「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・卑狐抄 5
麒麟を巡る話、第241話。
邪悪。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「以上です。ご質問は?」
「いや、大丈夫だ。……やはり君に頼んで正解だったようだな」
「そりゃどうも」
天帝教直轄領、マーソル。
セブロ市国から逃げおおせたロベルトは、依頼主であるセドリック・アストン大司教に帰還報告を行っていた。
「残念ながらイッシオ司令官とミニーノ妹の方は仕留め損ないましたが、それでもこれだけ引っかき回せば再起不能でしょう。
裏の話ゆえ、市場にはまだ目に見えるような影響は出ていない模様ですが、いずれコノンは価値を落とさざるを得んでしょうな。如何にトラス侯が辣腕の経済家といえど、キレイゴトのみで市場に介入・牽引することは不可能。
最早クラム相場に不安要素はございませんな」
「君に言われなくても分かっていることだ」
大司教はフンと鼻を鳴らし、卓上にかばんをどさどさと置いた。
「これが報酬だ。受け取り次第、速やかに退去してくれ」
「ええ、ええ、勿論ですとも。じゃ」
ロベルトはかばんを脇に抱え、そそくさと大司教の前から去った。
(まったく狸ジジイだな。終わったらハイそれまで、ってか。
ま、分からんでもないさ。やんごとなきご身分でいたいから、俺のような下賤の人間とは一分一秒でも一緒にいたくない、いるところを見られたくないってわけだ。
……けっ)
心の中でブチブチと文句を言いながら、ロベルトは教皇庁を後にする。
と、外に出て間もなく、帽子に仕込んでいた通信用の魔法陣から、仲間の声が聞こえてきた。
《ブリッツェン様》
「おう、シェベル。どうした?」
《間も無く到着するようです》
「そうか。こっちも今、受け取ったところだ。
後はさっさと離れるだけだ。迎えに来てくれ」
《かしこまりました》
次の瞬間、目の前にシェベルが現れる。
「よう、ご苦労」
ロベルトはシェベルの手を取り、ニヤ、と笑う。
「まあ、なんだ。このままアジトに引っ込んでもいいが、……どうよ?」
「どう、とは」
「ちょっと央中にでも飛んで、うまいもんでも食わないか?」
「ブリッツェン様、お忘れでございますか」
シェベルは大仰に肩をすくめ、こう返した。
「わたくしは人形でございますよ」
「分かってら、んなことは。食いもんなんか口実だっつーの」
「重ねて申しますが、……もご」
反論しかけたシェベルの口を、ロベルトは強引にキスをして塞いだ。
「下手に生身の女を相手するより、人形のお前さんの方がよっぽどマシってもんだ。
文句は言わない、クソ高いだけのかばんやら靴やら欲しがらない、浮気もしない。極めつけは俺の『お願い』に、なーんでも答えてくれちゃうしな」
「わたくしがあなた様に付き従うのは、主様のご命令に従っているからでございます。
もし主様に『あなた様を殺せ』と命じられた場合には、わたくしは即座にあなた様の心臓を千切り棄てるでしょう」
「命じられた場合には、だろ? じゃあそれまで、お前さんは俺の所有物だ」
「……」
黙り込んだシェベルに構わず、ロベルトは命令した。
「つーわけでだ、市国に飛んでくれ。ゆーっくりお楽しみと行こうぜ」
「……かしこまりました」
ロベルトを見送った途端、アストン大司教は大急ぎで洗面所に向かい、手を洗っていた。
「ああ、汚い……! 奴のヤニ臭い手に触れてしまった! 怖気が走るわい」
手が赤くなるまでじゃぶじゃぶと洗い流し、ようやく手を拭いたところで、大司教の背後から僧侶が声をかけた。
「こちらにいらっしゃったのですね、聖下」
「うん? 何の用だ?」
「カメオ・タイムズ枢機卿がお呼びです。至急、いつもの議事堂に来るようにと」
「ふむ……?」
カメオ枢機卿とは彼の上司に当たる人物であり、即ち「天政会」の最高責任者である。
「まだ定例会も中間報告も先だが……、至急とは一体何だ?」
「分かりません。とにかくすぐ来るように、と」
