「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・卑狐抄 8
麒麟を巡る話、第244話。
小悪、大悪に呑まれる。
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8.
時間は再び、現在。
「へえ……! じゃあ『ブランカ』、あんたはこれからとんでもない額を稼げるってわけか」
「ええ」
央北に戻ってきたロベルトは再び、シェベルの主人である「ブランカ」と出会っていた。
「現在、世界の二大通貨として流通している央南玄銭と央中エル。
その片方、玄銭は央南の政情不安のせいで、ここ数年の間、右肩下がりとなっております。となればエルの一人勝ち、となるところですが」
「あんたの『工作』のせいで金火狐財団、そしてそこ率いる市国、ひいてはそれを中心とする央中の信用はガタ落ちになる。そうなりゃエルだって無事じゃいられねえよな」
「玄とエルの暴落が起これば、オリジナル・クラム崩壊以来の世界的恐慌が起こることは必須。そうなれば相対的に、他地域の通貨へと信用、そして投資が向かうことになります。
その中でも特に高騰が期待されるのは、西方のシュッド(南部)・キュー。近年の産業振興政策が功を奏し、空前の好況となっているそうですから」
「……で? あんた、いくら稼ぐつもりなんだ?」
この質問に対し、「ブランカ」はわずかに見える口元を薄く歪ませて答える。
「あなたの祖国を3、4回は買える程度、でございましょうか」
「はっは、そりゃすげえ」
「さて」
「ブランカ」はロベルトの背後に立っていたシェベルに声をかける。
「お前からの連絡、確かに魅力的でした」
「はい、主様」
「……ん? 連絡って?」
「素晴らしい素体と思われます。是非とも主様に献上いたしたく存じます」
「彼女は今どこに?」
自分を無視して頭の上で会話を交わされたため、ロベルトは不機嫌になる。
「なんだよ、おい? 何の話してんだっつの」
「恐らくでございますが、ブリッツェン様を狙いに来られるものと思われます。いたく恨みを抱いておられますでしょうから」
「なるほど。ではインパラに案内させ、こちらまでご足労いただきましょうか」
「仰せのままに」
自分には見せない、恭しい礼をしたシェベルに対し、ロベルトは舌打ちした。
「ちぇ、ガン無視かよ」
「ところで主様、お願いがございます」
「言ってみなさい」
「この有象無象を、わたくしの好きにさせていただきたいのです。
これ以上生かす価値は無いものと思われるのですが、いかがでしょうか」
「ふむ」
妙なことを言うシェベルに、ロベルトは怪訝な表情を浮かべた。
「そりゃ、どう言う……」
ロベルトが尋ね終らないうちに、「ブランカ」は承諾した。
「許可しましょう」
「ありがとうございます、主様」
次の瞬間――ロベルトの背中から胸へ向けて、シェベルは腕を突き込んだ。
「……」
ロベルトの血を体中に浴びながら、シェベルはうっすら笑っている。
「珍しい。お前がそんな風に笑うとは」
「クスクスクスクス……、大変、喜悦至極にございますもので」
ごとん、と音を立てて倒れたロベルトの体を、シェベルは微笑みながら踏みつけた。
「これで長年の鬱憤が晴れました。……本当に、胸のつかえが取れたと申しましょうか」
「つくづく、お前は面白いことを言いますね」
「ブランカ」――いや、あの「白い妖魔」克難訓はシェベルの前にゆらりと立ち、血に濡れたその顔を、不思議そうに見つめる。
「そこまで精巧に作ったつもりは無いのですが」
「人形といえど、経験を積めばわずかながらも感情を手にできるようです」
「ふむ」
難訓はしばらくじい……っ、とシェベルを見つめた後、ぷい、と背を向けた。どうやら興味を失ったらしい。
「体を洗いなさい。生臭いです」
「かしこまりました」
「それからインパラに連絡しなさい。そのマロン・ミニーノと言う『猫』は、是非手に入れたいですからね」
「既に連絡済でございます」
「……」
くる、と難訓がもう一度、シェベルに振り向く。
「シェベル」
「はい」
次の瞬間――シェベルの顔面にひびが走った。
「あゥ……っ」
バランスを崩し、座り込んだシェベルの頭を、難訓はもう一度杖で殴りつける。
「わたくしの命令を聞け、と言ってあるはず。何故、わたくしが命令する前に行ったのです」
「も……、もウしわケ、ござイません」
顔を割られ、シェベルの声はガクガクと揺れたものになる。
「聞いているのです。何故、わたくしが命令する前に行ったのです」
「あるジ様のお手を、わズらわせナいようにト思い」
「わたくしの怒りを買うとは思わなかったのですか」
「申シ訳ゴざいマせん」
「また同じことをした時には、容赦なくその頭を砕きます。忘れぬように」
「はい……」
平伏したシェベルにもう一度背を向け、難訓は命じた。
「インパラがこちらに着き次第、わたくしに連絡しなさい」
「かしコまりまシた」
シェベルが顔を挙げた時には既に、難訓の姿は無かった。
「……」
座り込んだまま、シェベルは辺りを見回す。
「……」
顔からはがれ落ちた欠片を拾い集め、自分の顔に戻しながら、シェベルはロベルトの死体を一瞥した。
「……」
魔術を使い顔を修復したところで、シェベルはその死体を抱きかかえ、外に出た。
「……さようなら」
シェベルは裏庭に穴を掘り、そこにロベルトを埋めた。
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小悪、大悪に呑まれる。
