「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・卑狐抄 2
麒麟を巡る話、第238話。
刀と銃。
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2.
鬼気迫る勢いで駆け出したマロンに対し、ロベルトは銃を構えたまま、ニヤニヤと笑っている。
「うぅぅぁぁあああーッ!」
今、マロンの中に、まともな思考は存在しなかった。
喉から出てくる声は最早絶叫であり、言葉の体を成していない。刀を持ってはいても、それは半ば握りしめているだけであり、到底剣士の構え方ではない。
しかし――後ろで見ていたマルセロには、とてつもなく恐ろしいものに感じられた。
「今までになく、……ブチキレてるな」
マルセロはロベルトの出方を伺いつつ、倒れたプレタの様子を確認する。
(……生きてはいる。だが、出血がひどい。右耳がブッ飛んでやがる。右顔面がズタズタになってやがるんだ。
あのクソ野郎め……! よりにもよって、女にヘッドショットかましやがった! 急所を外れてたとは言え、あれじゃ顔面グチャグチャじゃねえか!
下衆がッ……! 何が『楽で一方的で』だ!)
トラス卿の右腕として働いているため、彼がプレタに求婚したことも、マルセロは知っている。
(折角……、折角、二人が幸せになれるかって言う時に! つくづく俺は、人を不幸にしちまう性分らしいぜ。
……せめて、マロン。……そいつをブチのめして、仇を討ってくれ)
マロンとロベルトの距離が詰まり、刀の間合いに差し掛かる。
そこでロベルトが引き金を絞り、仕掛けてきた。
「そらよッ!」
広場にパン、と銃声が響き渡る。だが、すぐ目の前にまで迫っていたマロンは、その初弾をひらりと跳んでかわす。
「……かわしたな!」
マロンが着地したその瞬間、ロベルトは銃の側面に付いていたツマミをひねり、もう一度引き金を絞った。
「これで決まりだ! 死ねやッ!」
しかし激昂していたマロンの反応速度は尋常なものではなく、避けた瞬間刀を構え直し、防御しようとしているのが、マルセロには確認できていた。
(目一杯ギリギリだが……、あの位置なら弾をかわしきりさえすれば、速攻で叩っ斬れる!
行け、マロン! たった一発くらい、お前なら……!)
しかしマルセロの期待を完膚なきまでに、ロベルトは裏切って見せた。
「たった一発だけ」と思っていた銃弾が、何十発も連続で放たれたのだ。
「……!」
弾を一発弾いたが、残りの十数発はそのままマロンへと飛んで行く。
マロンは血しぶきを上げ、石畳を転がって行った。
「なっ……」
「ひっ、ひひひ……、ひゃーはっはっはああっははははーッ!」
硝煙を上げる銃を振り上げ、ロベルトは高笑いする。
「バカめ、大バカめっ、……見事に引っかかってくれたもんだぜ、ひゃはははははあ!
こいつは金火狐の最新鋭戦術兵器、軽機関銃『レイブンレイン』ってんだ。今までのすっとろいボルト式や、たった5発、6発でおしまいのリボルバーなんか目じゃねえ!
まさに『圧倒的火力』って奴さぁ! こいつにかかりゃお前らみてーなゴミ共なんざ、5秒でミンチにしちまえるのさ!」
「……なんだと?」
その言葉に、マルセロの顔は一際蒼くなる。
「まさか……、まさかてめえ」
それに気付いたロベルトが、にやぁ、と下卑た笑いを漏らす。
「ん? ああ、そうさ。A隊は俺が始末した。隊長ごとな」
「……っ」
「おいおい、まだ生きてるなんて思ってたのか? 俺の請けた依頼は『司令と各隊長の暗殺』だぜ? 捕まえたらとっとと殺すに決まってんだろ?
お前、それでも司令官のつもりかよ? どんだけ甘ちゃんなんだ、バカじゃねえのか」
「……~ッ」
マルセロは声にならない、悲痛な叫びをあげた。
だが――。
「……許さない……」
「あん?」
勝ち誇るロベルトの背後にゆらりと立ったのは――紛れも無く、十数発の弾丸を食らって倒れたはずのマロンだった。
「な……、まだ息があったのか!?」
ロベルトはマロンにむけて銃を構える。
「死にぞこないが! 今度こそあの世に送ってやらあ!」
引き金を絞った瞬間、先程と同様に無数の弾丸が放たれる。
「……アンタは……絶対……」
しかし弾が放たれたその瞬間には既に、マロンの姿はそこに無い。いつの間にかまた、ロベルトの背後に回っている。
「な、なんだ!? 速えぇ……!」
余裕綽々だったロベルトの顔に、焦りと恐れが見え始める。
引き金を絞れば、弾は無数に発射される。だがその無数の弾が、一発もマロンを捉えられない。
アドバンテージをあっさり奪われたロベルトは、居丈高から一転、恐慌状態になった。
「くそがッ! 何で当たらねえんだよ!? こいつは金火狐の最新鋭兵器、一分間に120発の弾丸を発射できる、無敵の銃火器なんだぞ!?」
「……」
やがて、ぱぱぱ……、とけたたましい音を立てていた軽機関銃の音が、突然止まる。
「……た、弾、切れ、……く、くそっ」
ロベルトは身を翻し、その場から逃げ出そうとする。
「……逃がすかッ……」
ロベルトの前に、マロンが現れた。
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刀と銃。
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鬼気迫る勢いで駆け出したマロンに対し、ロベルトは銃を構えたまま、ニヤニヤと笑っている。
「うぅぅぁぁあああーッ!」
今、マロンの中に、まともな思考は存在しなかった。
喉から出てくる声は最早絶叫であり、言葉の体を成していない。刀を持ってはいても、それは半ば握りしめているだけであり、到底剣士の構え方ではない。
しかし――後ろで見ていたマルセロには、とてつもなく恐ろしいものに感じられた。
「今までになく、……ブチキレてるな」
マルセロはロベルトの出方を伺いつつ、倒れたプレタの様子を確認する。
(……生きてはいる。だが、出血がひどい。右耳がブッ飛んでやがる。右顔面がズタズタになってやがるんだ。
あのクソ野郎め……! よりにもよって、女にヘッドショットかましやがった! 急所を外れてたとは言え、あれじゃ顔面グチャグチャじゃねえか!
