「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・卑狐抄 7
麒麟を巡る話、第243話。
ある政変。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
数年前、ヘブン王国。
長年の財政不安と大不況により、この国の政情は非常に不安定になっていた。この現状を打破しようと幾度も会議や交渉が重ねられたが、何度話し合っても明確かつ効果的な答えが出ることは無く――そして決裂した。
他国と親密な関係を結び、経済循環を活発化しようと考えた大臣および内閣は、王子を抱え込む形で造反。一方、他国との関係にあくまで一線を画し、通貨発行元・管理国としての地位を維持したいと考えていた女王は軍部を味方に付け、この造反を収めようとした。
乱暴ながらも、力で抑え込むことができるかと思われたこの騒動は――たった一人の将校によって、思いもよらない結果へと向かった。
その将校は貧窮していた兵卒らを扇動し、王子派に引き入れたのである。これにより女王派は反乱を抑え付ける側から一転、それを実行するはずだった兵士たちに追い回されることとなった。
その、扇動を行った将校の名は――。
「ロベルト……、てめえ……」
女王をかばい、胸に銃弾を受けた狐獣人は、血をボタボタと吐き出しながら、自分を銃撃した青年をにらみつけた。
「ここまで……やる……かよ……」
うつ伏せに倒れ、そのまま動かなくなったのを確認し、ロベルトはニヤ、と笑う。
「悪いな、親父。色々あんだよ」
ロベルトは小銃を女王に向け、慇懃無礼に振る舞う。
「ご機嫌麗しゅう、女王陛下。小生から二つほどお願いがあります。
一つ、速やかに投降し、この内戦を決着させていただきたい。そしてもう一つ、王位を殿下に譲り、隠居していただきたい。
この二つのお願いをどうかお聞き下さいませ。でなければ小生は、陛下のご玉体に深い深い傷を付けねばなりません」
女王はしばらく黙り込んでいたが、やがて答えた。
「……いいでしょう。おやりなさい」
「へぇ……、本当にいいのかよ?」
「むざむざと生き永らえてまで、この国が滅んでいく様子など、私は見たくありません。それに先立たれた夫の元へようやく逝けると言うのならば、本望です。
どうぞ、撃ちなさい」
女王の頑なで毅然とした態度を、ロベルトは「ヘッ」と嘲笑って見せた。
「じゃあ、お望み通り……」
ロベルトは銃を構え、何の呵責も感じることなく――引き金を絞った。
「逝っちまいな、おばはん」
ヘブン王国の内戦は、王子派の勝利で幕を閉じた。
しかし本来ならば勝利を導き、賞賛されたであろうロベルトに対し、新国王となった王子は莫大な懸賞金をかけ、討伐命令を下した。
何故なら王子にとって彼は、自分の母を撃ち殺した憎き仇だったからである。
しかし命令が出る頃には既に、ロベルトは王国を離れていた。
「バカ王子め、誰のおかげでその椅子に座ってられると思ってんだか。『ブランカ』もそう思わねえか?」
「仰る通りでございます」
ロベルトは自分に策を授けた真っ白なローブの女性と会い、報告を行っていた。
「あんたに言われた通りに事を運んだが、これでいいんだな?」
「ええ。それではお約束の品をお渡しします」
「ブランカ」は背後に立たせていた「シェベル」に命じ、ロベルトの前にごと、ごとと音を立ててかばんを置かせた。
「まず、300万エル。そして今後、あなた様にご依頼する仕事のサポート役として、この『シェベル』をお貸しいたします」
「へへ……、そりゃどうも。ところで『ブランカ』、こいつは……」
シェベルを指差し、ニヤニヤしているロベルトに、「ブランカ」は大仰にうなずいた。
「ええ、ええ。わたくしからの命令に背かない限り、あなた様のどんな命令でも聞くように申し付けてございます」
「ほう」
ロベルトはそれを聞き、一瞬の間を置いてまた、ニヤリと下卑た笑いを浮かべた。
「どんな命令でも、……ね」
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ある政変。
