「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・卑狐抄 6
麒麟を巡る話、第242話。
巨魁の尻尾切り。
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6.
議事堂にやってきたアストン大司教を出迎えたのは、呼んだ張本人であるカメオ枢機卿と、赤いメッシュの入った金髪の狐獣人――明らかに金火狐一族と分かる、40代前半くらいの男性だった。
「やっと来てくれたか、卿」
「あ……、はい。遅くなりまして」
二人の目は、明らかに怒りを帯びている。背筋にひやりとしたものを感じながらも、大司教は卓に着いた。
「枢機卿、至急とのことでしたが……、何があったのでしょうか」
「それは君からの説明がほしいな」
「はい……?」
怒りに満ちた目でそう返してきた枢機卿に、大司教は怪訝な顔をするしかない。
「とぼけられても困りますな」
と、狐獣人の男が口を開く。
「アンタ、ちょっとばかりえげつないんとちゃいますか」
「え? と、言うと?」
「ウチらの家訓の話になりますけどな」
狐獣人はキッと大司教をにらみつけ、こう続ける。
「『戦争は起こすな。戦争してたらさっさと止めさせろ』ちゅうのんがありますのんや。
ウチら金火狐一族にとって、この家訓ちゅうもんは――まあ、央北天帝教さんの前でこんなん言うのはアレですけども――アンタらの聖書に等しいもんなんですわ。
いや、ウチら一族だけやない。この家訓は『央中天帝教』の教えに等しいもんや。アンタは聖書の教えに背くワケに行かんでしょ? それはウチらかて同じことなんですわ」
「あの……、仰る意味が分かりかねるのですが」
「まだ白を切るつもりですか? よくよく面の皮が厚いようですな、おたくさん。
……ほれ」
狐獣人が背後を向き、手を叩く。
それに応じる形でスーツ姿の人間が数名現れ、頭に黒い布袋を被せられた狐獣人を引っ張ってきた。
「……!?」
その狐獣人の顔こそ見えなかったが、その身なりと尻尾で、大司教にはそれが誰なのか察せられた。
「お分かりの通り、このアホはカーウィン・ベント・ゴールドマン。アンタのパトロンしとった奴ですわ。
もう一度言いますけども、ウチらにとって戦争は早よ収めるべきもんであって、それで金儲けしたり、ましてや自分から起こしては決してアカンもんなんです。それをこのアホは、やってしまいおったわけですな」
「……」
布を被せられたままのカーウィン氏の尻尾が、情けなさげに垂れる。
「はっきり言わせてもらいましょか。アンタ、このアホからじゃんじゃん金もろて、『新央北』さんとドンパチやっとったそうやないですか。それは戦争って言うんやないですか?」
「い、いや、そこまでは」
大司教が反論する前に、枢機卿が黙らせた。
「言い訳をしないでもらいたい、セドリック・アストン大司教。私も君が、聖職者にあるまじき所業を繰り返していたことは、はっきりと知っているのだ。
このことが公になれば、私も彼も、少なからず醜聞にさいなまれることとなる。それは政治的・経済的に、両者とも避けたいことだ。
そこで彼と共に相談したのが」
大司教の目の前が真っ暗になる。
「うっ……!?」
彼も黒い布袋を被せられ、椅子から引きはがされた。
「君とカーウィン氏に、別の事件を起こしてその矛先を変えてもらうつもりだ。
罪状は、そうだな……、横領および国家騒乱と言うところか。実際、カーウィン氏は金火狐商会の金をくすねていたそうだし、君も数ヶ国に渡って天帝教の威を笠に着た、国家的な買収行為を行っていた。私の許可を得ずにな」
「いや、そんな……! 私はせいぜい、『新央北』に武力で対抗した程度のことしか……! そんな事実は……!」
「無いと言うのかね? 金火公安に調べてもらい、その事実はとっくの昔に突きとめてあるのだよ。今現在、君の資産は数千万エルに上るそうではないか。まるで君の帝国を作ろうと言う勢いだ!」
「い、いや、ですからそんなものは……あるはずが……」
「いいかね、何度も言ってきたことだが、我々『天政会』はひとえに天帝一族、そして天帝教の興隆のためにある組織だ。決して君たち二人の私腹を肥やすためにあるのではない!」
「ま、そんなわけですわ。
と言うわけで、後はよろしゅう」
大司教とカーウィン氏は、そのままどこかへと引きずられていった。
その後の二人については、よくある「尻尾切り」の展開となったし、末路もおおよその想像がつくものであるから、割愛する。
割愛するもう一つの理由は――こうまで阿漕な偽装工作を仕掛けてなお、二人の悪事が公然に露見し、結局のところ、二人は犬死にとなったからである。
枢機卿と金火狐総帥が回避しようとしていた、両組織に対する世論の悪化は、そのまま経済に打撃を与えた。