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「以上です。ご質問は?」
「いや、大丈夫だ。……やはり君に頼んで正解だったようだな」
「そりゃどうも」
天帝教直轄領、マーソル。
セブロ市国から逃げおおせたロベルトは、依頼主であるセドリック・アストン大司教に帰還報告を行っていた。
「残念ながらイッシオ司令官とミニーノ妹の方は仕留め損ないましたが、それでもこれだけ引っかき回せば再起不能でしょう。
裏の話ゆえ、市場にはまだ目に見えるような影響は出ていない模様ですが、いずれコノンは価値を落とさざるを得んでしょうな。如何にトラス侯が辣腕の経済家といえど、キレイゴトのみで市場に介入・牽引することは不可能。
最早クラム相場に不安要素はございませんな」
「君に言われなくても分かっていることだ」
大司教はフンと鼻を鳴らし、卓上にかばんをどさどさと置いた。
「これが報酬だ。受け取り次第、速やかに退去してくれ」
「ええ、ええ、勿論ですとも。じゃ」
ロベルトはかばんを脇に抱え、そそくさと大司教の前から去った。
(まったく狸ジジイだな。終わったらハイそれまで、ってか。
ま、分からんでもないさ。やんごとなきご身分でいたいから、俺のような下賤の人間とは一分一秒でも一緒にいたくない、いるところを見られたくないってわけだ。
……けっ)
心の中でブチブチと文句を言いながら、ロベルトは教皇庁を後にする。
と、外に出て間もなく、帽子に仕込んでいた通信用の魔法陣から、仲間の声が聞こえてきた。
《ブリッツェン様》
「おう、シェベル。どうした?」
《間も無く到着するようです》
「そうか。こっちも今、受け取ったところだ。
後はさっさと離れるだけだ。迎えに来てくれ」
《かしこまりました》
次の瞬間、目の前にシェベルが現れる。
「よう、ご苦労」
ロベルトはシェベルの手を取り、ニヤ、と笑う。
「まあ、なんだ。このままアジトに引っ込んでもいいが、……どうよ?」
「どう、とは」
「ちょっと央中にでも飛んで、うまいもんでも食わないか?」
「ブリッツェン様、お忘れでございますか」
シェベルは大仰に肩をすくめ、こう返した。
「わたくしは人形でございますよ」
「分かってら、んなことは。食いもんなんか口実だっつーの」
「重ねて申しますが、……もご」
反論しかけたシェベルの口を、ロベルトは強引にキスをして塞いだ。
「下手に生身の女を相手するより、人形のお前さんの方がよっぽどマシってもんだ。
文句は言わない、クソ高いだけのかばんやら靴やら欲しがらない、浮気もしない。極めつけは俺の『お願い』に、なーんでも答えてくれちゃうしな」
「わたくしがあなた様に付き従うのは、主様のご命令に従っているからでございます。
もし主様に『あなた様を殺せ』と命じられた場合には、わたくしは即座にあなた様の心臓を千切り棄てるでしょう」
「命じられた場合には、だろ? じゃあそれまで、お前さんは俺の所有物だ」
「……」
黙り込んだシェベルに構わず、ロベルトは命令した。
「つーわけでだ、市国に飛んでくれ。ゆーっくりお楽しみと行こうぜ」
「……かしこまりました」
ロベルトを見送った途端、アストン大司教は大急ぎで洗面所に向かい、手を洗っていた。
「ああ、汚い……! 奴のヤニ臭い手に触れてしまった! 怖気が走るわい」
手が赤くなるまでじゃぶじゃぶと洗い流し、ようやく手を拭いたところで、大司教の背後から僧侶が声をかけた。
「こちらにいらっしゃったのですね、聖下」
「うん? 何の用だ?」
「カメオ・タイムズ枢機卿がお呼びです。至急、いつもの議事堂に来るようにと」
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「分かりません。とにかくすぐ来るように、と」
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2014.06.14 修正
2014.06.14 修正



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