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数年前、ヘブン王国。
長年の財政不安と大不況により、この国の政情は非常に不安定になっていた。この現状を打破しようと幾度も会議や交渉が重ねられたが、何度話し合っても明確かつ効果的な答えが出ることは無く――そして決裂した。
他国と親密な関係を結び、経済循環を活発化しようと考えた大臣および内閣は、王子を抱え込む形で造反。一方、他国との関係にあくまで一線を画し、通貨発行元・管理国としての地位を維持したいと考えていた女王は軍部を味方に付け、この造反を収めようとした。
乱暴ながらも、力で抑え込むことができるかと思われたこの騒動は――たった一人の将校によって、思いもよらない結果へと向かった。
その将校は貧窮していた兵卒らを扇動し、王子派に引き入れたのである。これにより女王派は反乱を抑え付ける側から一転、それを実行するはずだった兵士たちに追い回されることとなった。
その、扇動を行った将校の名は――。
「ロベルト……、てめえ……」
女王をかばい、胸に銃弾を受けた狐獣人は、血をボタボタと吐き出しながら、自分を銃撃した青年をにらみつけた。
「ここまで……やる……かよ……」
うつ伏せに倒れ、そのまま動かなくなったのを確認し、ロベルトはニヤ、と笑う。
「悪いな、親父。色々あんだよ」
ロベルトは小銃を女王に向け、慇懃無礼に振る舞う。
「ご機嫌麗しゅう、女王陛下。小生から二つほどお願いがあります。
一つ、速やかに投降し、この内戦を決着させていただきたい。そしてもう一つ、王位を殿下に譲り、隠居していただきたい。
この二つのお願いをどうかお聞き下さいませ。でなければ小生は、陛下のご玉体に深い深い傷を付けねばなりません」
女王はしばらく黙り込んでいたが、やがて答えた。
「……いいでしょう。おやりなさい」
「へぇ……、本当にいいのかよ?」
「むざむざと生き永らえてまで、この国が滅んでいく様子など、私は見たくありません。それに先立たれた夫の元へようやく逝けると言うのならば、本望です。
どうぞ、撃ちなさい」
女王の頑なで毅然とした態度を、ロベルトは「ヘッ」と嘲笑って見せた。
「じゃあ、お望み通り……」
ロベルトは銃を構え、何の呵責も感じることなく――引き金を絞った。
「逝っちまいな、おばはん」
ヘブン王国の内戦は、王子派の勝利で幕を閉じた。
しかし本来ならば勝利を導き、賞賛されたであろうロベルトに対し、新国王となった王子は莫大な懸賞金をかけ、討伐命令を下した。
何故なら王子にとって彼は、自分の母を撃ち殺した憎き仇だったからである。
しかし命令が出る頃には既に、ロベルトは王国を離れていた。
「バカ王子め、誰のおかげでその椅子に座ってられると思ってんだか。『ブランカ』もそう思わねえか?」
「仰る通りでございます」
ロベルトは自分に策を授けた真っ白なローブの女性と会い、報告を行っていた。
「あんたに言われた通りに事を運んだが、これでいいんだな?」
「ええ。それではお約束の品をお渡しします」
「ブランカ」は背後に立たせていた「シェベル」に命じ、ロベルトの前にごと、ごとと音を立ててかばんを置かせた。
「まず、300万エル。そして今後、あなた様にご依頼する仕事のサポート役として、この『シェベル』をお貸しいたします」
「へへ……、そりゃどうも。ところで『ブランカ』、こいつは……」
シェベルを指差し、ニヤニヤしているロベルトに、「ブランカ」は大仰にうなずいた。
「ええ、ええ。わたくしからの命令に背かない限り、あなた様のどんな命令でも聞くように申し付けてございます」
「ほう」
ロベルトはそれを聞き、一瞬の間を置いてまた、ニヤリと下卑た笑いを浮かべた。
「どんな命令でも、……ね」
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2014.06.14 修正
2014.06.14 修正



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