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巨魁の尻尾切り。
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議事堂にやってきたアストン大司教を出迎えたのは、呼んだ張本人であるカメオ枢機卿と、赤いメッシュの入った金髪の狐獣人――明らかに金火狐一族と分かる、40代前半くらいの男性だった。
「やっと来てくれたか、卿」
「あ……、はい。遅くなりまして」
二人の目は、明らかに怒りを帯びている。背筋にひやりとしたものを感じながらも、大司教は卓に着いた。
「枢機卿、至急とのことでしたが……、何があったのでしょうか」
「それは君からの説明がほしいな」
「はい……?」
怒りに満ちた目でそう返してきた枢機卿に、大司教は怪訝な顔をするしかない。
「とぼけられても困りますな」
と、狐獣人の男が口を開く。
「アンタ、ちょっとばかりえげつないんとちゃいますか」
「え? と、言うと?」
「ウチらの家訓の話になりますけどな」
狐獣人はキッと大司教をにらみつけ、こう続ける。
「『戦争は起こすな。戦争してたらさっさと止めさせろ』ちゅうのんがありますのんや。
ウチら金火狐一族にとって、この家訓ちゅうもんは――まあ、央北天帝教さんの前でこんなん言うのはアレですけども――アンタらの聖書に等しいもんなんですわ。
いや、ウチら一族だけやない。この家訓は『央中天帝教』の教えに等しいもんや。アンタは聖書の教えに背くワケに行かんでしょ? それはウチらかて同じことなんですわ」
「あの……、仰る意味が分かりかねるのですが」
「まだ白を切るつもりですか? よくよく面の皮が厚いようですな、おたくさん。
……ほれ」
狐獣人が背後を向き、手を叩く。
それに応じる形でスーツ姿の人間が数名現れ、頭に黒い布袋を被せられた狐獣人を引っ張ってきた。
「……!?」
その狐獣人の顔こそ見えなかったが、その身なりと尻尾で、大司教にはそれが誰なのか察せられた。
「お分かりの通り、このアホはカーウィン・ベント・ゴールドマン。アンタのパトロンしとった奴ですわ。
もう一度言いますけども、ウチらにとって戦争は早よ収めるべきもんであって、それで金儲けしたり、ましてや自分から起こしては決してアカンもんなんです。それをこのアホは、やってしまいおったわけですな」
「……」
布を被せられたままのカーウィン氏の尻尾が、情けなさげに垂れる。
「はっきり言わせてもらいましょか。アンタ、このアホからじゃんじゃん金もろて、『新央北』さんとドンパチやっとったそうやないですか。それは戦争って言うんやないですか?」
「い、いや、そこまでは」
大司教が反論する前に、枢機卿が黙らせた。
「言い訳をしないでもらいたい、セドリック・アストン大司教。私も君が、聖職者にあるまじき所業を繰り返していたことは、はっきりと知っているのだ。
このことが公になれば、私も彼も、少なからず醜聞にさいなまれることとなる。それは政治的・経済的に、両者とも避けたいことだ。
そこで彼と共に相談したのが」
大司教の目の前が真っ暗になる。
「うっ……!?」
彼も黒い布袋を被せられ、椅子から引きはがされた。
「君とカーウィン氏に、別の事件を起こしてその矛先を変えてもらうつもりだ。
罪状は、そうだな……、横領および国家騒乱と言うところか。実際、カーウィン氏は金火狐商会の金をくすねていたそうだし、君も数ヶ国に渡って天帝教の威を笠に着た、国家的な買収行為を行っていた。私の許可を得ずにな」
「いや、そんな……! 私はせいぜい、『新央北』に武力で対抗した程度のことしか……! そんな事実は……!」
「無いと言うのかね? 金火公安に調べてもらい、その事実はとっくの昔に突きとめてあるのだよ。今現在、君の資産は数千万エルに上るそうではないか。まるで君の帝国を作ろうと言う勢いだ!」
「い、いや、ですからそんなものは……あるはずが……」
「いいかね、何度も言ってきたことだが、我々『天政会』はひとえに天帝一族、そして天帝教の興隆のためにある組織だ。決して君たち二人の私腹を肥やすためにあるのではない!」
「ま、そんなわけですわ。
と言うわけで、後はよろしゅう」
大司教とカーウィン氏は、そのままどこかへと引きずられていった。
その後の二人については、よくある「尻尾切り」の展開となったし、末路もおおよその想像がつくものであるから、割愛する。
割愛するもう一つの理由は――こうまで阿漕な偽装工作を仕掛けてなお、二人の悪事が公然に露見し、結局のところ、二人は犬死にとなったからである。
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