」
「そうね。……ふふ」
「あは……」
二人して笑ったところで、これまで硬直していたマルセロが恐る恐る近付いてくる。
「大丈夫……、じゃないよな」
「そうね。失明したかも。もう真っ向から戦うのは無理ね」
「そんなこと言うなよ……」
どうやらマルセロには、先程の話は聞かれていないらしい。
「いいのよ、もう! こうなっても色々、イイコトあるのよ」
マロンは冗談交じりにトン、とマルセロを押した。
そのほんのわずかの動作が、明暗を分けた。
マロンの目には、プレタが突然ポン、と飛んだように見えた。
「プレタ?」
そして――そのまま倒れ伏し、頭から血が広がっていくのを見て、マロンの頭の中は一瞬、真っ白になった。
「……え? ……えっ、……な、に? どう言う……」
「……う……」
プレタのうめき声が耳に入り、マロンはそこでようやく、状況を理解した。
「……撃たれた!? 一体どこ、……ッ」
辺りを見回し、聖クラム太后像の前に、小銃を構えた狐獣人の男が立っているのに気付く。
「……お前か……!」
男は悪びれる様子を微塵も見せず、「チッ」と舌打ちする。
「お前、避けてんじゃねーよ。まだそっちの黒耳は狙ってねーんだっつーの」
「てめえ……、ブリッツェンか!」
マルセロは顔を真っ蒼にし、男をにらみつける。
「ん? ああ、そうとも。あんたらの暗殺を依頼された傭兵チームの頭さぁ」
ロベルトは煙草をくわえながら、ゆらゆらとした足取りで近付いてくる。
「まったく、どいつもこいつも! 揃いも揃ってアホばっかりか! 真正面から攻め込むなんざ、ろくに学も頭も無い一兵卒のやるこった!
もっと楽で一方的で、ちょっとばかしもダメージを受けなくて済む方法がいくらでもあるだろうが! なぁ、イッシオ司令官殿?」
「……~ッ」
ロベルトの態度に、マロンは深い嫌悪感を抱く。そしてそれは、マルセロも同様だったのだろう。
いつも温厚なマルセロが、鬼のような形相でロベルトをにらみつけていた。
「おや、応じていただけない。まあそうか、そりゃそうだ。たった今、仲間を仕留めた奴だもんなぁ」
「てめえ、いい加減にしやがれ……ッ」
マルセロが拳銃を構えたが、ロベルトは意に介していないらしい。
「へっへへ……、そう怒りなさんな。どの道あんたらは、ここで一緒に死ぬ運命だ。どうせ死ぬなら笑って死んだ方が幸せじゃ……」「だまれ」
無意識のうちに、マロンは前に出ていた。
それを見たロベルトが、嘲った笑みを漏らす。
「……はーぁ、つくづくバカだらけでいやがる。たった今言ったばっかりだぜ、真正面から攻め込むなんざ、ってな」
ロベルトは小銃を捨て、背負っていた銃を構えた。
「来いや、茶耳。姉ちゃんの仇、取ってみろや!」
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