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時間は再び、現在。
「へえ……! じゃあ『ブランカ』、あんたはこれからとんでもない額を稼げるってわけか」
「ええ」
央北に戻ってきたロベルトは再び、シェベルの主人である「ブランカ」と出会っていた。
「現在、世界の二大通貨として流通している央南玄銭と央中エル。
その片方、玄銭は央南の政情不安のせいで、ここ数年の間、右肩下がりとなっております。となればエルの一人勝ち、となるところですが」
「あんたの『工作』のせいで金火狐財団、そしてそこ率いる市国、ひいてはそれを中心とする央中の信用はガタ落ちになる。そうなりゃエルだって無事じゃいられねえよな」
「玄とエルの暴落が起これば、オリジナル・クラム崩壊以来の世界的恐慌が起こることは必須。そうなれば相対的に、他地域の通貨へと信用、そして投資が向かうことになります。
その中でも特に高騰が期待されるのは、西方のシュッド(南部)・キュー。近年の産業振興政策が功を奏し、空前の好況となっているそうですから」
「……で? あんた、いくら稼ぐつもりなんだ?」
この質問に対し、「ブランカ」はわずかに見える口元を薄く歪ませて答える。
「あなたの祖国を3、4回は買える程度、でございましょうか」
「はっは、そりゃすげえ」
「さて」
「ブランカ」はロベルトの背後に立っていたシェベルに声をかける。
「お前からの連絡、確かに魅力的でした」
「はい、主様」
「……ん? 連絡って?」
「素晴らしい素体と思われます。是非とも主様に献上いたしたく存じます」
「彼女は今どこに?」
自分を無視して頭の上で会話を交わされたため、ロベルトは不機嫌になる。
「なんだよ、おい? 何の話してんだっつの」
「恐らくでございますが、ブリッツェン様を狙いに来られるものと思われます。いたく恨みを抱いておられますでしょうから」
「なるほど。ではインパラに案内させ、こちらまでご足労いただきましょうか」
「仰せのままに」
自分には見せない、恭しい礼をしたシェベルに対し、ロベルトは舌打ちした。
「ちぇ、ガン無視かよ」
「ところで主様、お願いがございます」
「言ってみなさい」
「この有象無象を、わたくしの好きにさせていただきたいのです。
これ以上生かす価値は無いものと思われるのですが、いかがでしょうか」
「ふむ」
妙なことを言うシェベルに、ロベルトは怪訝な表情を浮かべた。
「そりゃ、どう言う……」
ロベルトが尋ね終らないうちに、「ブランカ」は承諾した。
「許可しましょう」
「ありがとうございます、主様」
次の瞬間――ロベルトの背中から胸へ向けて、シェベルは腕を突き込んだ。
「……」
ロベルトの血を体中に浴びながら、シェベルはうっすら笑っている。
「珍しい。お前がそんな風に笑うとは」
「クスクスクスクス……、大変、喜悦至極にございますもので」
ごとん、と音を立てて倒れたロベルトの体を、シェベルは微笑みながら踏みつけた。
「これで長年の鬱憤が晴れました。……本当に、胸のつかえが取れたと申しましょうか」
「つくづく、お前は面白いことを言いますね」
「ブランカ」――いや、あの「白い妖魔」克難訓はシェベルの前にゆらりと立ち、血に濡れたその顔を、不思議そうに見つめる。
「そこまで精巧に作ったつもりは無いのですが」
「人形といえど、経験を積めばわずかながらも感情を手にできるようです」
「ふむ」
難訓はしばらくじい……っ、とシェベルを見つめた後、ぷい、と背を向けた。どうやら興味を失ったらしい。
「体を洗いなさい。生臭いです」
「かしこまりました」
「それからインパラに連絡しなさい。そのマロン・ミニーノと言う『猫』は、是非手に入れたいですからね」
「既に連絡済でございます」
「……」
くる、と難訓がもう一度、シェベルに振り向く。
「シェベル」
「はい」
次の瞬間――シェベルの顔面にひびが走った。
「あゥ……っ」
バランスを崩し、座り込んだシェベルの頭を、難訓はもう一度杖で殴りつける。
「わたくしの命令を聞け、と言ってあるはず。何故、わたくしが命令する前に行ったのです」
「も……、もウしわケ、ござイません」
顔を割られ、シェベルの声はガクガクと揺れたものになる。
「聞いているのです。何故、わたくしが命令する前に行ったのです」
「あるジ様のお手を、わズらわせナいようにト思い」
「わたくしの怒りを買うとは思わなかったのですか」
「申シ訳ゴざいマせん」
「また同じことをした時には、容赦なくその頭を砕きます。忘れぬように」
「はい……」
平伏したシェベルにもう一度背を向け、難訓は命じた。
「インパラがこちらに着き次第、わたくしに連絡しなさい」
「かしコまりまシた」
シェベルが顔を挙げた時には既に、難訓の姿は無かった。
「……」
座り込んだまま、シェベルは辺りを見回す。
「……」
顔からはがれ落ちた欠片を拾い集め、自分の顔に戻しながら、シェベルはロベルトの死体を一瞥した。
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「……さようなら」
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2014.06.14 修正
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