下衆がッ……! 何が『楽で一方的で』だ!)
トラス卿の右腕として働いているため、彼がプレタに求婚したことも、マルセロは知っている。
(折角……、折角、二人が幸せになれるかって言う時に! つくづく俺は、人を不幸にしちまう性分らしいぜ。
……せめて、マロン。……そいつをブチのめして、仇を討ってくれ)
マロンとロベルトの距離が詰まり、刀の間合いに差し掛かる。
そこでロベルトが引き金を絞り、仕掛けてきた。
「そらよッ!」
広場にパン、と銃声が響き渡る。だが、すぐ目の前にまで迫っていたマロンは、その初弾をひらりと跳んでかわす。
「……かわしたな!」
マロンが着地したその瞬間、ロベルトは銃の側面に付いていたツマミをひねり、もう一度引き金を絞った。
「これで決まりだ! 死ねやッ!」
しかし激昂していたマロンの反応速度は尋常なものではなく、避けた瞬間刀を構え直し、防御しようとしているのが、マルセロには確認できていた。
(目一杯ギリギリだが……、あの位置なら弾をかわしきりさえすれば、速攻で叩っ斬れる!
行け、マロン! たった一発くらい、お前なら……!)
しかしマルセロの期待を完膚なきまでに、ロベルトは裏切って見せた。
「たった一発だけ」と思っていた銃弾が、何十発も連続で放たれたのだ。
「……!」
弾を一発弾いたが、残りの十数発はそのままマロンへと飛んで行く。
マロンは血しぶきを上げ、石畳を転がって行った。
「なっ……」
「ひっ、ひひひ……、ひゃーはっはっはああっははははーッ!」
硝煙を上げる銃を振り上げ、ロベルトは高笑いする。
「バカめ、大バカめっ、……見事に引っかかってくれたもんだぜ、ひゃはははははあ!
こいつは金火狐の最新鋭戦術兵器、軽機関銃『レイブンレイン』ってんだ。今までのすっとろいボルト式や、たった5発、6発でおしまいのリボルバーなんか目じゃねえ!
まさに『圧倒的火力』って奴さぁ! こいつにかかりゃお前らみてーなゴミ共なんざ、5秒でミンチにしちまえるのさ!」
「……なんだと?」
その言葉に、マルセロの顔は一際蒼くなる。
「まさか……、まさかてめえ」
それに気付いたロベルトが、にやぁ、と下卑た笑いを漏らす。
「ん? ああ、そうさ。A隊は俺が始末した。隊長ごとな」
「……っ」
「おいおい、まだ生きてるなんて思ってたのか? 俺の請けた依頼は『司令と各隊長の暗殺』だぜ? 捕まえたらとっとと殺すに決まってんだろ?
お前、それでも司令官のつもりかよ? どんだけ甘ちゃんなんだ、バカじゃねえのか」
「……~ッ」
マルセロは声にならない、悲痛な叫びをあげた。
だが――。
「……許さない……」
「あん?」
勝ち誇るロベルトの背後にゆらりと立ったのは――紛れも無く、十数発の弾丸を食らって倒れたはずのマロンだった。
「な……、まだ息があったのか!?」
ロベルトはマロンにむけて銃を構える。
「死にぞこないが! 今度こそあの世に送ってやらあ!」
引き金を絞った瞬間、先程と同様に無数の弾丸が放たれる。
「……アンタは……絶対……」
しかし弾が放たれたその瞬間には既に、マロンの姿はそこに無い。いつの間にかまた、ロベルトの背後に回っている。
「な、なんだ!? 速えぇ……!」
余裕綽々だったロベルトの顔に、焦りと恐れが見え始める。
引き金を絞れば、弾は無数に発射される。だがその無数の弾が、一発もマロンを捉えられない。
アドバンテージをあっさり奪われたロベルトは、居丈高から一転、恐慌状態になった。
「くそがッ! 何で当たらねえんだよ!? こいつは金火狐の最新鋭兵器、一分間に120発の弾丸を発射できる、無敵の銃火器なんだぞ!?」
「……」
やがて、ぱぱぱ……、とけたたましい音を立てていた軽機関銃の音が、突然止まる。
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